第64話 強化合宿の始まり
「「「「「「「「 よろしく願いします! 」」」」」」」」
集合時間の午前10時。
神川ゴルフ練習場には、春乃坂学園ゴルフ部の生徒たちが集まっていた。
迎えるのは佳斗と美里、詩穂の三人。
特に詩穂は昨年度の部長であったため、また後輩たちに会えて嬉しいようだ。
「みんな、よく来たね」
「はい、お世話になります」
「キャプテン、おひさ」
「ははは……、りんは相変わらずか」
「うん、変わりない」
「……まあ、二人とも元気そうでなりより。で、そっちの子たちが一年生ね」
詩穂は昨年一緒だった佐子田佳奈美と舞木りんの二人と軽く言葉を交わし、後ろに控える一年生を見る。
「初めまして、平倉
「濱吉陽菜乃です」
「
「
四人が自己紹介すると、詩穂はある特定の二人組に視線を向ける。
「コホン……、私は夏目詩穂。そこにいるカエデの姉です。一応言っとくけど、みんな普段通りでいいからね。特に平倉さんと濱吉さん。二人については妹からよく聞かされているから」
それは苦情ではなく、感謝の気持ち。
妹を慕ってくれているとわかるからだが、彼女たちの反応は相変わらずだ。
「おお、さすがカエデ先輩のお姉さん、話が分かるぅ」
「うん、先輩とは大違い」
などと、本人を目の前にしての酷評だ。
それをカエデは少し怒った風に注意する。
「ちょっと、あなたたち全部聞こえてるからね」
「ゲッ、マジか」
「先輩の地獄耳」
「あなたたちねぇ……、私は隣にいるでしょうが!」
「ははは……」
そんなやり取りに若干引き気味の詩穂だが、まあ今更である。
むしろ「今年も楽しくなりそうね」と、賑やかな後輩たちを歓迎するのだった。
一方、その隣ではゴルフ部の顧問教師である東矢章乃が、佳斗と美里に挨拶をしていた。
「すみません、生徒たちがお世話になります」
「いえ、こちらこそ。今年も手伝っていただけて助かります」
「そうね、今は人手が全く足りていないもの」
恐縮した様子で話す顧問教師に佳斗と美里が答える。
昨年との違いは生徒の数。
一年生が五人も入ったことで、今年は九人に増えていた。
だが、もともと瑠利はここに住んでいるし、女子寮もあるので昨年よりも環境はいい。
おまけに練習場も手伝ってもらえるし、どちらもウィンウィンの関係だった。
「では、よろしくお願いします」
「はい、先生もゆっくりしていてください」
こうして始まった強化合宿。
とりあえずは一番端の打席を交代で使う。
学園の練習場では短かった正面ネットも、ここでは250ヤードと瑠利以外では届かない距離だ。
それを制限なしで打てるとなれば、練習にも力が入る。
「まずは団体戦のメンバーからだ。カナミとリン。今は空いてるから私も含めた三人だな。カエデとルリは一年生を頼む」
「は~い」
「わかりました」
咲緒里の指示で部員たちがわかれる。
この時間は空いているので三打席同時に利用し、お客さんが増えたら席を空け、一人が打ち、残り二人がスイングのチェックをするという計画だ。
ただ、今日はとても暑いので、お客さんは少ない。
若い彼女たちならともかく、日陰とはいえ、扇風機だけではシンドイものがある。
そのおかげか十分にボールを打つことができ、充実した練習を行えた。
「三人ともスイングは安定しているから、不安があるとしたらスタミナかな。夏場の競技は前の組を待っているだけで疲れるから、対策が必要だよ」
途中からスイングのチェックやアドバイスをしてくれていた、佳斗からの忠告。
「はい、それについてはいくつか対策を考えてあります」
その咲緒里の言葉に、りんと佳奈美が追従。
「私、首を冷やすやつ、買ってきた」
「あと、オデコね」
「ははは、太い血管が通っているところを冷やすのが、手っ取り早いからね。あとは、こまめに汗を拭くことも大事だよ。水分管理を徹底し、飲み過ぎない事にも注意が必要かな」
「はい、その辺りは、もう一度話し合っておきます」
「「「ありがとうございました」」」
こうして、指導をしてくれた佳斗に三人が頭を下げる。
時間的にもお昼であり、メンバー全員が女子寮の食堂に集まるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます