第66話 それぞれの練習風景

 午後1時。

 昼食休憩を終えたゴルフ部メンバーたちの、練習が始まった。


「カエデとルリは練習場へ。私とカナミ、リンは素振り。残った一年生は……リクト、任せていいか?」


「うん、いいよ」


「よしっ。では、練習開始だ」


「「「「「「「「はい!」」」」」」」」


 

 カエデと瑠利は練習場に戻り、ボールを打つ。

 まだお昼を過ぎたばかりで、混むのはこの先だ。 

 もう暫くは自由に打てると、張り切っていた。


「ルリ、勝負よ」


「いいですね、やりましょう」


 そうして始まったのは、ドライバーのコントロールショット。

 ルールは簡単、一番奥にあるグリーンまで200ヤードあるため、狙うはそのグリーン面。

 方向性と距離感を同時に養うことができ、狭いフェヤウェイでも正確に狙い打つことが出来るようになるが……。


「私からいくわよ」


「はい、どうぞ」


 こうして始まった戦いは、思いがけず熱戦だった。


 というのも、ドライバーの飛距離が220ヤードのカエデは方向性がカギ。対する瑠利はバックネットまで届いてしまうので、飛距離をどう落とすかがカギとなる。


 結果、瑠利は200ヤードのドライバーショットに大苦戦。

 一方のカエデもなかなか方向が安定せず、たまに狙い通りに行っても届かなかったりと、こちらも苦戦した。


 ということで、結局は瑠利の勝ち。

 グリップを短く持つことと、スイングスピードを遅くすることで調整した成果であったが、ただ、それまでに8球も掛かってしまったのだ


「思ったよりも難しかったわね」


「はい、苦戦しました。でも、コツは掴んだので、次はもっと早く成功させます」


 瑠利のその言葉通り、二戦目の決着は早かった。

 まだ一度も成功できていないカエデと違い、瑠利は三回目でグリーン面を捉える。


「よっし」


「はやっ」


 そして三戦目は更に早く、一回で決着。


「ふっふ~ん。もうわかったよ」


「いや、マジかぁ……」


 もはや手が付けられないとはこのこと。

 カエデはまだ一度も成功させておらず、これでは全く勝負にならないのだ。


 と、そこへ「面白そうなことをしているね」と、佳斗が声を掛ける。


「あれ、師匠。休憩はもういいんですか?」


「ああ、十分に取ったからね。それよりも、カエデ」


「は、はい」


「クラブは常に身体の正面と教えたはずだよ。無駄に手を動かすから、方向が安定しないんだ。狙ったところに打ちたいなら、手で合わせようとしない事。ほら、やってみな」


 珍しくその口調は厳しいが、それもカエデがすぐに忘れるからだ。

 けれど、アドバイスは的確。

 これまで彼女はグリーン面に乗せようと意識しすぎて、手打ち気味になっていた。

 そのため、方向と飛距離が安定せず失敗していたのだが、佳斗の言葉で一変。


「こんな感じ?」

 

 と、練習で打ってみた打球は、見事にグリーン面を捉えた。


「あ、できた」


「ほら、簡単だろう」


「はい!」


 そう返事をして、元気に頭を下げるカエデ。


 もともと彼女は小さい頃から、姉と一緒にボールを打っていた。

 これまでプロになりたいと思ったことは無いが、熱心に練習を続けていたのだ。 

 その奔放な性格ゆえか、つい色々忘れてしまうが、気づけさえすれば『できる子』なのであった。


「よ~し、今度は負けないからね」


「望むところです」


 こうして二人の勝負は、更に過熱していくのである。



 ☆ ☆


 こちらはアプローチ練習場。


 咲緒里と佳奈美、りんの三名は、管理小屋の窓ガラスに映る自分の姿を見ながら、素振りをしていた。


「充実しているな」


「そうだね。でも、これで最後だと思うと、少し寂しいかな」


 そう話す咲緒里と佳奈美は三年生。夏の大会が最後となり、全国大会へ行けなければ、次の地区大会で終わりとなる。


「心配ない。今年はルリがいる。私たちもあの子の影響を受けて、頑張ってきた」


「そうそう、カナミ先輩は気にしすぎ。全国行けたら、また合宿。それも、もっと長く」


「うふふ、そうね。最大の敵は竜峰学園だろうけど、今年はいけそうな気がするわ」


 その彼女があげる学校こそ、毎年団体戦優勝を義務付けられた、強豪校であるが……。


「ああ、団体戦は五人のスコアーの合計だ。一人でも崩せば危ういが、たぶん大丈夫だろう。まあ、カエデが一番心配だけどな」


「うんうん」


「あはは、それはカエデちゃんが可哀そうね」


 と、そんな会話をしながら、結束を深める三人。

 

