第3話 主要キャラ=美人

「それにしても私が『二三四家』に行くなんて何年振りかしら?」

「少なくとも来栖音が産まれる二、三年くらい前だから六年前くらいか?」

「そんな前なのね! はぁー大人になってから急に時間が経つのが早く感じるようになってきたわ」

「そうだな。にしても──」


 夫婦の会話をBGMとして聴き流しながら今から訪れる『二三四家』について考えていた。


 原作である『おわはて』、そしてその外伝の『おわまえ』シリーズでも活躍する『二三四家』の才媛、二三四覚いちなし さとりは一言で言うと強くて美少女な居眠り大好きちゃんだ。その眠たげな動作一つ一つがファンの心を魅了し、何より身長が小さいことを密かに気にしているという悩みも可愛らしい。

 それ故人気も凄まじく、公式が行った人気投票では八坂来栖音よりも人気でTOP10にランクインしている。しかし「覚推しはガチ」といった印象を持たれやすく意外とファン同士で公言しづらい風潮がある。これまた前世での別の友人は「あぁ! 覚の枕のヨダレが垂れる部分に生まれ変わりたい!」と、大変おキショい事をほざいていたがその発言が彼女にバレ、往復ビンタ120発を受けていた、ざまぁみろ。


 容姿はブラックダイヤモンドの目とライトブラウンのミディアムヘアー。常に睡魔と戦っており、何時も眠たげな目を擦っている。


 ゆったりとした口調で物事を話すが大事な話とかは真面目に話すそのギャップもまた最高だな! …………後半部分は往復ビンタで顔が死んだ腫れた友達が語っていたな。成仏してくれ、ホンマに。


 そんなファンから大人気な二三四覚であるが、『おわはて』には……なんと、登場しません!


 なんでよ? と、疑問に思うかもしれないが実を言うと、来栖音達が物語のスポットライトを浴びる『おわまえ』シリーズだが、とあるキャラクターを除いて全員死亡してしまう希望もクソも無いストーリーとなっているのだ。

 これには『おわまえ』シリーズが中盤に差し掛かる巻が発売された時にSNSで炎上騒動もあった。もうそれくらい酷かった。俺も炎上に乗っかって『おわはて』の推しキャラに対する愛を伝えたりもした(推し活の鏡)くらいだ。


 言わなくても分かると思うがその巻で初めてメインキャラクターの一人が死んだのだ。そう、それが覚だ。

 当時の読者達俺たちはそのページと前のページを何回もペラペラとめくり返して確認したがそこまでする程、衝撃的なシーンだった。


「ほら、くーちゃん。『二三四家』のお屋敷が見えてきたわー。懐かしいね、あなた」

「俺は定期的に『二三四家』には顔を出しているからあまり懐かしさを感じないな」

「もー釣れないわね。そういう時は嘘でも「そうだな、楽しみだな」って言わなきゃ!」

「…………理不尽だ」


 こんなお屋敷の前でぐだぐだやり取りをしていていいのだろうか。いや、よくない。


 俺は夫婦漫才をしている親を置いて『二三四家』への先陣を切った。恐らく俺が楽しみすぎて先に進んでるようにしか見えないだろう。というよりこんなイチャイチャ空間に居たくないのが本音だ。


「あ、待ってよー! くーちゃん! 置いてかないでー」

「そんなに来栖音はここ二三四家に来るのを楽しみにしてたんだな」

「もー何感慨深い顔してるのあなた! くーちゃんが中入ったら迷子になっちゃうわ!」


 生憎と俺は『二三四家』の屋敷の構造は前世のファンブックの設定資料で網羅もうらしているから心配は無用だ。

 しかし、お嬢様と言えどまだ三歳。子供一人で訪問するのはいささか失礼にあたりそうなので仕方無く、誠に仕方無いが! 俺は二人が来るまで待つことにした。


「くーちゃん! 先に行き過ぎちゃメッ! だよ。『二三四家』は外装に比べて内装がとっても広いんだからね!」

「初めてここに来たのに迷わずここ入口まで来れたのか来栖音は。偶然か? いや、確信を持って歩いて行っていたから…………やはり俺達の娘は天才だな」


 待つまでもなく俺の所までやってきた二人。違うんです天才なんじゃなくてただ知ってただけなんです。


 俺の両手を「迷子にならないように」とばかりに繋ぎ拘束しながら俺はとうとう原作で何度も見た『二三四家』にやってきたのだ。夢にまでは見てないけど聖地巡礼が出来るというのは一ファンとしてとてもワクワクしている。


「お邪魔します、八坂です。この度は娘同士の顔合わせのご要件で参りました」

「あなた、そんな堅苦しい挨拶なんてしなくていいのにー。あの人とは親友でしょ?」

「しかしだな、親しき仲にも礼儀ありと言うだろう。これはどこの家も同じだ」

「──いらっしゃい二人とも。それとそのが?」


 お父様が戸を開けるとそこには既に人が待っていた。あ、あの人は!

 薫子かおるこさんだ! 凄い、この時から年齢が分かんない!


 二三四薫子いちなし かおるこさんは本編でも登場するキャラクターだ。

 第四幕の時とそれこそ覚が亡くなった時の御葬式で登場している。

 薫子さんは人妻合法ロリ巨乳etc……と、主要キャラに匹敵する程属性豪華だ。覚の身長が小さいのは母親の遺伝子が影響している考察がある。そもそも『おわはて』全体のキャラクターの属性が濃い。キャラクターの属性を作り出す斜辺23°先生はアブノーマルだった?


 と、そんな事は置いといて俺に目線を向ける薫子さんに挨拶をしなくてはならない。


「はじめまして、わたしはやさかくすねです。おとうさまとおかあさまのこどもです」

「あら挨拶が御上手ですね。わたしは二三四薫子。はじめまして来栖音ちゃん。これからよろしくお願いね」

「こちらこそよろしくおねがいします」


 此方へ微笑む薫子さん。言っちゃ悪いけど美人というより随分子供っぽい笑顔。外伝ではその顔が曇るんだよね…………すごく、興味深いです。


 そんな冗談は空の彼方かなたへ飛ばしておいて今は薫子さんと二人で歩いている。なんでかと言われればお母様達は『二三四家』当主の所へ挨拶をする為、お父様が「来栖音は覚ちゃんと遊んでなさい」という事になり、お母様達とは暫し別れる(凄いイヤイヤ言っていた)ことになったからだ。


「ごめんね来栖音ちゃん。離れ離れになるのは寂しいかもしれないけど」

「べつにきにしてないのでだいじょうぶです」


 それはもうホントに。むしろお母様が俺が居なくなって禁断症状が出てないか心配である。


「強い子なのね。そんな来栖音ちゃんになら覚とも友達なれそうね」

「さとり?」


 一応知らないフリをしておこう。変に知ってる感じでいくと家族間でしか知らない情報を喋ってしまいかねないから。


「覚はわたしの大事な娘よ。少しのんびりしているけど依怙贔屓抜きに頭の回転が早いわよ」

「さとり……」


 い、一体どんな少女強くて美少女な居眠り大好きちゃんなんだ!?

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