第81話 ライバル校たちの動向

 女子更衣室の一角。 

 そこに竜峰学園ゴルフ部の部員たちが集まっていた。

 中心にいるのは監督の木澤きざわ真希まき

 彼女の手に握られているのは、これまで調べた現在の状況だ。


「前半戦を終えて、トップは春乃坂学園ですか」


「はい、トータル1オーバーですので、例年なら優勝レベルです」


「ふふふ、それだけ朝陽さんって子の影響力が大きいんでしょうけど、まさか前半ハーフを終えて4アンダーとは恐れ入るわ。うちの子たちにそんな爆発力を持った子なんていないもの」


「はい、主将の浜辺聖来さんでも2アンダーでしたから、一人抜け出した感じではありますね」


 そう話すのは、竜峰学園の三年生でマネージャーの池脇いけわき果歩かほ

 彼女はあまり運動神経の良い方ではなく、選手の道を諦め、マネージャーへと転身した経歴の持ち主だ。

 今では竜峰学園のブレーンとして、無くてはならない存在までに成長している。


「なら、池脇さん。うちはどうしたらいいと思う?」


「はい、これまで春乃坂学園に優勝争いの経験はなく、このままでいくとは思えません。たぶん、徐々に疲れが見え始め、失速するのではと考えます。トップを走る朝陽さんとジュニア時代の経験がある舞木りんさんはともかく、残りのメンバーは後半戦のプレッシャーでスコアーを落とすと考えていいでしょう」


「うふふ、流石は竜峰学園の頭脳と呼ばれるだけあるわ。私も同じ見解よ。それで、どう指示を出したの?」


「はい、ここから先は一打が大事になってくるので、丁寧にプレーするようにと。それから、上は必ず落ちてくるから焦るなとも伝えました」


「正解。たぶん朝陽さんって子のことは、もうどうしようもないわ。少し見たけど、あれはプロと比べても遜色ないもの。流石は大内雄介プロの秘蔵っ子だけあって、別格ね。でも、他の子たちを比べたら、うちの子たちの方が上。今は勢いが勝っているようだけど、ゴルフは長丁場だから、ね」


 これまでの経験から、そう分析する木澤真希の判断は正しい。

 

 ゴルフはメンタルと言われるように、気持ちに大きく左右されるスポーツだ。

 短時間で行われる競技であるならともかく、ゴルフは前後半合わせて4時間の長丁場。

 その間、ずっと集中力を維持し続けることは不可能で、ましてやプレー時間はほんの一部。

 残りは全て脳内との戦いである。

 神経をすり減らし、最終ホールを迎える頃には、もう身体もボロボロ。


 そんな経験のない春乃坂学園ゴルフ部となれば、おのずと結果は見えてくる。


「はい、春乃坂学園は前半を飛ばし過ぎました。その反動は大きいでしょうから、気にせずとも良いかと思われます。それよりも、富士アザミ女子と愛知県の菖蒲あやめ学園が不気味です。朝陽さんと同組だった榎本さんが予想に反して崩れず、3オーバーで乗り切ったことで勢いを増していて、菖蒲学園はここまで3位につけています。そして富士アザミ女子も差のない4位と侮れません」


「そう……。やはり、本命はそっちね。朝陽さんが菖蒲の子も潰してくれると読んでいたのに、残念だわ」


 それが竜峰学園監督、木澤真希の本音であった。


 というのも、前半戦を終えての順位とスコアーがこれである。


 1位 春乃坂学園   1オーバー

 2位 竜峰学園    3オーバー

 3位 菖蒲学園    5オーバー

 4位 富士アザミ女子 6オーバー


 五人のトータルスコアーで競われるだけあって、一人崩れれば即失速に繋がる大混戦であったのだ。

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