第59話 新しい仲間

 五月中旬。

 

 稼ぎ時であったゴールデンウィークを過ぎてもお客の入りが変わらない神川ゴルフ練習場は、引き続き忙しく、全く手の足りていない状況だった。


 これまでお客さんの入らなかったことが嘘であるかのような、混雑ぶり。

 料金等は一切変わっていないのに、お客さんが来るのは何故か。


 その理由は至極単純。

 神川ゴルフ練習場では、打席料を取っていないのだ。

 ボールは500円で50球、1000円で100球。

 1球10円の計算であるが、料金(500円玉か千円札)投入口にお金を入れるとそれが出てくる仕組みで、ボール受け口に専用のボール籠を置いておけば完了だ。


 あとは、自分のキープした打席まで運んでいき、好きなように打てばいいだけ。

 常連さんたちは受付で、30球を300円で買えると知っているので、大概がそれだ。


 一般的な練習場でかかる打席料を200円程度だとすれば、むしろ格安。

 ガッツリ練習するのではなく、少しでも打ちたいという人たち向けの練習場なのであった。


「もう、この人数では厳しいわね」


「はい、ここのメリットを皆さんが知ってしまいましたから、これからはもっと増えるでしょうね」


 そう話すのは美里と海未。


 平日の午後だというのに、打席は満席。

 一人20分程度で帰っていくので回転も速いが、それを見越して来るお客も多い。


 流石にもう、限界である。

 嬉しい悲鳴を通り越して、もはや絶叫。

 いい加減、スタッフを増やさなければ、無理な状況であった。

 

 というのも、陸斗と瑠利は学校へ行き、部活動もあるので平日祝祭日問わず、出かけていく。

 彩夏はプロテストの予選会や、アマチュアでのツアー参加を目指して競技に出て、佳斗は大内雄介プロのキャディーで留守。

 そして、店長の詩穂は大学との両立で、一年生の今は授業も多く、時間もあまり取れないのだ。


 今は詩穂が早朝と夜を担当し、海未が朝8時から夕方5時まで出勤して間に合わせているが、替えがいないという実状。

 これまでみたいに暇であったなら臨時休業という手も使えたが、流石にそれはもう無理というもの。


 ということで、パシオンゴルフガーデンから、新しいスタッフが派遣されてきた。


「初めまして、佐々野ささの明日花あすかです。よろしくお願いします」


「ようこそ、神川ゴルフ練習場へ。私は夏目美里。娘の詩穂からは、何度か会ったことがあると聞いているわ」


「あ、はい。大会の時に顔を合わせることも多かったので」


 そう話す彼女は詩穂と同い年で、竜峰学園のゴルフ部出身。

 卒業後はプロを目指したいと大内雄介プロの門下生となったが、一人暮らしを夢見る彼女は、寮完備なうえ、尊敬する先輩の森沢彩夏がここにいると知り、移動を決意。

 そして、今日を迎えたのであった。


「部屋はまだ三つ開いてるから、好きな部屋を選んでって、どれも一緒だけどね」


「あ、はい。では森沢先輩の隣で」


「じゃあ、細かいルールなんかはアヤナちゃんが帰って来たら聞いてもらうとして、今日はどうしましょう」


「それでしたら、早く仕事を覚えたいので、さっそくですがいいですか?」


「ええ、私は構わないけど……いいの?」


「はい!」


 そう気持ちよく返事をする明日花。


「受付にはウミちゃんがいるから、教わるといいわ。もうじき詩穂も帰ってくるから、その時は休めばいいからね」


「はい、ありがとうございます」




 こうして神川ゴルフ練習場に、新しい仲間が増えたのだった。






―――――――――――――――――――――


ここまでお読みいただきまして、ありがとうございます。


一つ補足ですが、受付には50球と100球のボール籠も用意されています。

理由は、常連さんがその場で購入されていくこともあったからで、お客さんが少ないから自由だったんですね。


ということで、カクヨムコン9お疲れさまでした。

この後は10日ほど休んで、週に2回の公開を目指したいと思います。

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