 咲緒里と佳奈美はこの合宿も三回目となり、佳斗からのアドバイスも何度か受けていた。

 そしてりんは、ジュニア時代からの猛者である。


 この三人に瑠利が加わり、地区大会優勝も見えてきた。

 ただ、ムラのあるカエデだけがネックであるが、調子に乗れば大爆発もあり得るのが彼女だ。


「まあ、私たちは自分たちの役目を果たせばいい。あとはルリとカエデに任せるだけだ」


「う~ん、ちょっと心配」


「でも、大丈夫な気がするわ」


 そう話す佳奈美も、結局はマイペースな子。

 ちょっとだけナーバスになっていたが、切り替えも早く、もう前を向いていた。



 ☆ ☆


 一方、こちらはパッティンググリーン上の一年生たち。

 教官役となった陸斗の指示で、パター練習をしていた。


 グリーンに空いたカップの穴は四つ。

 昨日のうちに佳斗が準備してくれており、グリーンもこれまで以上に速く整備されていた。

 

「いい、八方向から一メートルのパットを連続で全部沈めたら終わり、次に移るからね」


「「「「は~い」」」」


 相手が年下の陸斗とあって、まだまだ緩い感じの一年生たち。

 けれど、練習に対しては前向きだ。

 彼女たちもまた、瑠利からの刺激を受けているのである。


「おわった~」


 そう最初に宣言したのは平倉萌花。

 彼女は個人戦出場予定で、経験者。

 何度か80台で周った経験があり、団体戦の補欠にも選ばれている。


「よっし、私も終わり」


 二番目もやはり経験者の濱吉陽菜乃。

 彼女もまた萌花と同じく個人戦出場予定で、団体戦の補欠である。

 実力では少し劣るが、この後どう化けるかわからないと楽しみな存在であったりする。


 で、それからしばらくして、ようやく終わったのが早嶋優良。

 彼女は全くの初心者であったが、入部から四か月。徐々にゴルファーらしくなってきた。

 もともとは女子のゴルフウェアーが可愛いからと入部したのがきっかけで、今ではすっかりゴルフにも嵌まっている。

 ただ、ヘッドカバーへのこだわりが強く、どこから見つけてきたのか、全て動物もので統一されていた。


「はぁ……、おわったぁ……」


 最後に、そう疲れ切ったように呟いたのは、西原紗英。

 彼女もまた初心者で、幼馴染みの優良から誘われて、ゴルフ部に入部した子だ。

 初めはよくわからずであったが、最近では面白く感じ始めていた。

 まだまだ自分が一番下手だと自覚はするものの、『瑠利のようになりたい』と憧れを抱いていたりする。


 と、こうして四人とも終了したわけだが、もちろんこれで終わりなわけない。


「全員終わったみたいだから、カップを変えてもう一回ね」


「「「「えっ……」」」」


 その陸斗の無常なる一言に、凍り付く四人。

 だが、当たり前である。

 カップは四つ。

 その場所ごとにラインの読みは違うのだ。


 で、彼女たちは悟った。


「「「「これが、あと三回続くの?」」」」


「そうだよ」


 楽しげに笑う陸斗が、小悪魔に見える一年生たちであった。






―――――――――――――――――――――


ここまでお読みいただきまして、ありがとうございます。


少し修正を致します。

部活動に関してなのですが。


部長→主将

副部長→副将


と、変更しました。


調べた感じだと、どちらでもいいみたいなのですが、運動部なのでこちらの方が良いのかな判断しました。


申しわけありませんが、よろしくお願いします。


 

 

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