第58話 部活動への参加

 ゴールデンウィーク終盤。

 

 陸斗は父が留守にしていたことで休んでいた、陸上部の活動に参加していた。



「ハア、ハア、ハア……、もうしんどい。僕って体力ないなぁ……」


 学校の外周、一周800メートルほどの距離を五周走る練習中。

 同じ陸上部の同級生たちから置いて行かれた陸斗は、はるか先を眺めながら、そう呟く。


 まだ二周目だというのに、前方に同級生たちの姿は無く、どれだけ離されているかも分からない状況だ。

 もはや追いつくなど不可能で、むしろもう歩きたいというのが本音。

 

 部長からは『休み明けなんだから無事に完走すればいいよ』と言われているが、実現できるかは難しい。


 朝、早起きして仕事を手伝い、それからの部活。

 おまけに、まだ陸斗の身長は、小学四年生の平均と同じ。

 それで四キロ越えの距離を走るなど、無理があるというもの。

 もともと足が速く、趣味で市民マラソンに参加するような子供であれば可能かもしれないが、これまでにそんなことはしてこなかった。

 ついでに言うと、ペースも速い。

 仮にも陸上部の練習なのだから、当然だった。


 それでも根性だけは人一倍の陸斗は、必死になって走り続けた。


 三周目も終わり、四周目に突入。


 だが、そこで後ろから、軽快な足音が聞こえてくる。


「あっ! リクトくん見っけ」


「ハア、ハア、ハア……、カ、カツラギせんぱい? ハア、ハア、ハア……」


 それは、だいぶ離されてはいるが、後ろに一年生の部員たちを引き連れた、部長の葛城若葉わかばだ。


「チ、チ、チ、リクトくん。わかばお姉ちゃんって呼んでいいんだよ」


 疲れているのに、そんな無茶な要求をする彼女は、神川ゴルフ練習場の常連でよく佳斗の指導を仰いでいる葛城猛の次女。

 陸斗がまだ小さかった頃からの顔なじみで、昔は『わかばおねえちゃん』と呼んだりしていたが、上下関係の厳しい運動部では無理がある。


「ハア、ハア、ハア……、む、むりです。ハァ、ハア、ハア……、だって、せんぱいだもん。ハア、ハア、ハア……」


「じゃ、じゃあ、部活動以外の時でもいいよ、ね」


「ハア、ハア、ハア……、むり、です。ハア、ハア、ハア……」


「くうぅぅぅっ、残念……」


 そうして諦めの悪い若葉は腕を目に当て泣きまねをしてみせるが、もちろん嘘だとバレバレ。

 もう陸斗も相手をしている余裕はなく、無言。

 

 ただでさえシンドイのに、若葉の相手で声を出してしまった。

 これ以上はもう無理と、走ることに専念したいのであるが、今度は同級生たちの足音が聞こえてくる。


「ハア、ハア、ハア……、タクヤ、くん……。ハア、ハア、ハア……」


 気になった陸斗が後ろを振り返ってみれば、先頭を走るのは同じクラスの荒木卓哉だ。

 

 彼は新しくできた友人で、一緒にゴルフ練習をする仲でもある。

 まだ入部先を決めていなかったこともあり、ゴルフをするなら足腰の鍛錬は重要だよと話したところ、『じゃあ、オレも陸上部に入る』と、なったのだ。


「よし、リクトが葛城先輩の足止めをしているうちに、追い抜くぞ!」


「「「「「「「 おおっ! 」」」」」」」


 卓哉の叫びに、他の部員たちも呼応。 

 一気にペースを上げる。


 だが、そんな声を発してしまえば、若葉も気づく。


「あっ、いっけね。じゃあ、リクトくん。無理しなくていいからね。バイバイ」


「ハア、ハア、ハア……、ありがとうございます。ハア、ハア、ハア……」


 どこにそんな体力が、と思えるほど余裕な様子の若葉に礼を言って、陸斗は辛抱強く走り続ける。


 それを荒木卓哉、以下が簡単に抜き去っていく。

 若葉が陸斗と遊んでいるうちに追い抜こうとしたが、気づかれてしまった。


「ああーーっ、部長が逃げたぞ! 追いつけえぇぇえ!」


「フフフ、抜けるものなら、抜いてごらん。フッハハハハハハ」


 そうして結局はトップが葛城若葉。そして次が荒木卓哉、以下部員たちである。

 所詮は一年生と三年生。結果はわかり切った物であったが、陸斗はそんな彼らが見守る中、一人五周目に突入するのだった。






―――――――――――――――――――――


ここまでお読みいただきまして、ありがとうございます。


今回は部活のお話。

先輩たちはグランドで種目別の練習をしているので、部長の若葉が一年生の面倒を見ているといったシチュエーションですね。

子供の頃は身体の大きさで体力面なども違ってきますから、陸斗はまだまだ。

でも、こういう子は成長期になれば伸びるので、すぐに追いつくと思います。

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