第44話 春乃坂ゴルフクラブ④

 2番ホール、175ヤード、パー3。


 ここはティーグランドからグリーンに向かって、5メートルほどの打ち上げ。

 ガードバンカーは右に一つというホールだ。

 そしてグリーンの形状は縦に長く、横に短い。

 手前から奥まで42ヤード、左右の幅は20ヤードと極端で、右のガードバンカーにつかまった場合、グリーンへ乗せるには僅か20メートルの幅にしか打てず、プレッシャーとの戦いとなる。

 ホームラン(ガードバンカーで直打ちして、まともにボールが飛んでしまうこと)一発で、即アウト。

 そんな危険を孕んだホールであるが、グリーン正面は開いているので、比較的簡単なホールと言えよう。



 そこへ、四人がカートで移動してきた。


 このホールでの打順は、前のホールでのスコアーが少ない順だ。

 1番ホールでバーディーを取った城野真理香が最初、次に涼花、里桜、瑠利の順で、先程と全く同じである。


 プロ三人は、練習であっても世間話をしながらのお気楽なラウンド。

 けれど、さっそく前のホールで出遅れた瑠利は少し違う。

 一ホール終えたことで余裕ができ、視野も広くなっていた。


 先程のミスの理由は、ガードバンカーを怖れて、番手を一つ上げてしまった事。

 ゴルフの基本は手前からであり、奥へ着けてはダメなのだ。

 そう考えれば、やるべきことは一つ。

 たとえグリーンに乗らなくても、ボールを手前に止めることである。


「よしっ」


 と、瑠利は一つ気合を入れる。


 このホールもピンポジションは、グリーンのフロントエッジ(手前の縁)から10ヤードほどと、かなり前。

 ティーマーク横の看板は175ヤードと表示されていても、これはグリーンセンターまでの距離で、実質の距離はピンが前にあるぶん差し引かれ、165ヤードほどであろう。

 であれば、上りを考慮しても5アイアンで届く距離だ。


 瑠利は迷わず5アイアンを手に取る。

 今度こそ、きっちり距離を合わせてボールを打つと決めた。


 そんな心構えでプロたちのショットを眺めていると、三人とも6アイアンで良さげな球を打つ。

 ティーグランドからグリーン面は見えないが、たぶん寄っているのだろうと想像はついた。


「凄い」


 それが瑠利の、素直な感想だ。

 テレビで見ていてもわからなかったが、目の前で直に体験すると、その凄さは際立つ。

 当然のことのようにピンへ絡んでくるショット力は、今の瑠利にとっては鳥肌ものであった。


「これがプロか……」


 まだ、たったの二ホール目ではあるが、瑠利はあまりのレベル違いに気づいてしまった。


 アマチュアが必死になってパーを取るのに対し、プロは息をするようにバーディを取る。

 焦りなんて必要ない。18ホールすべてがバーディチャンスなのだから。


 そこに早くも気づいた瑠利は流石であるが、いかんせんまだ実力が足りなかった。


 真似しようったて、一朝一夕で出来ることではない。

 長い修練の賜物なのだから、いまの瑠利には無理なのだ。


 とはいえ、そこで諦めたら終わりである。

 むしろ、こんな機会を与えてくれたプロたちに、彼女は感謝していた。


 あの後ろ姿こそ瑠利の目指すべき道であり、今後の目標となるのだ。


「ありがとうございます」


「なによ、急に?」


「ルリっちが変」


「真理香さんも、里桜も、ルリちゃんに失礼よ。この子、鋭いから、もう気づいたみたいね」


「へへへ」


 そうして、ヘニャっと笑った瑠利は、集中力を高めボールを打つ。

 

 その球は低い角度で飛び出し、3バウンドして転がり、グリーンへ乗った。


「おおっ」


「やるわね」


「ナイスゥ」


 それが里桜、真理香、涼花の反応である。



 結局、ここは四人ともにパー。


 次のホールへと進むのであった。


 

 


 


―――――――――――――――――――――


ここまでお読みいただきまして、ありがとうございます。


ゴルフ用語全ての解説は無謀すぎるので選びながらですが、最初にこれを済ませておけば後が楽。

そう信じて補足をしているのですが、その結果、読みにくく感じられているもしれません。

どうか、ご容赦を。

 

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