第6話  サキと言う少年

保育園で知り合ったサキは、フルネームで、四葉サキと言う。四葉と言う名字も珍しい。

外遊びより、絵を描いたり、本を読むことが好きらしい。

サキは、女の子に大人気だった。

あらゆるところで、おままごとのお誘いがある。

隣の席の奪い合いが起きては、先生が、仲裁に入る。

ソラは防波堤にはならなかった。

幼い女の子であろうとも、力が強い。

物理的な事だけでなく、精神的にも強い。

もしかしたら、うちのじいちゃんよりも強いかも知れない。

「女の子がこわい…。」

遠い目をするソラは、天を仰いだ。

おかしい。今まで、あんな感じでは無かったはず。

これならば、人に、メンチ切ってくる悪霊と戦った方が、まだマシな気もする。

小さきものたちが、総出で、慰めてくれてる。

煤のような真っ黒な形をした小さな者たちは、励ますように、砂場で作った山の中で遊んでいる。あれ?励ましてるんだよね?

遊びたいわけじゃないよね?

「僕の顔は、お父さんに似て、女の子が好きになるような顔らしいから…。」

「誰が言ったの?」 

「お母さん。」

お母さん…お母さんか。サキのお母さんを見たことがある。サキを送り迎えしてる時に見るから。

小柄で、守ってあげたくなるような儚げな女性だ。いつも日傘を差している。

微笑んでる笑顔は、母性を感じるようだが、ソラから見ると、ちょっと恐い。

特に、サキを見る目が。

常にではないと思う。たまに、サキの母親がサキを見る目が、言い様のない不安を与えてる気がする。

あの人は、サキの父親をサキに重ねてる気がするのだ。

似てるようで、全く違う、別の人間を重ねても無意味。

サキの母親から感じ取ったソレは、サキの父親に未練を残している。 

サキの両親は、結婚してない。

サキは、サキの母親と二人暮らし。

「サキ、これ、あげる。」

ポッケから取り出したのは、保育園で教わった鶴の折り紙だ。

「鶴の折り紙?」

「うん。それ、捨てないでね。」

「捨てないよ。」

サキが好きだと言った青い色の折り紙で作った鶴の折り紙。

「…サキはお母さん、好き?」

「うん…。」

ちょっとだけ、サキは、泣きそうになっていた。



今日はじいちゃんが迎えに来た。

帰る準備をする。

サキの母親は、まだのようで、今日は、ソラの方が、早く帰る。

「サキ、さっきの鶴、かばんの中に入れた?」

「入れたよ。」

「それ、お守りだからね。」

「お守り?」

「そうだよ。鶴は、縁起がいい鳥だから。サキを守るよ。」

サキは、目を丸くしている。

じいちゃんが何か気づいたようだが、バイバイと手を振り、園を出た。

「ソラ、あれはなんだ。」

「じいちゃんは、カンが強いんだから。」

「見くびるんじゃない。お前達よりは、弱いが、一般的には、強いんだ。で、あれは、なんだ。」

「護符ってやつだよ。じいちゃん。知ってる?住職様がやってたやつ。」

「アホたれ。住職様のやっていたのは、住職様が修行なされて、キチンとしたやり方で、護符に力を込めてるんだ。お前のは、違う。多分、何かが違う。」

「大丈夫だよ。ちゃんと、住職様の見てたから。孫を信じて!!」

「信用に値するには、日頃の行いだ。」

住職様案件になったら、どうしよう。我が孫たちのせいで、度々、厄介になってると言うのに。

 



サキに、渡したあの鶴の折り紙には、秘密がある。目的がハッキリしてるから、ソレから守れれば良いわけだ。

実に簡単である。サキには恨まれそうだけど。ごめんね。これが背一杯。

だから、ありったけの力を込めたよ。

初めての友達だから。

その鶴の折り紙の力が発揮されたのは、それから一年後だった時だ。

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CHOCOLATEDIARY 春子 @0525-HARUKO

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