第6話 幼稚園=悲劇

 あれから更に二年が経った。

 鍛錬を始めてから特に代わり映えのない…………嘘、三日に一回のペースでさとちゃんと遊んでいる。ニート生活最高! と、言うのは半分冗談です。ホントだよ?


 朝の鍛錬は相変わらず続けている。そのおかげかかなり身体が柔らかくなった。前世で出来なかった開脚前屈ができるなんて……!

 それに走り込みをやった影響かことが確認できた。やはり二年続けてるだけあって成長を感じられるな! …………な訳あるかい!


 五歳児が比喩でもなんでもなく丸一日走っても疲れないってどんな体力おばけになってんの俺の身体?

 それに目隠しも目隠しだよ。着けた当初からだけど何でちゃんと歩けてるの? これが原作の強制力ってか? やかましいわ。


「くすちゃんくすちゃん。今日から幼稚園だね〜。友達いっぱい欲しいな〜」

「さとちゃんならきっと出来るよ」


 まぁ俺はこの幼稚園で誰が入園するのかある程度分かるからな。

 具体的な描写は無いが、『おわまえ』シリーズ作中に来栖音と覚、そしてあるが同じ幼稚園で生活していた過去がある。


 つまり再び外伝キャラクターに会えるのだ!

 悪いなさとちゃん。俺は外面には出てないがさとちゃんよりも楽しみでワクワクしている!


 さあ、ドンと来い戦場いくさば幼稚園よ! 精神年齢二十歳以上の大人の余裕を見せてやるぞ。


 目的の戦場幼稚園までかなり近づいた。それ故か園児達の姿もちらほらいる。


「くすちゃんくすちゃん。友達になれそうな子が沢山いるね〜」

「うん、とっても楽しみ」


 いやー幼い頃のさとちゃんも良いけど彼女たちの幼少期をこの目に焼き付けられるなんてこればっかりは転生して良かったか?


「あ、さとちゃん見て。ソメイヨシノが咲いているよ」

「ほんとだ〜! きれ〜。わたしたちの始まりを迎えてくれてるみたいだ〜」


 ソメイヨシノは俺が前世で生きていた日本で栽培されていた桜の一種でこの季節の代表的な花だ。

 この世界『おわはて』は日本をベースにした世界観なのでこういった花や料理は見覚えあるものが多い。


 しかし桜か……原作主人公が所属していたグループも『桜』の名を使っていたな。

 もしや桜という名前を入れることによって何時でも輝かしいスタートダッシュを決めるという斜辺23°先生が言いたかったことなのか……いや、無いな。先生に限っては無い。こればっかりは断言できる。


「あ、着いた〜」

「あそこに組み分け表が書いてあるから見に行こう」

「そうしよ〜。同じ組になれるといいね〜」


 それに関しては心底同意する。これでさとちゃんと組が違ったら叫んでやる。


「わたしの名前は……あった〜。くすちゃん、わたし二組だった〜」


 頼む神様、仏様、世界の創造者の斜辺23°様どうか俺にさとちゃん達と同じクラスになるチャンスを下さい。

 組み分けまでは原作で描写されて無いのがここに来て弊害が出てくるなんて!


 恐る恐る自分の名前を探してみると下の方に見つけた。「や」行だから下から数えたほうが早かったな。

 名前を見つけたが何組だ? 頼むぞホントに。


「──────あ」


 名前はあった。

 組み分けもされていた。

 無慈悲にも一番上には【一組】とまるで俺を嘲笑うかのごとくでかでかと書かれていた。


「あ〜……くすちゃんと組違くなっちゃったね〜」

「あぁぁああぁぁぁああぁああああ!?」

「くすちゃん!? お、おち、落ち着いて〜!」


 仕方ないじゃないかさとちゃん。だってこんなの叫ばないとこれから先やってけねぇよ!?

 普段の落ち着いた態度とか諸々全部崩壊させて俺は叫んだ。あ、焦ってるさとちゃん可愛い、しゅき。


「…………」

「きゅ、急に落ち着いた〜」

「────ぉ」

「あれ、くすちゃん〜? なんか魂みたいのが抜け出してるよ〜?」

『良き人生だった』

「直接脳内に語りかけないで〜! 戻ってきてくすちゃん〜!」


 あぁ今度こそ三途の川で友人どもが「こっち来いよ」って誘ってる…………ってだからお前ら死んでねぇだろ。いい加減にしろよマジで。俺の限りなく少ない走馬灯にも出てくるとかもうこれわかんねぇな。


 ソメイヨシノが満開なこの春、俺のスタートが終了した。

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