第2話 相棒ができた日

 2029年8月24日の出来事。俺は登山中足を滑らせて崖に落下してしまった。その時俺は確実に死を覚悟していた。そして自分の意識が途絶えた瞬間この異世界のような場所に来た。


 こちらの世界に来たとき少し不穏な会話を聞いた。会話というよりも片方が押し付けるような一方的な内容だった。まぁ、内容は一発ヤらせろって言う内容だった。しかも相手は魔王様ときたものだ。なんなら要求した側は勇者パーティーの三人である。


(勇者と魔王の戦いを見ていなかった俺からしたらまじで勇者側が的だったからな。あそこまでクズな勇者とかまっっっったく見たことがなかったぞ)


 正直あそこまでクズな勇者を見たことがない。現在隣にいる魔王様はどれほど怖かっただろうか。見たところ相当幼いし魔王様なりたてってところだろう。ちなみに今魔王様と我が義妹からは手を離している。


(ま、俺なんかより断然生きてるだろうがな)


『是、主様より長く生きているのは間違いないでしょう』


「!?だ、誰だ!?」

「ど、どうしたのだ?」「ど、どうしたんですか?お兄ちゃん?」

「声が聞こえたんだが・・・・・・聞こえなかったか?」

「・・・・・・そうか・・・・・・」


(この声・・・・・・俺にしか届かないとかそういうものか?)

『是、この声は主様にしか届いておりません。ですが対象に触れることにより会話が共有されます。』

(な、なるほど。触れば良いんだな?)


「魔王様と我が妹よ、ちょっと触れてもいいか?」

「どうしたのだ?まぁ私は別にいいが」

「わ、私も問題ありません!」

「ありがとう。それじゃあちょっとだけ触れるぞ?」


 そう言って俺は二人の肩に手を置く。


『接続を開始します。残り3秒、2秒、1秒・・・・・・接続が完了しました』


「な、なんなのだこの声は!?」

「び、びっくりしました・・・・・・」

「・・・・・・機械音、いや、ボーカロイドみたいな音だな」


(もしかして俺の記憶に一番残っている音声を声にしているのか?)

『是、そのとおりです。主様の記憶で一番聞き慣れている音を超えとして出しています』


「なるほど。確かに俺はボーカロイドをよく聞いていたな」

「ぼーかろいど?」

「まぁ、早めに行っておいて損はないだろう。俺は転生者なんだ。転生する前に機械の合成音声で歌を歌わせるのをボーカロイドというんだ」

「転生・・・・・・魂が世界を渡り別の肉体に受肉、または生成。命をつなぎとめるための術であるな」


『是、彼女の言うとおりです。ですがその前に私からの提案です。全員自己紹介をしてみてはいかがでしょう』


「確かによく考えたら自己紹介してなかったな。俺は波切陵。趣味は音楽で食べるのが好きだ。ちなみに事故で死んだ」

「じ、事故で死んでしまったのかのう・・・・・・私の名はノーヴァ・フラン。読書がすきで暇なときはずっと本を読んでいるのだ。さっき死にかけたぞ」

「み、みんな死にかけてるんですね・・・・・・私はメフィスト・レオナ。趣味というのは・・・・・・殆ど無いですね。お兄ちゃんの手で死ぬのかと思いました」

「それはごめんね?」


 どうやらみんな死にかけたり死んだりしているらしい。しかも人間の手によって。(俺は事故死だけど)   

 今の所人間と馴れ合う気は全く無いし、かと言って滅ぼそうとも思っちゃいない。というかいちいち人間たちと関わるのは面倒くさい。


 それに、技術を人間から学んだほうが良いと思うかもしれないが、俺は一応元の世界でガリ勉野郎だったから無駄に知識がついている。なんなら此処の人間よりも技術があるかもしれん。


『主様の言うとおりです。現在、学力などに関して主様に勝てる者はこの世界には降りません』


(学力に関してって限定してるってことは、戦略とかは俺以上のやつがいるってことだな)


『是、そのとおりです。やはり主様は賢いですね』

(そりゃどうも。ありがたいお言葉だね)


 少なくとも俺は戦略とかの知識が全く無い。RPGとかもあまりやらないしそういう戦略ゲーも得意ではない。誰かと一緒にゲームをすることもなかったし、そもそもゲームをあまりやらない質だったから戦略には疎い。


(魔王側につくなら少しくらい戦略ゲーやっておけばよかったかな)

『否、私がいるので大丈夫です』


 なるほど、何も問題はないということか。天の声がいなかったらもしかしたら生きていけなかったかもしれないな。


『その点に関しては大丈夫でしょう。この世界は年代的に中世と言ったところですから銃などを生成してしまえば戦略はほとんど意味をなしません。防衛戦に努めれば負けることはほぼありません』


なるほど、実際オレ一人でも生きていけるような状態だったわけか。


『それに、主様はあまり自覚していないようですが、現在の主様に勝てるような人間はそうそう現れません』

(え?俺今そんなに強いの?)

『少なくとも人間軍であれば殺戮の限りを尽くすことも簡単にできます』


 oh・・・とんでもない事実を聞いてしまった。今現在の俺の強さは人間の軍なら壊滅させることができるほどの強さらしい。もう人間業じゃねぇなこれ。


『是、現在の主様は人間の体ではありません。ヴァンパイアです』


 まさかの本当に人間じゃなくなっていた。流石にそれは予想外だったし転生するなら人間に転生したかったもんだ。


「リョウはもともと人間なのか」

「まぁ、最初から魔族とかだったら普通に事故で死んでないしね。それに俺の前世ではあんまり肉体を鍛えてなかったし、たぶんここの人間よりもダントツで弱かったと思うよ」

「し、信じられないですね・・・・・・」


(うん、俺だって信じられないもん。ていうかヴァンパイアってことは血を吸って生きないといけないってこと?普通に嫌なんだけど。)

『否、普通の食事で十分です』

(ヴァンパイアの意味あるそれ!?てか君はなんで俺がヴァンパイアに生まれ変わったのか知ってるのか?)

『主様の命により、生成いたしました。主様が亡くなられる前に「来世は誰でもぶっ飛ばせて大切や人を守れる力がある何かに」と仰っていました』

(たしかにそんなこと考えたわ。普通にありがとうね)

『いえ、問題ありません』


 ともかく俺の素性が多少わかったので一安心だ。


(そういえば君の名前は?)

『スキルに名はありません』

(ふーん、じゃあ呼び出すときとか面倒だし、俺が名前つけるよ)


「そうだな、英知さんって名前にしようか」

「この声の者のなか?良い名前だ!」

「私もいい名前だと思う」


 すこし静かにしてくれていた二人が俺がつけた名前を肯定してくれた。嬉しい限りである。


『ありがとうございます。ではこれから私は英知と名乗ることとします』

(おう、よろしくな)


「相棒」


 こうして俺に相棒ができた。英知のおかげでこの世界のことも多少しれたし、なかなかの収穫だろう。これから何が起こるかわからんが、楽しく過ごせたら良いな。


新星歴514年1月4日、相棒ができた日。

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