X日目

「今日は私の番か……」



 快晴の日に当たるなんて、運がない。



 『土が乾きやすくなってるから、水多めでお願い』



「はーい」



 自分の名前が書かれた判子を押して、既読を示した。



 『カラス除けの網、改造した』



「どうも」



 同じく判子を押した。



 あれから一年が経ち、みんなも生活が慣れたようで、どの家の近くも畑ができていった。



「人は案外、適応してしまうんだねー」



 なんて、感慨に耽てしまう。



「育ってるってことは人が居るってことだね」



 生存確認完了。



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 今日も人類は細々と生きております。


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 自分用の日記にはその言葉で埋まっている。


 そしてこの会館前の掲示板。


 町中の人が毎日ここに書き込むことで生存確認し合っている。


 こんな世界でも人間関係は築けている。――寧ろ好んで。


 残像しか残らないのなら、それで満足する心を養わなければならない。


 それは僅かに残った他者を感じられる機会。貪欲にならざるを得ない。


 こんなにも他者を求める世界が未だかつてあっただろうか。



「はーっ、今日の家族交換日記のネタはーっと」



 私なりの生存確認もただいま進行中。


 というか完了したのかな。




―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 そこのあなた、生きててくれてありがとう。この物語を読んでくれてありがとう。

 私も一生懸命生きています。

 だからあなたも自分のために精一杯、生きてください。


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息子と交換日記はじめました! 幸泉愚香 @N__Kawasemi

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