第17話 決着

「もうここまでです。あなたを全力で潰して差し上げますよ」


 そう声を上げる悪魔。その瞬間、やつの指先から小さなエネルギー弾が俺の顔をめがけて複数放たれる。その攻撃を俺は首を傾けることにより避け、その後に続く弾も体を傾けたり、後方に飛ぶんだりすることにで避けていく。


「フフ、いいんですか? この魔族から離れて」

「・・・・・・!」


 やつの真隣に倒れ込むフランの姿がある。


「私はまだこの魔族を殺したわけではないのですよ。ただ気絶してもらっただけ。少しこの魔族の魔法が鬱陶しかったものでね」


 やつは言葉を続けて。


「まだこの魔族には回復の余地があります。ですが、今ここで私がこの魔族を殺したら――え?」


 やつはなにかおかしいものを見たかのように、素っ頓狂な声を上げる。それもそうだろう、なぜなら今まで目を向けていた場所に、俺の影も形もいないのだから。



 ★悪魔視点



 なぜだ、なぜ目の前にやつはいない? 私は一時も目を離さなかった。なのに、なのに、なぜやつは目の前にいない?


「一人でなにしてんだ馬鹿」


 そんな声が聞こえた。この私が・・・・・・バカ? この私を吸血鬼ごときが馬鹿にしたと言うのか? そんなことは許さない。やつだけは、あの吸血鬼だけは必ずこの場で殺す。


「この私を馬鹿とは・・・・・・言ってくれるじゃありませんか」

「ふん、俺の残像と戦っておいてよく云うぜ。それに、馬鹿といっただけでムキになるとは・・・・・・ふっ、幼稚なものだ」

「・・・・・・フフ、クフフ、いいでしょう。あなた、いや・・・・・・貴様に敗北というものを味あわせてあげますよ」


 やつだけは絶対に許さない。だがここで冷静さをなくしてはだめだ。今渡しのとなりには人質がいるのだ。勝負を焦る必要はまったくない。順当に行けばこの私が勝つのだから。


「死の暴風デス・ストーム

「・・・・・・」

「死のデス・スノー


 死の暴風デス・ストームと死のデス・スノーの合わせ技だ。死のデス・スノーは、使用者以外が触れた場合、問答無用で死に至らす悪魔の究極魔法だ。この魔法に死の暴風デス・ストームを合わせることで、避けるのすらを困難にする合技だ。


「流石に死んだでしょう」


 私は勝ちを確信したのである。



 ★稜視点



(英知、あれは全部避けることはできるか?)

『否、不可能です』

(ならいい方法はあるか?)

『解、自分の肉体を魔力で覆うイメージをしてください』

(なるほど、バリヤを纏えってことか)

『はい』

(了解)


 英知のことを信じて自分の周りに魔力を覆うイメージをする。その魔力のバリヤを複数体からだに纏わせて、やつの放った魔法をできる限り避け、避けれなかった文をバリヤに任せてその魔法を耐えきって見せる。


「流石に死んだでしょう」


 そのような声が聞こえる。どうやら奴は、俺があの魔法で死んだと勘違いしているらしい。


「この魔族も用済みですし・・・・・・殺しましょうかね」


 そんなこと、この俺がさせるわけがなく。


「では、さような――」


 気配を完全に消してフランを殺そうとするやつの後方に行き、首を掴む。


「グガ!?」

「あんな魔法でこの俺が死ぬとでも思ったか?」

「な、何故・・・・・・生きて」

「お前もう喋るな」

「ま、まて――」


 そうして無慈悲にもヤツの首はへし折られる。


「お前の負けだ」


 奴は地面に倒れ込み、動かない。そう思っていたら、やつが光る粒子のようなものになって分解していく。


「これで終わった」


 分解していった粒子が夕日に沈み込むように風に吹かれて飛んでいくのを見て俺は・・・・・・。


「あの悪魔・・・・・・強かったな」


 と、言葉を吐露する。



 ★フラン視点



 そうして私は目を開ける。生きている。稜は逃げたと思ったのに。そう考える私の目に、髪が映る。白銀の髪だ。髪色はぜんぜん違うのに、何故か彼が、リョウがその場にいると分かった。


「リョウ・・・・・・奇麗・・・・・・」


 反射的にその言葉が出る。白銀の髪、その体身に纏う、静かな、そして力強く光る白銀の輝き。そして、そのたたずまい・・・・・・すべてが美しく、気高く見えた。


「・・・・・・起きたか、フラン」

「あ、あぁ・・・・・・起きたぞ・・・・・・?」

「よかった・・・・・・本当によかった」


 彼は私を抱きしめながら涙を流していた。


「手から力が抜けた時・・・・・・もう、だめかと・・・・・・」

「ふふふ、私はそんなにやわな存在ではないぞ?」

「あぁ、そうみたいだな。心配掛けやがって・・・・・・」

「ごめんなさい・・・・・・そして、ありがとう」


 私も抱き返そうと、彼の背中に手を回した。彼は、優しく、優しく私を抱きしめてくれた。

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