第42話 春乃坂ゴルフクラブ②

 春乃坂ゴルフクラブの一番ホールは、395ヤードのパー4。


 ティーグランドのすぐ先から10メートルほど打ち下ろしており、250ヤード先の両サイドにはクロスバンカー(コースの途中にあるバンカー)。

 そこからグリーンまではフラットであるが、手前と左にはガードバンカー(グリーンを守るように囲うバンカー)が効いており、グリーンオンさせるにはキャリーで直接狙うしか方法はない。

 

 ティーショットである程度の距離を出し、二打目で少しでもロフトのあるクラブでグリーンを狙いたいところだが……。



「それじゃあ、私からいくわね。次が涼花、里桜、瑠利の順番だから、よく見とくのよ」


「「「はい」」」


 まず最初にティーショットを打つのは、実力者でもある城野真理香。


 アマチュアである瑠利への手本というわけだが、彼女の打った打球はバンカーとバンカーの間。

 狭いフェヤーウェイのど真ん中だった。


「凄い」


 瑠利はその正確なショットに、目を見張る。

 単純計算で飛距離も約270ヤードほど出ており、豪快な一打となった。


 けれど、続く涼花と里桜も若干飛距離は落としたものの、そう変わらぬ位置だった。


 そんなプロに混ざって自分がプレイしていることに、瑠利は改めて気を引き締める。


 彼女にとって、ここのコースは2年ぶり。

 中学一年生の時、両親に連れてきて貰って以来だ。

 その時はまだ体も小さく、飛距離もまだまだ。

 スコアーも92と崩れてしまい、大泣きした記憶がある。


 あれから身体も大きくなり、自信が持てるまで飛距離も伸びた。

 今度こその気持ちであり、この機会に嫌な思い出を拭っておきたい。


「よしっ」


 一言そう呟き、プロたちに向かって「お願いします」と、頭を下げる。


 そうして、迷いなく振り抜いたドライバーに弾かれたボールは高々と上がり、バンカー手前辺りのフェヤウェイど真中にドスンっと落ちた。

 ランが出なかったのは角度の問題だろう。ボールが低い打球程転がるのは当然で、高い球程転がりは少ない。

 ただ、それでも240ヤード出ていれば十分。


「グッショッ。いい球ね」


「ありがとうございます」


 プロ三人の球からは置いて行かれたが、それでも出だしとしては幸先のいいショットであった。

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