第5話 自分の力を知った日
保育園の頃、同い年の子達が、集まっている中、ただひたすら、ぼうっとしている子だった。
見るもの、全てが、情報が多かったのだ。
薄ら笑いを浮かべる浮遊した霊や子供に紛れて遊ぶ妖怪たち。
どれが、誰の声なのか、把握するのが、難しかった。
巡るましい光景に、初日は、倒れた。
行事などの写真を撮る時は、現像した写真の出来具合に、先生は、顔を顰めていた。
何故なら、ソラの周りだけに、あるはず無い色味が追加されていたり、いるはずの無い霊が写り込んでいたり、心霊写真ばかりが、写ってしまうから。
母はあらあら、またなのねと困ったものだわと肩を竦め、家では、そんなことは無いのにねと苦笑いする。
三兄弟とも、漏れなく、心霊写真が写り込んでしまう質である。
しかし、家庭で撮られたものに関しては、霊など、出てこない。妖怪たちも出てこないのだ。
何故なら、子供達が、今は無理だと、意思表示を示すから。
「この霊は悪さをするの?」
「しないよ。子供が好きなだけだと思うよ。」
悪いなら、祓わねばならない。
母は、写り込む霊のことを我が子に確認している。
「生きてる人間のが、怖いよ。」
「千晃みたいな発言をして…。まあね。よく言うものね。生きてる人間のが、強いって。その通りだわ。」
そうだと、母のふっくらした温かいぬくもりに抱っこされながら、帰宅する。
母親の可愛らしい花のワンピースが風に靡く。
「だってね。***君のままは、いつも、嘘をついてるんだよ。だから、顔も変わっちゃったの。」
「え?」
「ぱぱじゃない人と遊んでるから。」
ヒュッと息を呑んだ母は、言った。誰にも言ってはいけないと。
恐らく、ソラが言ったのは、その子の母親は、、父親では無い人と浮気めいたことをしてると言ってるのだ。
仮にそうじゃなくとも、言ってはならない。
明日からの送り迎え、顔見合わせしたら、どうしようと、悩んでしまう。
数カ月後、その子は、家庭の都合で、転園していった。
理由は、述べられてないが、噂好きの誰かの口から漏れ出た発言には、奥さんの浮気が原因で、離婚したらしい。
子供の親権は父親に渡り、父親の実家に引き取られ、そちらの方に近い保育園に転園が決まったそうだ。
ある日、保育園の庭で遊んでいたら、誰かが、雨が降ると教えてくれた。
だから、雨が降るよと先生に教えてあげた。
「あら、大丈夫よ。今日は、太陽が出て、晴れだから。」
「雨だよ。」
「…?」
会話していたら、雲行きが怪しくなった。
あんなに晴れた渡るおひさま日和だったにも関わらず、分厚い雲が流れてきて、しとしとと雨を降らしていく。
わーと、遊んでいた子供達が、中に避難する。
「ね?雨が降ったでしょ?」
忘れなくなった。あんなに引きつった笑みをする大人を。
ソラに雨を教えたのは、小さな者達だ。
ある日、保育園に、新しく、入ってきた子が来た。
ヨーロッパの天使のイメージをしたような美しい子だった。
ウェーブかかった甘い色の髪の毛に、薄茶の瞳。桜色の唇。
だけど、気づいた。その瞳が昏い事に。
周りが持て囃してるのに、表面上、にこやかにしてるだけ。本当に嬉しそうには見えなかった。
ちょっとだけ、気になった。
ソラの周りにスズメが遊びに来た。
ソラはスズメを戯れていたが、その子がやってきた。すると、スズメは飛び去った。
「…あ。ごめん。」
「いいよ。何か用?」
「うん…他の子から聞いたけど、幽霊が見えるって本当?」
好奇心が出たような瞳ではなく、何が、隠してるような感じ。
「ここらでは有名だよ。小金井家の人間は、霊が見えるんだって。…何が知りたいの?霊じゃないでしょ。…お父さん?」
目を見張ってる彼にちょっとだけ、笑った。
「ごめんね。…でもいいよ。サキは、ソラが男の子だって、すぐにわかってくれたから。」
小金井家は、昔の風習に倣い、満7歳になるまでの男児は、女の子の格好をする。
だから、長い髪をしていて、邪魔にならないように、ポニーテールで、髪を縛ってる。
なまじ、女の子らしい顔たちをしてるため、女の子と勘違いされる。
初見では、間違いなく、間違われるが、サキは、見破った。
「サキって言う名前だって…女の子みたいでしょ。僕の見た目もちょっとだけ、女の子ぽいって言われるから。」
「見た目に騙されないんだね。すごいね。」
「そうかな…。」
凄いよと褒める。
「お父さんを知って、どうしたいの…?」
「どんな人かなって…。」
その日、初めて、自分の力が、今までと格が違う力だと知った。
サキに触れて、知ってしまった過去と事実に、どうしようもなかった。
言ってはならない様な気がしたのだ。
だって、初めてのお友達だから。
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