第12話 超巨大な水を出すよ!

水を作り出す魔法はどうにか使えるようにはなった。私生活で使えるかどうかで言えば微妙なところであるが集中すれば全然問題なく扱えるようになったと思う。

ただ、その魔法の過程で出る爆発の威力が凄まじいので町中でホイホイと使えるような代物ではない。


だってめっちゃうるさいんだもん。

ポンポンポンポン音がするしバカでかい水なんて生成した日には衝撃波で街中の建物が倒壊しかねない。


「ま、だからこそこの荒野に来たんだがな」


今日は魔族領内の西の荒野にて超巨大な水を作り出そうと思う。ただ水を出すわけではない。結論から言うと純粋な水は体に良くない。なぜなら純粋な水は、体内で必要な栄養素まで溶かす可能性があり、水をおいしくするミネラル分が含まれていないこと、体調不良を引き起こす細菌が繁殖するリスクがあることといった、飲用としてはあまり向いていない事情があるためだ。


超絶単純で簡単に言うと【水がまずいから飲む気にもならない】ということなのだ。だれだってまずい水は飲みたくないし、健康上にもよろしく無い。なのでひと手間加えるのだ。一手間加えると言っても水道水を作るだけである。


水道水の主成分には、ナトリウム《Na》、カルシウム《Ca》、マグネシウム《Mg》、カリウム《K》、ケイSi、つまりはみんな大好きミネラルが含まれている。この分子ぶんしがあることで水の鮮度が保たれ、みんなの肉体に害のない液体になるわけである。おまけに消毒剤として塩素Clも入っている。


本来これら物質を作るのはちょっとだけ面倒ではあるが、この世界には魔法という超絶便利な物がある。水を作るうちにこの成分を組み込む。最初は正直うまくいくとは思っていないが、できるだけ早く作り出せるようになろうと思う。



それから数十分、数時間と経過していった。英知えいちさんの助言を聞きつつ、水の中にミネラルが入っているイメージを強くすることで元の世界の水道水と遜色そんしょくのない水を作ることに成功した。


「よしッ!」


握りしめた拳を下に勢いよくおろし、悦び《よろこび》の声を挙げる。


「もうひと踏ん張りだ・・・・・・!」


本来ここに来たのは超巨大な水を作り出すために来たのだ。なのでこの一手間加えた水(水道水)を魔族の皆に行き渡るように、サイズを数百倍にまで拡大する。

と思って履いたのだが、よく考えたらこの水を運ぶ手段が無い。その事に今気がついた。


「どうするか・・・・・・できればこの水を皆に届けてマンパん゛ん゛ん・・・・・・マア、ミンナノエガオガミタイカラネ」


そんな誰でもわかるような嘘を一人で虚しくつきながら考える。


「よし、超簡単な上下水道じょうげすいどうを作るか」


という結論に至った。ぶっちゃけ安全な水は俺が作るから、巨大な施設を作る必要はない。マアどうせ後々作るだろうが。あとは水の通り道であるパイプ、そしてそれを届けるための大幅な工事を作ればいい話だ。

ただ、そうなると俺一人の力でどうにかなるようなことではない。なので、魔族の皆にその大きな工事は頑張ってもらおうかと思う。もちろん俺だって工事の手伝いをするぞ?めんどくさくてやらないとかはないからな? それに、俺が居ないと上下水道の作り方とかわからないだろうし。


ということでいちど魔王城に帰還することにした。まあそれなりの成果があったし別にいいだろう。てかさっさと上下水道作ってこいなんて言われた日には泣く。間違いなく泣く。

まあそんな事はいいのでさっささっさと帰ろう。



人族領内じんぞくりょうない



「オラ、さっさとそれを運ばないか!」


バチン、そんな痛々しい音が鳴り響く。


「・・・・・・で、でも・・・・・・こんな重いもの、持てません・・・・・・」

「ほう? 我々に口答えするか。こっちに来い、その腐った性根を叩き直してやる」

「いや、ごめんなさい! もう絶対このようなことはいたしません!」

「うるさい! ほらさっさと来い!」

「い、いや・・・・・・」

(お母さん、助けて)




俺は頑丈な壁の上に立っていた。


「酷い《むごい》な、早く助けてやりたいところだが・・・・・・」


ここは人族領内のデルモアという地。魔族が奴隷として使われていると噂で聞いてきてみれば案の定だった。今も少し離れたところで少女がムチで打たれた。


「警備兵が多すぎる。悪いが今は耐えてくれ」


すぐに魔王城に帰還し、魔王様にこの調査の報告をせねばならない。ここ数ヶ月この人族領内にいるので魔王様がどうなっているかは全くわからない。だが、人族領内を調査するという名を受けた以上、重要な情報を持って帰らねばならない。


「術・影移動じゅつ・かげいどう


そして俺は、その場所をあとにした。



★魔王城内



「だから労働力が欲しいんだ」

「なるほど、すぐに派遣しよう」

「ありがとう〜! フラン大好き!」

「は、恥ずかしいからくっつくでない! 皆の前であるぞ!」

「・・・・・・いや、どうぞご自由に」

「えぇ・・・・・・」


俺は魔王城にて労働力が欲しいことを説明した。フランの背中に抱きつきながらだがなあ! まあそんなことはどうでもいい。

フランがOK許可を出してくれたため、早速準備開始だ! と、そう思っているとき。


「・・・・・・誰だ」


俺は臨戦態勢を取る。俺とフランの影から見覚えのない魔族が出現したのだ。そして、ここに居るフラン以外の魔族の誰よりも強い。


「おお、シュト。帰還したか!」


どうやらフランの知り合いだったらしい。焦って損した気分である。


「は、魔王様にお伝えしたい情報がございます」

「む? なんだ?」

「人族領内で魔族の奴隷収容施設を不空数発見いたしました」

「・・・・・・なに?」


俺の額に血管が出る。久しぶりにブチギレ状態だ。だが、その状態のすぐに冷静になる。なぜならフランが異常なまでにブチギレていたからだ。


「あ、あの、フランさん?」

「今すぐその場に連れていけ。駆逐してくれる」


そこで俺は思う。本当に優しいやつだな・・・・・・と。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る