第69話 東海地区大会の始まり
高校生女子ゴルフ、東海地区大会。
今年の開催は8月3日、4日の二日間。
場所は岐阜県T市。
初日に団体戦決勝と個人戦の予選が行われ、翌日が個人戦の決勝。
団体戦では上位2チームが全国大会への切符を手にし、個人戦では10位までが全国の舞台へ進める。
参加校は東海四県合わせて、22校。
最大で7名まで参加できるので、個人戦参加者は154名。
そのうち決勝へ進めるのが、半分の77位タイ迄となっていた。
☆ ☆ ☆
8月3日、AM6:30。
会場となる高岩カントリークラブに着いた春乃坂学園ゴルフ部のメンバーたちは、さっそくスタートの準備に取り掛かっていた。
トップスタートは8:00。
スタート表を見れば、アウトコースの1組目に朝陽瑠利の名。
それも一番左に書かれてるので、本当のトップ。
ただ、三日前にはスタート表が学校へ届き確認しているので、すでに準備は万端。
すぐに身体を解し、練習場で感触を確かめ、今はパッティンググリーン上にいる。
昨日の練習ラウンドで距離感は掴めた。
あとは短いパットの反復練習を繰り返し、スタートに備えるだけだ。
これがデビュー戦とは思えないほど落ち着いた様子の瑠利であるが、そこへ、同じようにスタートの早いカエデが、気持ちを落ち着かせるためか、話しかけてきた。
「ルリ、どうよ調子は」
「あ、はい。絶好調です」
「ははは、そうよね。あんたは、そういう子よね」
「でも、カエデさんだって、昨日は良い感じだったんでしょう」
「うん、まあ……。でも、スタートしてみないとわかんないから。私の場合……」
そう言って、若干緊張気味のカエデ。
ただ、お調子者でもあるから、ノリよく一気に突き進むタイプではある。
「カエデさんは大丈夫じゃないかな、たぶん」
「ちょっと、どういう意味よ」
「えっと、そういう意味です。ハハハ」
そんな会話でリラックスでき、二人ともいいスタートが切れそうだったが、なかなかそうもいかないのが学生たちだ。
パッティンググリーン上には同じようにスタートを待つ生徒たちがいるので、その会話も聞こえてくる。
「ねえ、朝陽瑠利って、どの子」
「えっと、春乃坂学園だから、あそこにいる子じゃない?」
「ちっさ」
「ちょっと、アキラ。失礼でしょう」
「だって、あんな小さな子。中学生かと思ったわよ。名前だって聞いたこともないし、きっと素人ね。最悪だわ」
どうやら同組スタートとなる女子生徒の会話。
二人ともジュニア時代からプレーしており、今日がデビュー戦となる瑠利を甘く見ているようだ。
「ふ~ん、ルリ。舐められてるわよ」
「そうですね。でも、私は今日がデビュー戦だから、仕方ないですよ」
「アハハ、それが仕方ないって言ってる子の顔?」
「あれ、出てました?」
「出てる出てる。まあ、団体戦は個人戦の予選も兼ねてることだし、思いっきりやりな。佳斗おじさんからも、言われているんでしょう?」
「はい、優勝します」
そんな二人の会話にざわつくパッティンググリーン上。
先程の二人には聞こえていなかったみたいだが、近くで練習していた子たちには十分に聞こえる声だった。
「ちょっと、優勝するって、あの子が?」
「でも、春乃坂って……。あれ、あそこは要注意って聞いた気が……」
「確か、あの神川佳斗が関わっているって……」
そう、ゴルフをする者であれば、知っている者は当然いる。
しっかりとした情報を得ている顧問や指導者にいれば、生徒たちにも伝えているはずだった。
それなのに、瑠利はトップスタート。
この大会では、スタート表の組み合わせを過去の実績から決めていたので、ある意味仕方のないことであるが、それを知っている者たちからすれば、一番最初に打つ瑠利は素人と変わらないということになる。
一緒に回る二人もジュニア時代から大会に出ているようだが、目立った実績は無いので、扱いは同じ。
だからだろう。
「あっ、な~んだ。あの子、トップスタートじゃない」
「いるのよね、素人なのに粋がる子って」
瑠利の向かったアウトコース1番ティー。
それを見てバカにしたような声をあげる子もいるが、知らぬとは怖いもの。
この日、大会に参加した者たちは、知ることになる。
その脅威的なスコアーで、会場を震撼させた15歳。
朝陽瑠利。
戦慄となるデビュー戦の幕開けであった。
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ここまでお読みいただきまして、ありがとうございます。
いよいよ東海地区大会が始まりました。
少し悩んだ結果、大会の概要は以下の通り。
初日は団体戦と個人戦の予選。
団体戦参加者は個人戦の予選も兼ねる。
個人戦は77位タイ迄が、翌日の決勝へ進む。
そして、団体戦は上位2チーム、個人戦は10位までが全国大会へ進める。
と、こんなところでしょうか。
他にも必要なことは作中に登場させますので、追々ですかね。
ちなみにインコースの前半スタートは団体戦控えメンバーで個人戦参加者です。
各学校に2人ずついるので、計44人の11組。
その後ろに、実績のある生徒が続く形ですね。
今後は回想シーンなども入りますので、できる限りわかりやすく頑張りたいと思います。
どうか、よろしくお願いします。
※ 大会概要、コースはこのお話オリジナルですので御注意願います。
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