第3話
「2人は寝てて下さい。今夜は私達3人でハイディガー様の警護をします」
「いやいや、こんな事があってスヤスヤと寝てられるかよ!」
ヘルツが食い下がるように声を荒げる。
「私は、お言葉に甘えて眠らせて貰いますね。今日はなんだか疲れちゃったし」
「おいおい」と、ヘルツはバーナムに抗議の声を贈る。
「だって、これがこれから何ヶ月も続くのよ?交互にやらないと持たないでしょ」
心ではわかっているが体が疼いてしょうがない様子のヘルツが、
「分かったよ…。護衛は頼んだぜ隊長」
「はい。頼りにしています、ヘルツさん」
そう言うと、ヘルツは少し照れながらバーナムと一緒に用意された自室へと帰って行った。
「さて、ハイディガー様」
あやめは、埃と自身の吐しゃ物に塗れたハイディガーを見やる。
「お着替えした後で今日はぐっすりと眠って頂き、明日詳しくお話をお聞かせ下さい」
ハイディガーが、その薄く開いた左目であやめを睨み付ける。
しかし、少しの静寂の後、彼は一羽に目線を移し言葉を放った。
「着替えを用意しろ、その間にシャワーを浴びてくる」
「は、はい、ハイディガー様」
ハイディガーは、”ガラガラ”と瓦礫の上から下りていくと、他の人達には目もくれず部屋を出て行った。
「ガドーさん、ハイディガー様に着いて行って下さい。何かあれば、すぐにでも浴室に飛び込んで頂いて結構です」
「ああ、了解した」
ガドーが急いでハイディガーの後を追いかけて行く。
「護衛一人で大丈夫でしょうか」
一羽が心配そうにこちらに声を掛ける。
「問題ありません。結界を張って姿も見せないなんて、かなり用心深い相手のようです。それよりも私達は、彼の代わりの寝室に防護結界を張る必要があります。案内して頂けますか、一羽さん」
「はい」
あやめとユナイトは、一羽に連れられて代わりとなる寝室へと案内された。
それは、元のハイディガーの部屋よりも一回り大きく、入って直ぐ目の前に大きな絵画が飾られており、キングサイズのベッドが2つと装飾に彩られた机と椅子、棚には芸術的な壺がいくつも並べられていた。
「ここは以前、伯爵様の奥様が使用されていた所です。現在は使われておりませんのでご自由にお使い下さい。私はお着替えの用意とハイディガー様に部屋の移動を伝えて参ります」
一羽の言葉を少し掘り下げたくなる欲に駆られたが、ひとまず飲み込んだ。
「一羽さん、ありがとうございます」
一羽は一礼すると、扉を”パタン”と閉めて出て行った。
広い室内に静寂が訪れる。
あやめは、ゆっくりとした動きでユナイトに振り向いて顔を合わせ、優しい顔で問いかけた。
「お師匠様、どのように結界を構築しましょうか」
「浄化、防音、耐衝撃、耐炎、幻影、光彩…」
ユナイトが、薄氷のような冷たく鋭い声でスラスラと言葉を並べる。
「この部屋の結界を完成させたら、適当な部屋2つにも同じ結界を構築」
「はい、分かりました」
あやめは、ユナイトの命令通り結界を張る為の術式を展開して行く。
そして、ある程度の完成が見えてきた所で、ユナイトに対して声を掛けた。
「お師匠様、今日は良く喋れていましたね!後はもっっと活舌を良くしたら良いと思います」
「そうか、あの男も我の言葉に
「ククク」と押し殺すような笑いが少女から漏れる。
「にしても、やっぱりフードの事突っ込まれたじゃないですか、お師匠様。人と仲良くなるには相手の目を見ないとダメなんですよ」
展開した結界の点検を行いつつ言葉を放つ。
「我は人と仲良くなる気は無い。お主がどうしてもと言うから一緒に居るだけだ」
「またそんな事言って。人間に興味津々な癖に…」
ニヤケ顔でユナイトの言葉に反応する。
「人になど微塵も興味など無い。我はただお前がどうしてもと言うから…」
「そうですね。私がどうしてでも絶対に引き籠りのお師匠様を世界に連れ出したいので、どうしてでも懇願してやっとの思いでついて来てくれたんですよね、お師匠様」
「そうだ。我が
「そうですよね。お師匠様は私の事が大好きですもんね」
「そうだ。我が偶々気が向いたときに、偶々お主の事を好きなっただけ…」
ユナイトがものすごい勢いで小さい体を小さく丸める。
そして少しの間、息を深く吸って吐く音が聞こえると、いつも通りの冷たい言葉で指摘された。
「…お主よ、幻影術式が弱い。これではカラスでも見破られる」
そう言うと、小さく
すると、少女から力強くも優しい魔力の蠢きが、自身の構築した結界に干渉して行く。
「本当にお主は、我がいないと駄目だな」
「そうですね、お師匠様。さて、次の部屋に行きましょうか」
幻影術式がユナイトによってグレードアップされたのを確認すると、うずくまった少女の手を”ギュッ”と握って引き上げて、次の部屋へと移動した。
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