大文字伝子の休日33

クライングフリーマン

金森、頑張れ!

 ======== この物語はあくまでもフィクションです =========

 ============== 主な登場人物 ================

 大文字伝子・・・主人公。翻訳家。DDリーダー。EITOではアンバサダーまたは行動隊長と呼ばれている。。

 大文字学・・・伝子の、大学翻訳部の3年後輩。伝子の婿養子。小説家。EITOのアナザー・インテリジェンスと呼ばれている。

 久保田(渡辺)あつこ警視・・・ある事件をきっかけにEITOに参加。伝子を「おねえさま」と呼んでいる。皆には「警視」と呼ばれている。

 物部一朗太・・・伝子の大学の翻訳部の副部長。故人となった蘇我義経の親友。蘇我と結婚した逢坂栞も翻訳部同学年だった。

 依田俊介・・・伝子の大学の翻訳部の後輩。高遠学と同学年。あだ名は「ヨーダ」。名付けたのは伝子。やすらぎほのかホテル東京支配人。

 依田(小田)慶子・・・ある事件で依田と知り合い、結婚。やすらぎほのかホテル東京副支配人。

 福本英二・・・伝子の大学の翻訳部の後輩。高遠学と同学年。大学は中退して演劇の道に進む。今は建築事務所に就職し、演劇活動は休止している。

 福本祥子・・・福本の妻。福本の劇団の看板女優。

 服部源一郎・・・伝子の高校のコーラス部後輩。シンガーソングライター。昭和レトロなレコードを探して、伝子達に紹介している。

 服部(麻宮)コウ・・・服部の妻。夫を何とか音楽家として世に出したいと願っている。

 南原龍之介・・・伝子の高校のコーラス部の後輩。高校の国語教師だったが、今は妻と共に学習塾を経営している。

 金森和子二尉・・・空自からのEITO出向。

 馬場力(ちから)三佐・・・空自からの出向。

 前田空将・・・空自の、上から2番目に偉い人。

 渡辺副総監・・・警視庁副総監。あつこの叔父。

 斉藤理事官・・・EITO本部司令官。EITO創設者。

 久保田嘉三管理官・・・警視庁管理官。久保田警部補の伯父。EITO前司令官。

 夏目警視正・・・EITO本部副司令官。夏目リサーチという、表向き市場調査会社の社長。

 藤井康子・・・伝子マンションの隣に住む。料理教室経営者。

 大文字綾子・・・伝子の母。介護士。



 ==EITOとは、Emergency Information Against Terrorism Organizationを指す==

 ==エマージェンシーガールズとは、女性だけのEITO精鋭部隊である。==


 午前11時。伝子のマンション。

 副島はるかの葬式の翌日。

 高遠は、物部たちと、いつものLinen会議をしていた。今日は、あつこも参加している。

 「さっき、久保田管理官から連絡があったよ。ブラックスニーカーこと宮本貞子は、獄中で自殺。拘束衣着てたけど、差し歯に仕込まれた毒を飲んだらしい。司法解剖したら、右手小指は折れていて縫合の後があったって。本名は通称オー・ファンファン。中学生の時に家出して、戻ってきたら、別人のようになっていた、と同級生は言っている。そりゃあ、別人だからね。」と、高遠が言った。

 「おにいさま、ちょっと口挟んでいい?」「どうぞ。」「獄中で自殺、じゃなくて拘置所で自殺、ね。」「あ。まだ受刑者じゃないものね。それに、取り調べ中だったからね。失礼しました。」

 「素直なおにいさま、素敵よ。どうぞ、続けて。」あつこは画面の中でウインクをした。

 「う、うん。まあ、悪魔みたいな奴だったね。伝子さんを怒らせ焦らせイジメ倒す積りだったんだね。副島先輩を恋愛で縛るって、一種のハニトラだね。脆い所を突かれた訳だ。」

 「家宅捜索で、副島準隊員の日記が出てきたわ。やはり途中からおかしいと思い始めたらしい。それで、理事官は、副島準隊員は『潜入捜査官』だったって記者会見で発表したのよ。」

 「それって、警視。NewTubeで雑誌社が発表した動画で、危害を加えられているのが流れたから?」「うん。それもあるの、依田君。音声聞こえた?」

 「いや。変だなとは思ったけど。」と、依田は応えた。「画像だけだったわ。」と慶子が言った。

 「それでいいのよ。ドローンからEITOのシステムで操作して音を打ち消したから。敵の撮影抑止の目的だったけど、ドローン撮影したのは雑誌社1社だけだった。報道管制しても、破る阿呆がいるのよね。」

 「警視。あの兼子っていう教室の講師は?」と物部が我慢出来なくなって、割り込んだ。

 「ヒ素や筋肉弛緩剤を飲まされてたらしいから回復に時間がかかるらしいわ、マスター。回復しても廃人になるかも。」と、あつこは物部に応えた。

「残酷なこと平気でやる人間。元からなのかしら?組織に鍛えられた?」と祥子が言った。

 「まあ、思い通りにはいかない世界があると知ってから死んだから幸せね。おにいさまの言う通り、計算尽くの人間は、措定外には弱いものね。」

 「そうなんだ。だから、伝子さんに急襲させられた。稲森さん、大変だったね。」    「うん。病院で点滴打って貰ったの、24時間。相当な疲労ね。」と、あつこは高遠に応えた。

