第6話 魔王城の復活

 魔王城復興作戦が本格始動した。今の時刻は午後7時32分、今日の作業が終わる頃だ。現在魔王城復興作業はかなり順調に進んでいる。城そのものには手を付けていないにしろ、かなりの人材が集まったのだ。


 そして今、俺はその魔物たちの前に立っている。


(いやちょっとまってなんでこの状況になったん?)


 それは数十分前に遡る。


「魔族の皆はしっかり働いてくれるとは思うのだが、やはり指揮は高めたいな」

「そうですね・・・・・・では、指揮を高めるためにナミキリ殿に演説していただくのはどうでしょうか?」

「え?俺?フランの方が良くないか?俺はただの新参だぞ?」


 俺は数日前にこの世界に来た新参者だ。来たばっかの俺よりもフランの方が魔族たちからの支持もあるだろうし、何より人前に立ってまともに喋れるかどうか・・・・・・。


「指揮を高めるためってのはあるが、その前にナミキリ殿を紹介せねばならない。魔王様や私達4人は魔族達に顔は知られているがあなたは殆ど知られていないからな」

「そりゃ今のところ知ってる魔族は少ないと思うけど・・・・・・」

「あと、魔王様の隣に立つに相応しい方であると証明せねばならない」


「・・・・・・え?隣に立つ?」


 俺の思考が数秒フリーズした。


「レ、レイン!何を言っておるのだ!?!?」


 その言葉で俺の思考が彼方から帰ってきた。


「そ、そうだぞ。なんで俺が隣に立つってことになってるんだよ」


 俺自身こんなに混乱したのは初めてだ。そんな混乱した自分の思考を冷静にしてレインに質問を投げる。


「そ、それって、どういう意味で隣に立つってこと?」

「え?そりゃ宰相さいしょうとしてだろ?他になにかあるのか?」


 おぅふ、俺とフランの勘違いだったようだ。


「でも俺が宰相って・・・・・・どこの誰とも知らないやつが魔王と一緒に居るのはおかしいだろ」

「任せろ、そこはうまく俺がうまく言う」

「そ、それなら良いんだが」



 と、このようなことがあって俺が大勢の魔族たちの前に立っているわけなんだけど・・・・・・。


(どうしたら良いんだよ!何喋れば良いのかもわからないんだけど!?)


 このザマである。人前でほとんど喋ったことのない俺がいきなり人の前に出されて喋れるかと言われたら喋れない。


(こっちに来るまでに喋った人といえば・・・・・・母さんに父さん、山田に佐藤に片桐くらいだぞ)


 因みに山田、佐藤、片桐は無効の世界で生きていた頃の数少ない俺の友達というやつである。


(アイツラは本当に良いやつだったなぁ)


 現在進行系で現実逃避をしているところである。こんな大勢の前で話せとかなんの拷問だ?

 そんな事を考えていると、魔族たちから「あいつは誰だ?」「見たこともない魔族だ」などと、言っていた。


(実際最近来たばっかだからね、そりゃこうなるよね


 そう考えているとレインが一声かける。


「静まれ」


 その一声で魔族たちの声一つ聞こえなくなった。レインって結構上の立場にいるやつだったりするのだろうか?


「今日は集まってくれてありがとう。今回皆に集まってもらったのは他でもない。魔王城復興及び宰相の決定、そして能力のある者の選別だ」

「まずは魔王城復興に関して説明をする」


 それから10分ほどだろうか。魔王城復興に関する説明を簡単に行う。


「以上が復興に関しての簡単な説明と日程です。次に宰相の決定に関してです」


 ついに俺の番が回ってきてしまった。


(というか決定なんすね)


 人の前に立つのはあまりやることはないが、俺が人の前に立ったときに出る悪い癖がある。それは・・・・・・。


「今回宰相に就任したのはナミキリ殿だ」


 そうして俺の名字が呼ばれる。多分波切が名前だと思っているんだろうけどそっちファミリーネームですごめんなさい。

 そんな事を考えているうちに俺は歩を進めて大勢の前にポツンと置いてある木箱の上に立つ。そして深く深呼吸をして言葉を並べる。


「あー、まぁ、全員確実にはじめましてだな。今回宰相に就任した波切陵だ。多分みんな勘違い捨てると思うが波切が名字で陵が名前だ」


 一発目から悪い癖が出てきてしまった。大勢の前に立つと普段から大きい態度が更に大きくなってしまうことだ。ただ、そのおかげで向こうの世界にいたときはかなりリーダーシップが見込まれていたのだが。こちらの世界でもそっちよりに動いてくれたらありがたいのだが・・・・・・。


「なんかあいつ態度がでかくないか?」

「私も思った。なんか上からって感じが否めないね」


(はーい完全に悪い方向に進んでますねこれ。いや、一体全体どうしたら良いのか)


 とりあえず今回せるだけの頭を回して言い回しを考える。


「なるほど、この態度に文句があるか?」


 あー、やばい。止まらんくなってきたかもしれない。


「そ、そりゃ、俺たちを見下してるような感じに行ってるじゃないか!」

「見下してる?魔王城復興のために集まってきてくれたお前たちを見下すわけ無いだろう。そもそも俺は魔族初めて間もないんだ、あんたら先輩に聞きたいこととか普通にあるんだが?」

「・・・・・・」


 俺自身、あまり人を見下したりしたくないタイプだが人の前に立つとかなり見下しているように見えるらしい。


(気をつけていかないとな)


 気をつけないといけないなと感じた今日このごろであった。

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