第4話 認識=決意

 わたしは産まれてすぐ常に独りだった。正確にはわたしの『世界』にわたし以外の人はそこにいなかった。

 別にだからといってわたしの所に頑張ってきて欲しい訳ではない………嘘、ホントはちょっと寂しいよ〜。


 わたし自身も自分が人とは違って多少独特な感性を持ってる事を自覚している。


 わたしは幼いながら他の子供達よりも達観していると思っている。これは自画自賛でもなく純然たる事実。わたしの家の分家の大人達は皆そう言って囃し立てるんだ〜。「覚お嬢様は天才だ!」とか「歴代で最高の麒麟児だぞ!」ってね〜。

 でもそれがわたしにとってはそれがわたしの『世界』を下から見上げているように感じた。


 誰かわたしの傍に居て欲しい。

 母上と父上はわたしに家族愛を与えてくれる。ならそれ以外は? わたしに何を与えてくれるんだろ〜。


 そういえば今日は『八坂家』の人達が来るって聞いた。『八坂家』にはわたしと同い年の子がいる。

 叶うならその子がわたしの『世界』の住人になって欲しいな〜って願っても無理かな〜。


 取り敢えず今は眠いからもうひと眠りしよ〜。


 これはわたしと親友になる子が来る少し前の小さな呟きモノローグ

 孤独な少女が胸の内で吐露した数少ない願望の一つ。


「はじめまして。わたしはやさかくすね」

「此方こそなんだよ〜。わたしは二三四の覚さんです。ねぇ──「くすちゃんってよんでもいいよ」──ッ! ホントに!?」


 あぁ…………そっか。願いって直ぐに叶うんんだな〜。




 ***




 扉を開けたら、そこにいた。

 おっと、あまりに唐突すぎて色々な語を省略し過ぎた。もう一度言い直そう。

 薫子さんが覚の扉をノックもせずに開けたら、そこベットに寝ていた。


 …………寝てんのかーい!

 そ、そりゃあスヤスヤ属性(そんなもの属性ない)だし、なんか部屋から物音しなくて静かだなと思ったけどさ!


「もう覚ったら……ごめんなさい来栖音ちゃん。今直ぐに覚のこと起こすわ」


 覚の肩を掴みユサユサと大きく身体を揺らす薫子さん。あーいや、全然気にしてないですよ? むしろ美少女の寝顔が見れただけ満足っていうか……あれ? でもこれってすっごいぺドフィリア7歳以下に恋愛感情を抱く危ない人達っぽい発言だな。

 ……一応否定しておくが俺は幼女が大好きベビーコンプレックスという訳では無い。普通の同年代の女の子が好きなだけだ……って、それじゃあダメじゃん。今俺は女の子で3歳なんだから。


「覚? 起きなさい、来栖音ちゃんが来てるわ。自己紹介をしなさい」

「お構いなく。本当に気にしないで大丈夫ですよ?」

「んんぅ? もう朝ぁ〜?」


 のっそりとベットから降りてその姿を現したのは『おわまえ』シリーズで何度も見たその顔と身長……は本編の十年以上前だから仕方ないとして。忘れもしない、二三四覚だ。


「んみゅ〜……母上まだ眠いよ〜ってあれ? 知らない女の子がいる〜」

「来栖音ちゃん、先に自己紹介をお願いできる?」


 何気に今世で初めての自己紹介かもしれない。しっかりやらないとな。


 俺に少し胡乱うろんげな目を向ける覚と目を合わせながら家族に大人気(笑)の笑顔でこの場を俺の空気へと作り替える。


「はじめまして。わたしはやさかくすね」


 まだ何か言った方がいいのだろうか? いや、逆に簡潔にまとめた方がかえって覚えやすいのかもしれない! 俺は自分の直感を信じようと思う。


「此方こそなんだよ〜。わたしは二三四の覚さんです。ねぇ「くすちゃんってよんでもいいよ」──ッ! ホントに!?」


 しまった、思わず外伝本編で呼ばれているあだ名呼びを提案してしまった。

 だって仕方ないじゃないか。二三四覚にあだ名で呼ばれたいなんてファン共通の想いだろ? 


 俺は八坂来栖音に転生しているから原作遵守の『くすちゃん』というあだ名で呼ばれてもらうんだ!


「ホントに呼んでもいいの〜?」

「もちろん。私はさとりちゃんのことなんてよべばいいかな?」

「えっとね。わたしは好きに呼んでもいいよ」

「じゃあさとちゃんってよぶね」

「〜ッ! うんッ! よろしくだよ〜!」


 外伝本編の流れキタコレ。やばい感動し過ぎて語彙が消失してしまう。がががが……ガムグアムッ!


 っと危ない。三途の川で彼女に殺された友人達がこっち来いって言ってたわ。というよりお前ら俺が知る限り死んでないだろ「結婚式絶対呼ぶから! それまで死ぬなよ!」とか言われたし…………あれ? これもしかして死亡フラグだった?


「あら? もう二人とも仲良くなれたの?」

「そうなんだよ母上! わたしとくすちゃんは旧知の仲なんだ〜!」

「きょうはじめてあったんだけどね」

「よかったわね覚。二人の出会いはこの先とても大事になってくるかもしれないわ」


 意味ありげに呟く薫子さん。なるんだよなぁそれが。流石薫子さん、原作でも活躍する先見の明はこの時点でかなりの精度でその能力を発揮している。

 第四幕は薫子さんがいたおかけで助かったようなものだし、この人が亡くなった娘の存在を仄めかすように話してくれたから外伝シリーズが制作決定したようなもんでしょ。


「ねぇくすちゃん〜! お庭とっても広いんだ〜。そこで遊ぼうよ〜」

「いいよ。このじかんはひなたぼっことかおすすめだよ」

「やろうやろう〜!」


 覚──さとちゃんに手を引かれ俺は部屋に残るつもりの薫子さんに挨拶をしながらふと、俺の脳裏をいくつかのぎっていた。


『ごめんね、みんな〜……ゴフッ! す、こし眠るね〜…………だい、じょう……ぶだよ。ひ、とねむ、りするだけ────ぁ』


 何度も見返した彼女の最期。


『娘は……ッ覚は! 立派に最後まで戦いました!』


 涙を流しながら娘の追頌ついしょうを行う母親の姿。


『クソックソックソッ! 皆でお菓子作りしようって覚が言い出しっぺだよね!? どうして? どうして死んじゃったの……さとりッ!』


 何も出来なかった自らに対して慟哭する仲間。


『最期は鈴の手で殺して欲しいな…………うん、泣かないで鈴。私さ、最後に鈴の顔見れて嬉しかったな。だって……こんなに可愛い顔してる』


 そして、俺自身に待っている決められたDEAD END


 この全てのシーンを無くす為に俺は一ファンとしてでは無く八坂来栖音として生きてやる事を決断した。

 定められた運命? 原作改変? 大いに結構。殆どの人間は死ぬのは嫌だしバットエンドも嫌いだろ? 当然、俺も嫌いだ。

 ならどうするか。そんなもの、答えるまでもない。いや、答える時間すら惜しい。


 救う。不幸、トラウマ、鬱、悲劇、絶望。ありとあらゆる『おわはて』で起こる負の光景を俺が総て救済する。幸運にも俺が転生した八坂来栖音最強キャラ筆頭(不確定)ならチャンスがある。

 あぁ確かに薫子さんが言う通りになりそうだよ。


 だってこの出会いはとても大事になったからな。

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