夜の店とヘタレの勇気


「嫌ですよ、俺!」








大の大人が愚図るように電柱に抱きつく光景。なんと滑稽なことだろうか。

情けなさと連れていかれる場所に思わず半泣きになる。









「男なら、こういうお店の1つや2つ行ったことあるでしょ!肚括りなさい!」










「あのねえ!男の皆がみんな風俗に行ったりするわけじゃないんですよ!矢口さんはことごとく汚れてる!!俺が桜ちゃんという彼女がいるのに、そんな店に行くと思うんですか!!」









「私とは同じベッドで寝た仲じゃない」








ぎゃあああ!と思わず朝の惨劇が脳裏を過る。

いや、アレはなにかの間違いだ。

桜ちゃんがいるのに俺は、そんなふしだらなことをするわけがない。

というより、もし何かあったとしても












「妖怪さんはノーカンです!!」









これがせめてもの開き直りだった。











「中に入るのを渋るのは好きにしたらいいけれど、世の中小泉みたいなチキンばかりじゃないし、鬼が絡んでいるのだから人間を操ることなんて造作もないのよ」













片瀬・・・!

そうだこんなところで引っ込んでいる場合ではない。片瀬の命が掛かっている。











俺は、店の扉を開いた。











「あら、お兄さん背高いわね~、初めて?」










「受け付けこっちだけれど、指名ある?」









「この娘なんかオススメよ~」









そんな言葉が行き交う中、俺は冷静に告げた。









「新田かなって子、いるかな?」








するとお店の女たちはどよめいた。








「かなちゃん、今はお客さんの相手をしてるの、残念だけど」










「そのお客さん。俺の友達なんだ。ちょっと用があってね」










なんとも言えない空気。

その時であった









「小泉、後ろ!!」








振り替えると1人が俺の顔目掛けて長い爪を立てた。それは明らかに人間のサイズではない。








女郎蜘蛛はいつもの笑みでこちらまでやってきた。











「困るわねぇ、私の駒に急に攻撃したら。」












「お前、女郎蜘蛛!!」







「この男はお前の手下だったのか!!」






・・・違います。







「我々の縄張りに何をしにきたんだ!!」










店の女たちは目が赤く牙を出し爪が伸びている。ここの従業員たち、全員鬼だったのか。












「縄張り?笑わせんじゃないわよ」








女郎蜘蛛が両手を出す。

手には編まれた蜘蛛の糸があった。











「明らかに最近、妖怪の世界のバランスがおかしいの。男を喰い漁る鬼にはお灸を据えないとね。」









行きなさい








小声で片瀬の場所へ行くのを促す女郎蜘蛛。

俺は階段を掛け上がった。

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