第63話 強化合宿
7月も後半に入り、学生たちは待望の夏休みへ突入。
真夏の暑い太陽が照り付ける中、陸上部に入った陸斗は元気に
「よっし、次は50メートルダッシュ10本」
部長の葛城若葉の声で、部員たちが順番に50メートルダッシュを繰り返す。
それに体力のなかった陸斗もギリギリではあるが、ついていけていた。
これまで小さかった身体も5センチほど伸び、持久力もアップ。
毎日走ることで食事量も増し、それが成長に繋がったのだ。
「リクト、大丈夫か?」
「うん、なんとか。それにしてもタクヤくんは平気そうだね」
「ああ、こんなもん楽勝だよ」
「いいな」
全く疲れを見せない荒木卓哉から声を掛けられ、陸斗は羨ましそうに小声で呟く。
まだ小柄な陸斗に対し、卓哉は一年生ながら身長は160センチを超えていた。
将来の夢はプロゴルファー。
それを叶えるためにも、よく食べ、よく動き、順調に成長しているのだ。
陸斗はそれがとても羨ましく、自分がもっと大きかったらと、本気で悩み始めていた。
まだ将来のことを決めていないが、お父さんと同じゴルフの道へ進みたいとも考えている。
そのためにも今は体力をつけ、身体を大きく成長させなければならない。
「僕ももっと頑張るよ」
「ああ、そうか。よしっ、頑張れ」
陸斗のそんな宣言に、卓哉も嬉しそうに言葉を返すのだった。
☆ ☆ ☆
「よっし、恒例の合宿をするわよ!」
不意にカエデがそう声を張る。
「カエデ……、なんであんたがそれを宣言するの?」
「えっ、だって、するんでしょう」
「そりゃあするけど、それは主将の私が云う事であって、あんたが宣言してどうするの」
ここは春乃坂学園高校のゴルフ練習場。
元は野球部の練習場をゴルフ用に改修したもので、対面ネットまでは50メートルほど。
少し物足りなさはあるが、いきなりネットというわけではないので、まだマシだ。
ただ、夏の大会前にこれだけでは不十分なので、合宿を張ろうということなのであるが……。
「相変わらずよね。カエデ先輩」
「うん、空気が読めない感じ」
「ちょっと、聞こえてるからね。萌花、陽菜乃」
「でも、一理ある」
「うるさい、りん」
この仲良しカルテッドとでも言うべきか、最近では見慣れた光景となった、この会話。
ちょっとおバカなカエデを三人で弄るというものだが、それだけ慕われているのも事実。
「ハイハイ。いい聞いて。さっきおバカなカエデに先を越されたけど、夏の大会前に強化合宿をするから。
場所は神川ゴルフ練習場。前にも言ったけど、日にちは25日から27日まで。
今年は女子寮もあるし、カエデは自宅へ帰るから、部屋に余裕はあると思うわ」
咲緒里のその宣言に、部員たちから歓声が上がる。
「やったー、ルリの部屋行こう」
「いいよ」
「私はリクトくんに会ってみたかったのよね」
「わたしも!」
「カエデ、頑張れ」
「なにが?」
前半は一年生たち、そして舞木りんとカエデの会話。
それを苦虫でも嚙み潰したかのような表情で見つめる咲緒里と佐子田佳奈美。
三年生の二人はこの合宿の大変さを、よく知っていた。
というのも、練習場へお世話になるのだからお手伝いは必須。
朝の5時から作業を始め、その後は練習させてもらうアプローチ練習場の整備(草取り)などを行い、それからである。
今年は一年生の数も多く、瑠利たちが良く練習しているので整備は簡単に終わるが、そのぶん芝は傷みやすい。
目砂や散水などをして、労わることが大切となる。
「いい、みんな。起床は4時半。それからボール拾いをするからね。起きれなかったら、朝食は抜き。練習も無し。わかった?」
「「「「は~い」」」」
まだまだ浮かれ気分な一年生たちであった。
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