 「書道塾、どうなるのかな?」と南原が言った。

 「僕もそれ、気になったんだけど。」と福本が言った。「そうそう。」気になるわ。どうするのかしら?」と祥子が言った。

 「親族がね、骨は持って帰るけど、家は処分するしかないって。墓仕舞いするから、愛宕さんも伝子さんも、もう墓参り行けないらしい。」と、高遠が応えた。

 「まあ、仕方無いわねえ。」と栞が言った。

 「日本じゃ、家とお墓はセットだからな。また、蘇我の墓参り行こうぜ。」と、物部は軽く言った。

 「あのレコードですけどね、いい曲なんですよ。『希望』っていう曲で、歌ってた歌手の人も苦労した人で、その人そのものだって言われたらしいけど、副島さんを歌った歌みたいにも聞こえる。今度行く時、持って行きますよ、高遠さん。」と、服部が言った。

 「あ。それで、警視。副島早雲さんのレコードコレクション。何でもかんでも処分するんなら、譲って貰えませんかね?」と、服部は言った。

 「いいわ。言ってみる。ゴミに出されたら、レコードも浮かばれないわ。」

 「良かったわね、あなた。」と、コウはあつこの応えに満足した。

 久保田管理官用のPCが起動した。高遠はLinen会議を終了した。

 「あれ?大文字君は?」「まだ、寝てます。昨夜徹夜だったので。」

 「そうか。服部君が贔屓にしていた夢見堂の主人の首に両刃カミソリがあったので、ブラックスニーカーが自分で殺したのか?と尋問しようとしていたが、自殺してしまったので、『枝』である春日震吉を尋問したら、知ってることをスラスラ喋りだした。あ。余談だが、例の『シンキチ』騒ぎは春日もビビっていたらしい。それで、宮本は、服部君をDDメンバーとして認識していたらしい。過去の事件で関わりを推測していたのかも知れない。宮本は服部君の夢見堂の出入りを目撃している。そして、副島準隊員が夢見堂にレコードを持って行ったので、何かの秘密の連絡かと勘ぐった。実際は、父副島早雲の遺品整理に過ぎなかったのだが。結構なコレクションらしいね。宮本と春日が店主を拷問して、聞きだそうとしていたら、闖入者が登場した。半グレだ。2人は急いで外に出た。半グレは家捜しして麻薬を探したが、見つからない。レコードにたまたま挟んであった包みを麻薬かも知れない、と持ち去った。半グレが掴んだのは、単なる顧客名簿だった。後でボヤが出たが、これは、宮本に命じられて春日がやったことだ。麻薬をわざと見付けさせるためだ。自分たちの目眩ましに使った訳だ。」

 「じゃあ、それまでは、副島先輩は、自由に動けたんですね。恋愛縛りで無理矢理仲間にされていたとしても。」

 「うむ。勝手に動いたことで、宮本は拷問に走った。その前に、塾は副島準隊員が病気になったので、当面休みます、と各家庭に連絡を入れた上でだ。春日がスラスラ言うようになったのは、宮本が恐ろしい女だからだ。夢見堂店主からも痕跡があったが、脚の指を3本折って、ニヤリと笑ったのを見れば逆らえないのは当然だと言っていた。宮本は、今度は副島準隊員の指を折った。兼子の脚の指は折らなかったが、もう人形のようになっていたという。副島は、大文字君を陥れる計画を鳴り、副島準隊員に動画をアップロードさせた。アバターで話しているのは宮本自身だが、その他の処理は副島準隊員にさせていた。後ろめたさを感じさせる為に。そして、あばらを怪力で2本折った上で、東京ドームに向かった。」

 「そんな怪力で?見た目じゃ分からないですね。宮本は、入れ替わった那珂国人。あ。春日は日本人なんですよね?」と、高遠は尋ねた。

 「ああ。最初は那珂国で観光ガイドをしていたが、いつの間にか引き込まれて、通訳兼指示係をさせられていた。マフィアにはうんざりしていたようだ。そうそう、春日の自白のお陰で、7番目の『幹』の名前が分かった。『パウダースノウ』という名前らしい。残念ながら、名前しか知らないと言っていた。」

 「結局、複数の『幹』は登場しませんでしたね。何らかの作戦は実行しているかも知れないけれど、声明はまだ出していない。大本の『木』の方針ですかね、同時侵攻させないのは。警視から聞きましたが、恋愛縛りで副島先輩を仲間に引き込むなんて、残酷な女ですね。」

