事前準備ィィィィィィ!!!

第1話 不注意=死

「遂に明日になったぞ!」


 今日は十月九日。大人気ライトノベルの『終わりなき戦場の果てに』のスマホゲームがリリースされる前日となった。

 SNSでは『#おわはて』がトレンドを掻っ攫う程ファンも期待が高まっている。


 そもそも『おわはて』って何だよ? と、言う人生の敗北者さん達の為に説明をしていこう。

 『おわはて』とは斜辺23°ななべにさんど先生が書く大人気ライトノベル『終わりなき戦場の果てに』の略称で日夜、人知れず化物と戦う少女達の日常を描いた現代ファンタジー作品だ。しかし何故人気があるのか。それはそのシリーズの多さだ。

 外伝作品と呼ばれるジャンルが存在する。これは原作のストーリーと並行して別キャラクターが主人公となったり原作のキャラクターの過去の話が書かれたりする。


 『おわはて』が人気になったのはこの外伝作品の影響力が大きい。例を挙げると『終わりなき戦場の前に』シリーズだ。これも『おわまえ』と略されている『おわまえ』初の外伝作品だ。これが話題を呼んだ原点と言っても過言じゃない。絶対に過言じゃない!


「さて、家に帰ったらアプリの事前ダウンロードを終わらせて公式の生放送でも見るか」


 大学の講義って何で90分もあるんだよ。長いし、講義内容意味不明だし、椅子がゲーミングチェアじゃないし。


 あと何か周りが騒々しいな。事故でも起こったのか? 俺の悪い癖だな。一度集中すると中々話しかけられようがたれようが気づかないからなぁ。

 そうそう。たとえ……って待て待て待て。なんで俺宙に浮いてんだよとうとう集中し過ぎて超能力でも目覚めたのか?


 しっかし何か身体のあちこちが痛えな。身体全体を巨大な金槌で殴られたくらい痛い。金槌で殴られたら怪我じゃ済まないし殴られたことないけどさ。


 それにしてもこれアレだな。宙を舞ってるというより。無防備でこの高さから落下したら痛そうだな。他人事みたいに言ってるけど全然俺の事なんだよね。でももう既に身体中痛てーし、なんか眠くなってきたな。


「ちょっ、と……ね、る」


 上手く声も出せないくらい眠いのか俺。まぁ講義真面目に受けてたもんな。内容全く分かんなかったのは見ない振りするけど。


 俺が意識を完全に落ちる間際、いやこの場合はか。長々とつらつら語ってきたがこれは全て現実から目を背けたかっただけだよ。


 宙に浮いた瞬間俺が見たのは脱輪した電車の黄色い光死への切手。その瞬間俺は撥ねられたと理解した。後はもう短い現実逃避だよ。

 嗚呼。折角リリース日が明日に迫ってたのにこんな簡単に死ぬのかよ、畜生。


 刹那にぐちゅりと聞く人誰もが不快感を感じる音を出しながらとしての人生が終わった。




 ────ハズ、だったんだけどなぁ。

 摩訶不思議だが、俺は今何かに持ち上げられているように思える。思える、と曖昧な表現をしたのには理由がある。なんか目開けようとしても開けないんだよ。瞼の筋力がゼロに等しいくらい力入れらんない。


 しかも幸か不幸か、いやさっき死んだ時点で不幸だな。視力どころか五感の感覚が全くと言っていいほど感じられない。辛うじて、今自分は浮いている気がするという事だけだ。


 てか息が苦しい。呼吸困難で今すぐ死ねる自信ある、もう死んだけど。取り敢えず呼吸をしないと、


「────ぎゃぁ! おんぎゃあ!」

「ない、た? あなた! やっと泣いたわ!」

「あぁ良かった! 出産直後から三十秒近く経ってようやく息をしてくれたぞ!」

「よかった、本当に……」


 …………どういう事だ? 俺は今呼吸をした筈だよな? 何故新生児のような泣き声を上げてるんだ、俺。


 ……………………あ、そういうこと。

 考えること二秒、俺の天才的な頭脳(IQ4)を働かせ導き出した結論はただ一つ。



 転生しちゃいました。




 ***



 実際問題に俺も男の子だ。前世では異世界転生系の小説や漫画は認知どころかバリバリ沼にハマってた人間だ。一度くらいは異世界という空想上の場所に行ってみたいなぁとは思っていたさ。


 しかしだな。俺はこの展開は流石に想定していなかった。否、気付かないふりして目を背けていたさ。


「あー、うー」

「きゃー! 見てあなた! 私に向かってくーちゃんがよちよち来てるわ!」

「来栖音が俺のところには一向に来ないのはやはりだから、か? そうか……これが思春期特有の反抗期とやらか」

「ただあなたの顔が怖いだけよ」

「そう、なのか!?」


 娘、むすめ、つまりは女の子。もう一度言う、

 …………はぁ!? 何でだよ神様、仏様、俺の前世で抜刀出来ずに鞘に収めたまま永久にさよならバイバイした息子様。


 さて、更にもう一つ爆弾を落とそう。

 くーちゃん、そして来栖音という名前、そして女の子。このことから俺は産まれて五感がある程度感じられるようになってすぐ理解してしまった。


 ────ここ『おわはて』の世界じゃん!


 俺という人格の宿り主となっているのが『八坂来栖音やさかくすね』というのが判明したので、今世は俺が前世で好きだった『おわはて』の世界に転生した事を理解して喜んだ。

 そしてそれと同時にこの少女の残酷な末路に自分がなるということで絶望もした。


 俺、今世だと前世より惨たらしく死ぬんじゃない?

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