第3話 ・未知との遭遇
……あれ? なんか変な空気になってしまったぞ。
とはいえ、俺が女子に、しかもクラスのアイドル的存在、かつ俺の好きな女子に招かれ、部屋にいるのは間違いないのだ。
「俺も出世したな」
俺は窓から空を仰ぎ見ながらそうつぶやいた。
そして部屋をぐるりと見渡す。いつの間にか、俺の心は落ち着きを取り戻していた。
「ん? アレは、なんだ?」
ふとタンスからはみ出している一枚のハンカチが目に入った。
ソレはほんの少しだけ、そう数ミリだけはみ出していた淡い桃色の布だった。
「なんか綺麗なハンカチだな。でもタンスに挟まれていて、このままだと折り目がついちゃいそうだな。きっとかりんのやつが慌ててタンスを閉めたから、挟まっちゃったんだな。ふふふ、かりんのおっちょこちょいさんめ」
俺は数時間前まで花山さん呼びしていたのに、いつの間にかかりんと呼び捨てにしていた。そう。出世したのだ、俺は。うん。
俺はかわいそうな淡い桃色のハンカチを救出すべく、そのタンスの引き出しをスッと開けた。
そして、そのハンカチを広げ、たたもうとした。
俺の手が震えだす。
「パ、パ、パ、パンティー」
それは下着だった。
おパンティだった。
おショーツだった。
って呼び方なんてどうでもいいいわ!
……パタパタパタ……
階下から上がってくるかりんのスリッパの足音がする。
俺の全身の毛穴からイヤな汗が吹きだす。
まずい! こんな現場を見られたら、変態だと誤解されてしまう!
ガチャッ。
扉が開く前のコンマ数秒の間に、俺はタンスの引き出しを閉めた。
そしてそのまま横っ飛びで、元の正座ポジションに戻っていた。
「お待たせ、ごめんねー。新しい紅茶だよ。まだ熱いから気を付けてね」
かりんの優しい笑顔がなんだか、胸に刺さる。
「あれ? なんだか汗びっしょりじゃない? 部屋、暑い?」
「いいいいいいい、いいええええ? ててて適温ですうぅ」
俺はカチャカチャと震える手を抑えつつ、紅茶を口に含んだ。
「あっつう!」
「大丈夫? 淹れたてだって言ったでしょ?」
俺は盛大に紅茶を吹き出した。
「だだだだ、だいじょび!」
だいじょびってなんだ? ろれつが回らない。
俺はポケットからハンカチを取り出し、口の周りを拭く。
あれ? 俺、こんな桃色のハンカチ持っていたっけ?
今度は全身から血の気が引く。
それはかりんの下着だった。
おパンティだった。
おショーツだった。
ってやっぱり、呼び方なんてどうでもいいいわ!
先ほど慌てすぎて無意識にポケットに突っ込んでしまったらしい。
「ねえ、シキミ君、本当に大丈夫なの? 今度は顔色が真っ青だよ!」
不幸中の幸いだ。かりんは、おれが顔を拭いているのが自分の下着だとはまだ気がついていないみたいだ。
「あああっ、お、お腹が痛い! ちょっとトイレ借りるね!」
「あっ、うん。一階の奥だよ!」
「ありがとう!」
俺は半笑いで顔に桃色の布切れをあてたまま、かりんの部屋を飛び出した。
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