 「その残酷な女を手玉に取るなんて、君はやはり優秀なエーアイだよ。」

 「ありがとうございます。」と高遠が言うと、高遠の後ろから伝子が「ありがとうございます。」と続けて言った。

 「起きたの?まだ3時間だよ。」「充分さ。もうお昼だろ。」

 「じゃ、伝達はこれで。斉藤理事官も今度ばかりは、参っている。当面、連絡事項は私か夏目警視正経由でいいよ、大文字君。」「了解しました。あのー、言いにくいんですが、金森と馬場君の件なんですが・・・。」

 「ああ、そうだったね。まだ正式ではないが、本郷君が志願してくれたので、本郷君と馬場君がトレードという形になる。前田空将が責任を取る、と言ってくれている。大文字君も管理者の一人だけどね。今日、大前君にも伝達は行っている筈だ。じゃ、よろしく頼む。」

 午後1時半。

 藤井が来て、綾子が来たので、4人で焼きそばを食べていた。

 「やっぱり、焼きそばは生姜がないとね。」と綾子が言った。

 「丁度、頂き物があったのよ。タイミング良かったわ。しかし、大阪支部のEITO エンジェルも呼んで総がかりで挑んだ甲斐があったわね。副島さんは気の毒だったけど。生徒さん、解散は可愛そうね。」

 「芦屋総帥がスポンサーを買って出て、学習塾として再出発して書道も組み込んだら?と提案したそうだけど、早雲さんの親族は、所謂『村八分』的存在だった早雲さんや副島先輩の後を継ぐ気はないらしい。上京に魅力がないなら、仕方無いよね。」と高遠はお茶を入れながら言った。

 その時、チャイムが鳴った。金森と馬場、副総監、前田空将が立っていた。

 綾子と藤井は急いで後片付けをして、リビングにお茶の用意をした。

 4人は、揃って、伝子と高遠に深々と礼をした。

 口火を切ったのは、副総監だった。「まずは、ご苦労様だった。6番目の敵幹部を捕らえ、手下を殲滅し、幾ら礼を言っても足りないくらいだ。敵幹部が自殺したのは勿論君たちに責任のあることではない。さて、2人が再会したのは運命のいたずらというべきかな?空将も知らなかったそうだ。」

 続いて、前田空将が言った。「実は、個別には知っていたが、入隊前から恋仲だったとは知らなかった。双方の同期生は義理堅く口を閉ざしていたそうだがね。結論から言うと、私は双方ともEITO東京本部に出向したままで、大文字君の役に立って欲しい。少し、君らから話しなさい。」

 馬場は、とうとう重い口を開いた。

 「和子とは、半年位同棲していました。私がまだ三曹の頃です。付き合い出した頃は、あまり気になりませんでしたが、和子は大食らいでした。イヤ、大食でした。遺伝ではないそうです。隔世遺伝です。お婆ちゃんも大食だったようです。自衛隊は薄給だから、と言えば空将に叱られますが、世間一般の常識と実際は違います。和子を専業主婦として、やりくりするのは困難です。ある日、大げんかをしてしまいました。質素を重んじなければいけない自衛官の気持ちなぞ、大食らいのお前に分かる筈がない。つい、そう言ってしまいました。和子はアパートを出ました。数年後、和子は自衛官になっていました。いつかTVで、大食らいのTVタレントが言っていました。訓練して、通常は食べ過ぎないように出来るのだと。和子は、それを実践しました。お代わりなんてとんでもない世界で、自分自身を鍛え、変えました。」

 金森は続けて、こう言った。「たまに訓練で一緒になることがありました。同期生には話しました。悔しさをバネにして今日の自分があるんだと説明し、内緒にして貰いました。EITOに出向になった時、もう馬場とは会うことも無いだろうと思っていました。ところが、和歌山の事件で再会しました。前回の事件の時、馬場は冷静さを無くして、大阪支部で失態を見せました。もう終わりだと思っていました。」

 「終わりの筈はない。ここのマンションに初めて来た時、大食らいは確認していた。DDの集まりに参加する時は、好きなだけ食べさせた。お前のブーメランは、今でも他に右に出る者がいない。大事な部下だ。無くしたくない、と思っている。お前の実力はお前が掴んだんだ。誰にでも誇っていいことだ。理事官も、いつも頼もしく見ておられる。馬場君も、慣れない大阪の地で頑張っている事は、大前さんから聞いている。本郷がトレードで大阪に行ってくれるそうだ。2人とも是非東京本部で頑張って欲しい。いいですよね、空将。」

「よく言ってくれた。そうだ、善は急げだ。形式だけでも『祝言』させては?どうです、副総監。」「しかるべく。」

 高遠は、新しい、そして可愛い湯飲みを2つ用意した。藤井はもう玄関に急いでいた。

 「日本酒、持って来るわ。」

 2分後。空将による『固めの杯』を交わして、2人は仮祝言とした。

 午後6時。高遠は、大前に連絡した後、臨時のLinen会議をして、DDメンバーに報告をした。皆、何もない空間に手を挙げて言った。「乾杯!おめでとうございます!」

 ―完―

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