俺の試され時


陰陽師で源家の生き残り








源灯は真顔で返した。









「鬼に、情けはございません」













俺は、そこに秘められた確かな言葉を得た。













「桜ちゃんを、斬る。ということですね」











少女はニコッと笑ってみせる。












「ご希望とあらば、貴方様から彼女の記憶を消去する術はございます」
















「相変わらず悪趣味ね」













そこに女郎蜘蛛が割って入った。

明らかに機嫌が悪そうだ。










「おや、女王様気質である女郎蜘蛛様には、気にくわない案件ですか?」











「灯。アンタわかっていると思うけれど、アンタのその逆撫でする態度が、妖怪たちを不機嫌にするのよ」













「あら、申し訳ありません。私はただ、自身の大義を成しているだけなので」












あくまで笑顔を貫き通す灯の笑顔は張り付いた粘土のようだ。

そこに温度は、ない。












「小泉殿。まあ、そういうわけですので、情報提供ありがとうございました。女郎蜘蛛様、また一杯やりましょう」














カツカツと確実に前を向く少女の手には刃が抜かれていた。















「ちょっと待てよ」















はい?と振り返った少女に、いや

少女の姿をしたわからず屋に

俺は気がついたら一発打っていた。














少女と女郎蜘蛛は驚いたようにこちらを見ているがやってしまったものは止めようがない。

















「何が、情報提供だ!!俺は確かに桜ちゃんと付き合っていて、彼女が鬼だと気がついた。


だが、それで、俺が引き下がって恋人が斬られたことすら忘れさせられる世界をのんびり生きる人間だと思っているのか!?


俺は確かに特別な力とか刀とかないよ、

人間だから!!

でも、人間だから


心があるんだ!!!


意味わかるか!?


心は成長するんだよ


アンタみたいに自分のお家事情に囚われて人形みたいに笑ってるような


ドブみたいな人間じゃないんだよ!!!」












ここまで声を荒げ自分の思いを話したのは初めてかもしれない。


どれだけ言われてもいつもヘコヘコしていたら済んだから。


でもこれだけは勘弁ならなかった。


確かに彼女が鬼だったことはショックだったし、これからをどうしようと思っている。



でも

俺と桜ちゃん。

ささやかなカップルが

育んだ小さな日常。

彼女が見せてくれた笑顔は嘘ではなく

真実だと信じている。


俺にできることなんてほぼなかったかもしれないけれど、お願いだから


もう俺の日常から何も斬らないでくれ。








「ね、小泉。意外と馬鹿じゃないでしょう?」






女郎蜘蛛はいつものようにニヤリと笑った。

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あなたと私の逢魔が刻 Umi @umico551

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