第4話 ・出会いは突然に

 俺は一人、トイレの中でかりんのパンツを広げながらパニックになっていた。

「どどどど、どうしよう! このパンツ!」

 元のタンスの引き出しに戻す? それができれば最高さ! でもそんなチャンスがあるだろうか? 

 じゃあ、どうする? このまま持って帰る? それって下着泥棒になってしまうのではないか?

「……とにかく、一度、落ち着こう」

 自分に自分で言い聞かせる。

 俺は自分のパンツを下ろし、トイレの便座に腰かけた。

「ふう」

 気持ちが落ち着いてきた。とにかくチャンスを見つけて、このパンツを元の場所に戻そう!

 そう考えた俺はもう一度かりんのパンツを広げ、綺麗にたたもうとした。

 ガチャッ。

「ん? おわっ! き、君は誰だ?」

 トイレの扉が唐突に開き、かりんのお父さんらしき人が大声を上げた。

 しまった! カギをかけ忘れていたんだ。  

「あっ、ち、違うんです!」

 思わず何かを否定する俺。両手をひらひらと大きくふる。

「そ、その、ぼくは花山さんの知人のシキミって言います」

 と、最短の言葉で状況を説明しようと試みる。が、気がつけば俺の片手には、かりんの桃色のパンツがたなびいていた。

「……君はなぜ下半身丸出しで、トイレにこもり、娘のパンツらしきものを持っているのかね?」

 かりんの父は眉間にしわを寄せ、頬がピクピクとひきつっている。

 再び俺の全身から血の気が失せる。


 パタパタパタ。

「シキミくーん、どうしたの? 大丈夫? あっ、お父さん、お帰りー」

パタパタパタ。

「あら、あなた、帰ってたのね。どうしたの? あらシキミ君、カギをかけ忘れたの?」

 二階からかりんが。リビングからかりんの母が笑顔で出てきた。

 かりんの母とは、先ほど挨拶をしたので、すでに顔見知りだ。

 かりんの父の様子を見るに、仕事上がりで帰って来たばかりらしい。そしてトイレに行ったら、見知らぬ男が娘のパンツを広げていた、という図だった。

 

「……シキミ君というのか……? ちょっと聞きたいことがある。みんなもリビングに来なさい」

「はい……」

 俺は刑事に連行される犯人のように、かりんの父の後ろをついて行った。

 手の中の桃色の下着が手汗でぐっしょりしてきた。

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