第68話 陸斗の誕生日
7月30日
この日は朝から強い日差しが降り注ぎ、まだ午前中だというのに気温は35度を超えた。
テレビをつければ熱中症で救急搬送された報告が相次ぎ、天気予報では「これから更に気温が上がる予想です」と、注意を呼び掛ける。
そんな、とんでもない暑さの、この日。
陸斗は13歳の誕生日を迎えた。
「誕生日おめでとう」
「ありがとう」
さっそく、父からプレゼントを貰った陸斗。
その中身は見なくてもわかる。
形状から考えて、ゴルフクラブ。
それもドライバーだ。
「わぁ、大人用のクラブだね」
「そうだよ。身体も大きくなってきたから、そろそろ子供用のクラブは卒業かと思ってね。まだちょっと長いけど、すぐに振れるようになるから頑張りな」
「うん!」
これで陸斗も大人の仲間入り。
昨年までは身長が140センチと小柄であったが、すでに146センチと少しずつ伸びてきている。
この様子なら来年には150センチを超えるだろうと、佳斗は考えていた。
「りっくん、お誕生日おめでとう」
「ミサトおばさん、ありがとう」
そして、今度は美里。
彼女の渡したプレゼントもゴルフクラブ。
最新のマレット型パターだ。
シャフトは32インチと短め。
それでもまだ陸斗には長すぎるが、あと一年もすれば丁度良くなるはずだ。
「うふふ、喜んでくれて嬉しいわ」
中学生の陸斗であるが、その反応はまだまだ子供。
それが嬉しくてたまらない美里であった。
それから、詩穂、カエデとプレゼントを渡し、残るは瑠利。
「リクくん、私からもプレゼントよ」
「あっ、ルリ姉ちゃん、ありがとう。この感じだとグローブ?」
「うん、そう。使いすぎて、すぐにダメになっちゃうからね。ここで買った物だけど、包装は自分でしたんだよ」
「ほんとだぁ、ちょっと歪んでる」
「う……、それは言わないで」
「あ、うん、ごめんなさい」
と、こんな感じで和やかな朝を迎えたのだが、陸斗にとっては大変な一日となった。
部活動へ参加すれば……。
「リクト、今日が誕生日だよな。それ、やるわ」
「ああーーっ、タクヤだけ抜け駆けはズルい。僕からも」
「待ってよ、みんな一緒にって言ったでしょう。はい、私からは、これ。お誕生日おめでとう」
「「おめでとう、リクト」」
「みんな、ありがとう」
と、同級生の荒木卓哉、大越啓太、羽村葵衣の三人からプレゼントを貰い、部長の葛城若葉からも……。
「リクトくんは今日が誕生日なんだってね、おめでとう。それと、はい、これ。私からのプレゼント。お父さんも夜にそっちへ行くらしいから、楽しみにしていてね」
「えっ……、あ、はい。ありがとうございます」
「もう、そんな畏まらなくていいの。今は二人きりなんだから、わかばお姉ちゃんだよ」
なんて、どさくさ紛れにそんなことを言いだすが、そこは陸斗。空気を読むのは得意だ。
「えっと、プレゼントをいただいたから、今日だけは、わかばおねえちゃん?」
「いや、なんで疑問形……まあ、いいけど」
と、そんな感じで、ここでもプレゼントラッシュ。
うちへ帰ってくれば、今度は彩夏、明日花、海未と従業員のみんなからも。
夕方になれば、咲緒里とお祖父ちゃん、お祖母ちゃんが来て……。
「いや~、今日は本当に暑かったな。流石に死ぬかと思ったぞ」
「あなた、ずっとエアコンの効いた部屋いたのに、何言ってるのよ。それよりも、リクちゃん。お誕生日おめでとう。もう13歳ね。早いものだわ」
「おお、リクトや。儂からも、お誕生日おめでとう。これは佳斗に相談して選んだゴルフクラブじゃ。使ってくれると嬉しいがのう」
そう言って、控えていた咲緒里が手にしていたものを指し示す。
見たところ長い袋に入っているのでメーカーなどはわからないが、それは間違いなくアイアンセット。
それもフルセットだ。
「えっ、うそっ、いいの?」
「ああ、もちろんじゃ。リクトもずいぶんと大きくなってきたようじゃから、そろそろ必要だと思っておった」
「ええ、昨年よりはずっと成長したみたいだから、今度は一緒にお洋服を買いに行きましょう」
「うん! お祖父ちゃん、お祖母ちゃん、ありがとう。僕、大切に使うよ」
こうして陸斗は今日だけで新しいゴルフクラブ一式を入手。
咲緒里からもちょっとしたプレゼントを貰い、夜になると若葉の父・葛城猛が練習場を訪れ……。
「よう、リクト。今日が誕生日だってな。いくつになったんだ?」
「13歳だよ」
「おっ、もうそんなにか。大きくなったもんだ。で、これが俺からのプレゼントだ」
その猛の差し出したプレゼントというのが、ゴルフバック。
足つきで、アプローチ練習場でもバックを寝転がらせることなく、立たせておくことが出来るヤツだ。
「えっ、いいの?」
「ああ、もちろんだ。まあ、いつか一緒にコースへ行ってくれると嬉しいがな」
「うん、行く!」
「そうか、楽しみにしているよ」
そして、猛は優しく陸斗の頭を撫でる。
彼には子供が娘しかいないため、一緒にゴルフをしてくれる男の子が欲しかったのだ。
とまあ、こんな感じで貰い物ラッシュだった陸斗。
けれど、そうなると気を遣うのが父である。
喜ぶ息子に聞こえないよう注意しながら「よろしいのですか?」と、猛に尋ねる。
すると、彼も……。
「ああ、俺はいつもおまえさんに、ただで教えてもらっているからな。どのみちお金を渡そうとしても受け取らないし、お返しに息子へプレゼントしても、文句はあるまい」
そう言われてしまえば佳斗も納得するしかない。
「すみません、ありがとうございます」
「ああ、いいってことよ。それよりも、また頼むな」
「はい、いつでもどうぞ」
こうして賑やかだった一日が、過ぎっていった。
―――――――――――――――――――――
今回のお話はお誕生日でした。
一応補足ですが、他の子たちの誕生日も載せておきます。
カエデ→5月17日
シホ →6月4日
サオリ→6月10日
ルリ →9月22日
三人は過ぎていますので、あとは瑠利だけです。
もちろん彼女はヒロインですので、何かあります。
僕が忘れていなければですが……。
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