第15話 衣女 vs 伊勢新九郎宗瑞

 僧のリーダーが叫ぶ。


 「薙刀だ。薙刀を使え。足を払うのだ」


 僧たちが薙刀を持って、衣女きぬめに迫った。


 衣女きぬめが笑った。


 「あはははは。そんなもので、アタシが倒されると思うのかい。これでも食らえ」


 そう言うと、衣女きぬめが僧たちに尻を向けた。パンティが落ちてしまっているので、裸の尻だ。尻の双丘が松明たいまつに光った。僧たちは、突然、眼の前に現れた巨大な尻に度肝を抜かれたようだ。一瞬動きが止まった。すると、衣女きぬめの尻の双丘の間から巨大な音が響き渡った。


 ブオオオオオオ~ン!


 衣女きぬめが巨大なオナラを僧たちにぶっ放したのだ。たちまち、薙刀を持った僧たちが宙に舞った。僧たちの悲鳴が虚空に響く。


 「あひやあああ・・・ぁぁぁぁぁ」


 結衣が叫んだ。


 「キャー。何というお下品!」


 宙に舞った僧たちの身体はものすごい勢いで、僧房を飛び越えて・・・はるか向こうの夜空に消えていった。


 それを見た僧のリーダーが怒った。


 「おのれ、化け物め! そうだ。『とりもち棒』だ。『とりもち棒』を持ってこい」


 五、六人の僧が僧房の中に走って行った。


 京介は首をひねった。


 『とりもち棒』だって?・・・そんな武器があったのか?


 ・・・・・


 僧たちは僧房からすぐに表れた。みんなで大きな丸太のようなものを担いでいる。丸太は直径1m、長さ5mほどの大きさだ。丸太の先には何か白いものが塗られていた。


 僧のリーダーが大声で叫んだ。


 「それ、『とりもち棒』をあの茂みのところに突っ込むのだ」


 僧たちが大きな丸太を地面に立てて、「エイサ、エイサ」とみんなで掛け声を掛けながら、それを衣女きぬめの股間めがけて突き出した。


 結衣の声が飛んだ。


 「何よ、あれ? あんたたち、何をすんのよ?」


 僧のリーダーの下知も飛んだ。


 「それ、あの茂みを『とりもち』で固めてしまえ」


 丸太の先端の白いものが衣女きぬめの股間に到達すると・・・僧たちは丸太を茂みに突っ込んで、「エイサ、エイサ」と茂みの中をかき回し始めた。


 廓代くるわよも叫ぶ。


 「あの白いものは『とりもち』です。衣女きぬめの股間に『とりもち』を塗りつけているんです」


 思わぬ言葉に京介が反応した。


 「と、『とりもち』だってぇ?」


 「そうです。鳥や昆虫をくっつけて捕まえる『とりもち』です」


 結衣が仰天する。


 「何ですってぇ、『とりもち』ですって? そんなものを、あんなところに塗らないでよぉぉぉ!」


 呆然と僧たちを見ていた衣女きぬめが結衣の声に反応した。僧たちが掲げる松明たいまつの明かりの中で、衣女きぬめが顔をゆがめた。


 「何だとぉ。『とりもち』だって! おのれ、なんという気持ちのいいことを・・・いや、ヒドイことを・・・」


 衣女きぬめの眼が赤く光った。


 「お前たち。許さないよ」


 そのとき、僧のリーダーの声がひときわ大きく夜空に響いた。


 「それ、『とりもち棒』を引っ張るのだ」


 僧たちが「エイサ、エイサ」と掛け声を掛けながら、『とりもち棒』を引っ張り始めた。衣女きぬめの股間の茂みには、『とりもち棒』の先についた『とりもち』がくっついている。僧たちが『とりもち棒』を引っ張ると、茂みも引っ張られた。


 衣女きぬめと結衣が同時に悲鳴を上げた。


 「ひぃぃぃぃ、い、痛い。引っ張るなぁ・・・」


 「キャー、やめてぇ。そんなところを引っ張らないでぇぇ・・・」


 衣女きぬめが顔を歪めながら、僧たちをにらみつけた。京介の頭上で衣女きぬめの声がとどろいた。


 「おのれぇ。これでも食らえ!」


 すると、衣女きぬめの股間から大量の水が流れ出たのだ!


 ドドドドドドドド・・・


 その水は激流となって地面に落ち、たちまち渦を巻いた。


 僧たちの『とりもち棒』も水流に押されて・・衣女きぬめの股間の茂みから離れると、棒を持っている数人の僧と一緒に、その渦の中に巻き込まれてしまった。僧たちの絶叫が渦の中に消えていく・・・


 「うわあああぁぁぁぁ・・」


 地面に落ちた大量の水は、あっという間に京介、結衣、廓代くるわよにも迫った。


 京介は咄嗟に結衣と廓代くるわよの手を引っ張った。


 「山瀬さん、槍間やりまさん。逃げましょう」


 京介はそう言うと・・半分壊れて、斜めに地面に倒れている鐘楼の屋根に飛び乗った。急いで、結衣と廓代くるわよの身体も屋根の上に引き上げる。


 二人の身体が鐘楼の屋根に上ると同時に・・水が押し寄せてきて、たちまち、鐘楼の周りの地面が見えなくなった。鐘楼の周りで、水がゴーゴーと音を立てて、濁流となって流れている。


 結衣が濁流を見ながら、呆然と言った。


 「な、何なの、この水は?」


 廓代くるわよが言いにくそうに言った。


 「これは・・その・・衣女きぬめのオシッコです。・・衣女きぬめは山瀬さんそっくりに化けているので・・つまり、山瀬さんのオシッコということになります」


 結衣が手で股間を押さえながら、飛び上がった。


 「オ、オシッコですって・・なんて、オ下品なのぉ・・いやぁぁぁぁぁ」


 すると、衣女きぬめの声が京介たちの頭上から響いた。


 「お前たち、そんなところに逃げても無駄だよ。これでも食らえ!」


 そう言うと、衣女きぬめはスカートを再びめくって、京介たちに尻を突き出した。パンティは破れてしまっているので、剝き出しの尻だ。


 廓代くるわよの悲鳴が飛んだ。


 「キャー。衣女きぬめがオナラで、私たちを吹き飛ばそうとしていますぅ」


 京介たちの眼の前に・・衣女きぬめの巨大な尻が迫った。衣女きぬめは、結衣にそっくりに化けているので・・これは、すなわち、結衣の尻に他ならないのだ。結衣が手で顔を覆った。


 「キャー。私のお尻を・・そんなに近づけないでぇぇぇぇぇ・・は、恥ずかしぃぃぃ・・・」


 京介は周りを見た。ここは、壊れて傾いた鐘楼の屋根だ。周りは、衣女きぬめのオシッコが激流となって流れている。もう逃げるところはない・・


 絶望が京介を襲った。


 そのときだ。


 隣の僧房の屋根から大音声が聞こえた。


 「待てぇぇぇぇ!」 


 京介たちが声の方を見ると・・僧房の屋根に伊勢いせの新九郎しんくろう宗瑞そうずい隆渓りゅうけい繁紹はんじょうが立っていた。伊勢いせの新九郎しんくろう宗瑞そうずいは後の北条早雲だ。そして、隆渓りゅうけい繁紹はんじょうは当時の修禅寺の住職だ。


 新九郎の手には弓が握られている。新九郎の大声が続く。


 「妖狐め! 隙を見せたな!」


 新九郎の弓から矢が飛び出して・・衣女きぬめの巨大な剥き出しの尻に向かって、一直線に飛んだ。

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非有名観光地不思議旅 永嶋良一 @azuki-takuan

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