第2話 現状確認=滑稽
いきなりだが俺が転生した八坂来栖音というキャラクターについて、熱狂的なファン目線から長く語りたい。
八坂来栖音。『おわはて』ファンからは『おわはて』史上一番可哀想な最期を迎えたキャラクターとしての共通認識がある。どのくらい可哀想かと言うと『おわはて』ファンに「一番可哀想なキャラは?」と聞くと十人に八人は絶対に「来栖音に決まってんだろ!?」と答えるレベルだ。俺もそう答えるとは思うが、あまりの決定づけに涙を禁じ得ない。
彼女は『おわはて』の外伝作品、『おわまえ』シリーズに登場する口数がやや少ない子だ。
眼全体を覆う白いアイマスクとマイナー武器というものにカテゴライズされる鎖鎌を振り回すという刺さる人には心の奥まで刺さりそうなキャラ属性は予想通り、一部の来栖音推しが過激派になった。俺の前世の友人にも過激派がいた。正直怖かった。
その友人はあまりにも八坂来栖音というキャラクターに性癖を壊されたのか、現実の彼女にもアイマスクで目隠しプレイをするといういとも容易く行われるえげつない行為をしていた。もうこいつとの関係やめようかなと思った瞬間とも言える。元気にしてるだろうか。
さて、そんな一部の変態紳士諸君の性癖を壊している八坂来栖音であるが実は『おわはて』考察班の最強キャラランキングに上位に入るかもしれないと噂されているキャラクターでもある。つまりかなり強い……ってコト!?
実は八坂来栖音はとある能力の暴走によってそれを止める為に仲間に殺されているのだ。
つまり、もしその能力を幼少の頃から制御出来ていれば『おわはて』原作でも生存できていたのでは? と考察されていたのだ。
オタク特有の早口(オタクへの熱い風評被害)で語ったが短くまとめると「八坂来栖音という強キャラ、なんか原作まで生きてると第一幕がヌルゲーになるから死んでくれ。そっち方が人気出るやろ」という斜辺23°大先生の陰謀によって殺されてしまったキャラクターという事なのだ。
そしてそんなキャラクターに俺は転生してしまった訳だが…………改めて思ったことがある。
八坂来栖音の扱い不憫過ぎないか!?
原作の邪魔になるからと作者に殺され、その殺され方も仲間の手によって殺されるって、多分これ八坂来栖音で外伝を作ったら過去一のバッドエンドになるだろ。で、さっきも言ったがそんなキャラクターに俺は転生してしまった。もうやってらんないよね、絶望だよ絶望。
ぎ、逆に考えるんだ。俺は本来の八坂来栖音が辿る末路を知っているんだ。ならば俺が早めに手を打ってその死の運命を回避出来れば! どうやって? …………はぁ。
「(どうしたもんかな)」
「くーちゃんが虚無顔をしてる! あなた、写真のチャンスよ! こんなくーちゃんの顔なんて今後滅多にないわ!」
「そうだな。一眼レフカメラで可愛く撮ってやるからな」
こんな娘の顔撮って何になると言うのですか、お母様。それとどこからそのカメラを取り出したのですがお父様。
俺はやるせない顔(になってるであろう)をカメラで撮られながら自身の苦悩をてんで知らない親に少し呆れた。
***
時の流れは速いものであっという間に三年が経った。それまで何をしていたのかって? 赤ちゃん生活をエンジョイしつつ死に物狂いで死なない為にどうすればいいか考えていたよ。
「おかあさま、おとうさま。おはようございます」
「あーん、くーちゃん今日も可愛いわよー!」
「来栖音、おはよう。一人で起きれて偉いぞ。朝ご飯は既に料理人に作らせているから何時でも食べれるぞ」
ここ最近習慣になっている早起きと挨拶をする。そういえば言い忘れていたことだが、八坂来栖音は『おわはて』原作でも様々な方面で話題になる組織の幹部を担っている『八坂家』の人間だ。
組織ってなんですか? 教えて下さい来栖音様という人の為に説明すると、組織とは『
そんな組織の幹部をやっている『八坂家』の愛娘である俺は要は格式の高いお嬢様的な立ち位置になる。いやお嬢様て、俺には荷が重いって。と、始めの方は思っていた。組織の幹部なので当然お家は裕福過ぎるしこの歳から『八坂家』の人間として相応しい振る舞いをする為にお勉強だの礼儀や作法を学んでいる。
普通の子供なら泣いてしまう程の内容だが如何せん八坂来栖音の生まれ持ったポテンシャルと『俺』という精神がそれを可能としていた。
おかげで組織では「『八坂家』の娘は神童だ」と噂されている。余計なお世話なんだよなぁ。
「ねぇねぇくーちゃん。今日は家族でお出かけするのよ」
「おでかけ? どこにいくの?」
「同じ組織で働いている『二三四家』だ」
「くーちゃんと同い年の子供がいるからお互いに仲良くして欲しいねって話してたのよ!」
「そうなんだ」
表面上は『二三四家』に対して無知を演じる。そうしないと今受けた衝撃が爆発しかねない。
八坂来栖音と同じ外伝キャラクターに会えるという喜びが。
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