第62話 東海地区大会出場校と登録選手

 竜峰学園高等部女子ゴルフ部。


 毎年全国大会への切符を手にし、これまでにも城野真理香や森沢彩夏といった高校界のトップ選手を輩出してきた、ゴルフの名門校だ。

 

 東海地区大会での団体戦優勝は、もはや義務。

 今年こそは全国優勝を、と期待されている高校なのである。



 けれど……、部室に集められた部員たちは、今日届けられた東海地区大会出場校と、その参加選手の載った用紙を、真剣な面持ちで眺めていた。


 彼女たちの見つめる先は、一点だけ。


『春乃坂学園高校 吉瀬咲緒里 佐子田佳奈美 夏目カエデ 舞木りん 朝陽瑠利 平倉萌花 濱吉陽菜乃』


 団体戦出場選手は五人。

 当日の状態を見て調子のいい選手を選ぶのが普通であるが、後ろ三人は一年生だ。

 となれば、その中で誰が選ばれることになるかが問題だが、補欠は間違いなく後者の二人。


「やはり、出てきたか……」


 そう呟いたのは竜峰学園高等部女子ゴルフ部の主将・浜辺はまべ聖来せいら

 昨年の主将であった佐々野明日花の後を継いだ、竜峰学園のエースだ。

 今年こそ悲願の全国制覇達成を目指し部員たちを引っ張ってきたが、ここで思わぬ障害に出くわした。


「朝陽瑠利ですか?」


 主将の言葉に反応するのは、副将の澄田すみだ咲月さつき

 彼女もまた全国区の実力者であり、当然のことながら団体戦のメンバーだ。


「ああ」


「やはり、警戒が必要ということですか?」


「そうだな」


「ハァ……」


 昨年の団体戦メンバーに選ばれ、全国にも名の知られる主将と副将の、この会話。

 

「ゴクリ……」


と、息をのむ者もいれば、悲壮感を漂わせる者もいる。


 だが……、実情を知らぬ者には、理解できぬもの。


「ですが、たった一人抜けた存在がいたところで、脅威になるとは……」


 あまりにも重い空気に耐えきれず、部員の一人が、そんな言葉を口走る。

 

 ここは全国大会出場が約束された高校だ。

 それなのに、何故このような雰囲気になっているのかと。


 たった一人の突出した才能があったところで、団体戦となれば話は別。

 参加選手五人が揃って好スコアーであがれなければ、優勝などまた夢である。


 それに……。


「朝陽瑠利なんて名前、ジュニアの頃からも聞いたことありませんけど……」


 そう口にするのは、ジュニア時代から活躍してきた香坂こうさかしずく

 彼女もまた団体戦のメンバーで、将来を期待される存在だ。

 まだ二年生ということもあり、来年度の主将候補ではあるが、まだまだ甘かった。


「香坂」


「はい」


「なにもジュニアの頃から活躍してきた選手だけが、有望というわけではないぞ」


「はい、もちろんわかってますが……」


 主将の言葉に、やや不満そうな香坂雫。


 これまでにも遅咲きの選手はいないこともないが、それでもどこかで名の知れた者が多かった。

 けれど、朝陽瑠利という名は、全くの無名。

 たとえ小さな大会だったとしても、一度も聞いたことが無い名である。


 それが何故、こんなことになっているのか。


 理由は簡単。その実力を知る者がいるからだ。


「菊田、教えてやれ」


「は、はい」


 そう返事をしたのは、菊田杏奈。

 まだ一年生ながらも団体戦の補欠に名を連ね、個人戦への出場を認められた竜峰学園の将来を背負って立つ生徒だ。


 彼女はパシオンゴルフガーデンで練習していることもあり、瑠利とは顔なじみであった。


「私はルリと同じ練習場にいたのでよく知っていますが、あの子は化け物です……」


「化け物?」


「はい、年明けに大内雄介プロの主宰する新年会があったのですが、そこで城野真理香先輩と仲良くなり、一緒にコースへ出たとか。その時一緒に回った桃川涼花プロと有岡里桜プロも、次一緒に回ったら勝てるかわからないと言っていたみたいで……」

 

 杏奈はそこで言葉を途切れさす。

 

 というのも、話を聞いていた香坂雫の様子が変わったからだ。


「ちょっと、どうしてその子が大内雄介プロの主宰する新年会に出られるのよ。おまけに城野先輩たちと一緒にプレーしたって、おかしいでしょう」


 それは当然の反応。知らなければそんなものだ。


「えっと、それは……」


 そう言葉を濁す杏奈に、主将が続きを促す。


「菊田、全て話せ」


「はい……。ルリは大内雄介プロのキャディーをしている神川佳斗プロに、弟子入りしました。それから名簿にある吉瀬咲緒里さんと夏目カエデさんは神川佳斗プロの姪です」


「はあ?」


 その特大な情報は香坂雫を含め、主将たちの態度に疑問を抱いていた者たちを黙らせた。


 昨年秋ごろから、急に聞くようになった、その名前。

 地元の英雄・大内雄介プロが優勝した際の立役者。

 そして、今年も続く活躍に、一躍時の人となった神川佳斗。


 その弟子と姪が二人揃った春乃坂学園ゴルフ部。

 おまけに舞木りんと香坂雫はジュニア時代からのライバルだった。


「何よ、それ。最悪じゃない」


「ふふふ、わかったようだな」


「はい、申し訳ありません」


「わかればいい。連勝記録を私の代で止めるわけにはいかないからな。お前たち、頼むぞ」


「「「「「「「「「はい!」」」」」」」」」



 こうして竜峰学園高等部女子ゴルフ部のメンバーは、結束を深めるのだった。






―――――――――――――――――――――


ここまでお読みいただきまして、ありがとうございます。


これから東海地区大会、全国大会へと進むわけですが、正直、高校ゴルフ競技の実態を知りません。

ですので、ここからは完全オリジナルの大会と日程です。

ご了承ください。




 


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る