第2話 ・うちへおいでよ!
女子の家に、部屋に、俺は、いま、いる!
「(うおおおおおおー!)」
俺はかりんに案内された部屋の中、正座したまま心の中で吼えていた。
パタパタパタ。
ガチャッ。
「お待たせ―。紅茶でよかったかな? あ、これお菓子。好きなの食べてね」
かりんが一階から二階の自室へ上がってきて、お茶とお菓子を運んできてくれた。
「ああああ、ありがとう。いいいい、いただきます」
俺はローテーブルに置かれたお菓子に手を伸ばす。
むしゃむしゃ。
……美味しい! なんだこのお菓子。しっとりフワフワだ。食べたことないおいしさだ!おれが普段食べている安いせんべいとは全然違う。
「あ、そうそう。さっき、リビングの机の上に封筒があって、二通目が来てたの。これよ。一緒に読もう」
もう二通目が?
かりんは便せんを取り出した。そしてそれを机の上に広げた。
―やあ、かりん、父さん、母さん、元気か?
俺は絶好調だ。
この前、村の村長に依頼されて、魔物を倒したんだ。そうしたら遺跡の封印とやらが解けたんだ。驚いたのはここからだぜ。
遺跡に封印されていたのは、伝説の魔女だったんだ。
魔女って言っても、年は俺とおんなじくらい。しかもめっちゃかわいい! と来たもんだ。
でもってこの魔女っ娘が、俺のことを伝説の勇者様とか言ってきちゃって、感謝されまくっちゃって、もう大変(笑)。
一気に意気投合して、仲間になっちゃったんだ。
この世界の魔女の服装はなんでか知らないけれど、やたらひらひらしてて、スケスケ素材の服を着てるもんだから、目のやり場に困ってしまうぜ(笑)。
ま、こんなわけで、俺は絶好調!
また手紙書くぜ! じゃあな!―
「なんか、お兄ちゃん、楽しそう……だね」
かりんが手紙から目線を上げて、遠い目をしてつぶやいた。
「そう……だな。異世界……いいな……」
ってなんだこりゃ。どう考えてもおかしいだろう。
なんでいきなりモテてんだ。しかもかわいい魔女っ娘。しかもちょっと服装がエッチっぽい。そんな世界、俺が行きたいわ!
と、心の中でツッコミを入れてしまう。
「シキミ君、どう思う?」
「どうって……。そうだな……」
俺はまたしても腕組みをして考え込む。
この状況、あり得ない。モテない俺が好きな女子に、いきなり家に誘われるなんて。
どうかしている。そしてこの二通目の手紙……。
もしかして……。
―かりんは俺のことを好きなんじゃないか?
そうだ。それなら、いきなり家に誘ってきた説明もつく。
そんでもって、兄の死っていうのは、嘘で、俺と仲良くなりたいために、自分でこんなライトノベル初心者みたいな手紙を書いたんじゃないか?
……いや、それは俺に都合が良すぎるか?
とすると……。
―かりんはライトノベル作家になりたいのでは?
なるほど……わかった! それなら合点がいく。
かりんは実は、ラノベの新人賞を狙っているのではないか?
ちょっとあらすじを考えてみたんだけど、相談できるライトノベルに詳しい友人がいない。そこでライトノベルに詳しい俺に相談しに来たんじゃないか? それで家の中まで案内したのでは?
だとすると、この手紙を書いたのはかりん自身だということになる。
で、かつ俺のことが前から、ちょっと好きだったんじゃないか?
いや、もしかすると俺と仲良くなりたいからライトノベルを書き始めているのかもしれないな!
おおおお、こう考えるとすべてに合点がいく。
そうなると、お兄さんが亡くなったっていうのも、たぶん、作り話だな。うん。
……今後のことも考えると、かりんとの更なる関係性の発展を望むためにも、この手紙に対しては、褒めた方がいいな、うん。
「ねえシキミ君ってば、この手紙二通、どう思うの?」
かりんは学校の時よりもさらに顔を近づけて聞いてきた。
一向に手紙の感想や推理を始めない俺に、いささか怒っているのか、眉間にわずかにシワを寄せている。
「あ、ああ、ごめん。ごめんね」
よし。この手紙の内容を褒めよう。
「いやあ、この手紙があまりによくできているから感心してしまったよ」
「感心って?」
かりんはキョトンとした表情になった。
「うん。まずこの世界観がいいね。王道の異世界転生って感じ。いきなり死亡して、転生して、魔物倒して、かわいい美少女が仲間になるなんて、つかみとしていいんじゃないかな。うん」
とにかく褒めよう。
「つかみ? なんのことかよくわかんないけど、お兄ちゃんのことはどう思うの? 本当に異世界からの手紙だと思う?」
お兄ちゃん? ああ、主人公のことね。
「お兄さんもいいんじゃないかな? 王道って感じ。でももうちょっと、なんて言うか、キャラが弱い感じがちょっとするかな。もっとこう、特殊能力みたいな、えーっと、そう、お兄さん独自のすごい力みたいなものを表現できれば、もっといいんじゃないかな。うん」
我ながら的確なアドバイスだな。ほめつつ、作者の能力を引き出すんだ。うん。
と思ったのだが、俺の意に反し、かりんは近づけていた顔を遠ざけていく。
「……ごめん、なんていうか、今度は私の方が良く分からなくなってきちゃった。紅茶覚めちゃったね。入れなおしてくるね。ちょっと時間かかるけど、待っててね」
かりんはそう言うと、自室のドアを閉め、パタパタと階下へと降りていった。
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