第47話 三学期を迎えて
三学期が始まり、陸斗と瑠利、そして詩穂の三人は、今の学校で過ごす最後のシーズンとなった。
陸斗が進学を予定しているのは、地元の
この辺りの小学校、三校が集まるだけの小さな中学校だ。
全校生徒は280人ほど。
とくに盛んな部活動もなく、強いてあげれば野球部が、いい成績を残しているくらいだ。
ただ、それでも地区大会では、ベスト8止まり。
優勝なんて夢であり、選手層の薄さがその理由であった。
そんな学校へ入学を予定する陸斗は、どの部活動へ参加するか悩んでいた。
もしゴルフ部があれば、一択。
けれど、公立の中学校には、なかなかあるものではない。
そこで、陸斗が考えているのは、陸上部。
名前が似ている、なんて安直な理由ではなく、父の勧めである。
今後、もっとゴルフをしたいと思ったとしても、実家は練習場だ。
おまけに父はティーチングプロで、誰よりも教えるのが上手い。
となれば、足腰の強化に最適な、陸上部一択。
目的も、競技への参加ではなく、トレーニングである。
佳斗としても、それで駅伝などの競技に目覚めても構わないと思っており、まだ目的の決まらない息子に、幅広い選択肢を与えたいと考えていた。
その決断をするまで、あと三か月。
「僕って、何が向いているのかなぁ」
そう呟く陸斗は瑠利と出会ったことで、これまでとは全く違う世界が見え始めていた。
そのため、今後の目標について、本気で考えるようになっていたのである。
☆ ☆ ☆
一方、春乃坂学園高校を卒業する予定の詩穂は、受験勉強に大忙しだ。
目指す大学は春華女子大。
そこで経営学を学び、練習場の経営に生かそうと考えていた。
学生であり、経営者。
その二足の草鞋を実現するためにも、絶対に受かりたい。
高校での学力判定の結果はAで問題ないが、何が起こるかわからないのが受験だ。
偶然、勉強していなかったところばかりが出題されてしまい落ちた、なんてことになったら、目も当てられない。
ここは最後まで気を引き締め足掻き続けてこそ、未来がある。
『ルリちゃんには悪いけど、ちょっと見てあげられないわね』
そう、心の中で謝る詩穂であるが、今の自分があるのは瑠利の御かげ。
叔父である佳斗の弟子になりたいと言ってくれた瑠利がいたからこそ、この変化があるのだ。
「みんなのためにも、絶対に合格するから、待っててね」
他に誰もいない自分の部屋で勉強しながら、詩穂はそんなことを呟くのだった。
☆ ☆ ☆
新学期が始まり、実家へ戻った瑠利は、プロたちと一緒にプレイしたゴルフのことで、頭が一杯だった。
悔しいけど、すごく楽しい。
そんな気分を味わえたのだから、当分はこの思考に支配されていることだろう。
だが、彼女は受験生。
まずは高校入試を成功させなければ、先はない。
けれど、やはり気分は上の空。
「ムフフ」
と、怪しげな笑みを浮かべ、両親をドン引きさせていた。
これがいつまで続くのか。もうすぐ高校受験が控えているのに。
それを心配する両親だが、実はすでに安全圏内。
流石は現役の春乃坂学園生のカエデ。
頭だけは良かった。
勉強の教え方も、普段の残念な部分はなりを潜め、優秀な教師であったのだ。
「あっ、そろそろ勉強しようかな。カエデさんに教えて貰ってから、すっごく点数が伸びたのよね。わたし、天才って思ったけど、教え方が上手いんだろうな。流石は師匠の家系、って事なんだよね、たぶん……」
不意にそう呟いた瑠利は、自室の机に向かう。
あの経験をしたことで、気持ちの切り替えがスムーズにできるようになっていた。
おかげでトリップした時には周りから不審に思われたりするが、戻ってくれば普通である。
最近では友人たちから『もう終わった? 妄想』と突っ込まれることも、しばしば。
ただ、そう聞かれて「アハハ」とはにかむ瑠利が可愛いくて、意外にも評判が良かったりする。
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