第34話 クリスマス
12月25日。
神川ゴルフ練習場では、今朝から子供たちがサンタのコスプレをして接客していた。
受付の席に座る美里は帽子だけであったが、陸斗と瑠利、カエデ、詩穂はフル装備。
もちろん、保護者がいるのでスカートではなく、ズボンだ。
彩夏も少し恥ずかしそうではあるが、同年代の子たちに混ざって楽しんでいた。
「まさか、こんな格好をさせられるなんてね」
「ふふふ、ここでは毎年こうなのよ。ねっ、お姉ちゃん」
「うん、まあ……。でも、ちょっと恥ずかしくはあるのよね、いいかげん……」
なんてことを言っているが、一番気合の入っているのが詩穂である。
というのも、彼女はすでに、ここの代理店長を任されることが決まっていた。
まだ学生の身であることを考慮し、佳斗がオーナーという立場でサポートする予定であるが、やるからには実績を上げたいというのが本音であろう。
売り上げを伸ばすためにも、こういったイベントは大事である。
多少の恥ずかしさは我慢してでも、固定客を増やそうと頑張っているのだ。
「ほらほら、カエデ。お客さんたちにお菓子を配りにいくわよ」
「は~い」
「彩夏さんも、お願いしますね」
「ええ、頑張ってみるわ」
そうしてカエデは嬉しそうに、年長組は若干の恥ずかしさを抱えながら、事務室を出ていった。
一方、子供たちは元気一杯だ。
陸斗はもちろん、瑠利も恥ずかしさなど微塵も感じていない様子。
打席のテーブルを拭きながらも、常連のおじさんやおばさんたちに話しかけられ、楽しそうにしている。
「ほう、今日はクリスマスか」
「うん、見てみて、サンタさんだよ」
「そうか、じゃあ、プレゼントをあげなきゃいけないな」
「ええ~、ぼくが渡すんだよ~」
「ハハハ、もう頂いてるよ。楽しい気分にさせて貰ったからね」
そんな話を陸斗とするのは、常連の清水
先代の頃からの常連さんで、幼少時代の陸斗をよく知る人物でもある。
亡くなった先代の代わりに、彼の孫の成長を見守ろうと、ずっと通い続けてくれているのだ。
まだ老け込む
そして他にも。
「おっ、なんだリクト。今日はコスプレか?」
「あっ、タケルおじさん、こんにちわ。だって、今日はクリスマスだよ。みんなで楽しまないと」
「ふう~ん、そうか。なら、奮発しなきゃいけねえな。よしっ、今日は200発打とう」
「ほんと! やったー」
そんな話をするのは、葛城猛。
言わずと知れた、常連さんである。
コースへ出る日の朝晩は必ず練習に来るので、陸斗ともすっかり顔なじみだ。
時々佳斗から指導も受けているので、気のいいおじさんというイメージなのである。
「すぐに、ボール持ってくるね」
「あ、いや……少しずつで頼む」
「うん、わかった」
こんな感じで、陸斗はみんなから大人気。
常連さんたちはよちよち歩きの頃から見ているので、感慨も
子供の成長は早く、うそみたいな良い子に育った陸斗を、皆はホッコリした気持ちで見つめるのだった。
そして、最後は瑠利。
彼女に対しても、常連さんたちの目は温かい。
それというのも、彼女が自ら佳斗を師匠として選び、ここに来たことにある。
先代から通う常連さんたちにしてみれば、陸斗が孫であると同時に、佳斗は息子なのだ。
その彼を慕い、弟子となった瑠利は、もはや身内も同然。
特に女性陣からは大人気である。
「ルリちゃん、サンタさんの格好も可愛いわ」
「ありがとうございます!」
「早く、プロになってね。おばちゃんたちが応援に行くから」
「はい、頑張りますので、その時はよろしくお願いします」
「まあ、ほんと良い子ね」
と、物怖じしない態度と、ハキハキした話し方で好感度もアップ。
将来に向けての、強力な応援団を手に入れたのである。
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ここまでお読みいただきまして、ありがとうございます。
これで、年内の公開は最後となります。
次話は1月1日を予定しておりますので、よろしくお願いいたします。
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