第24話 佳斗、意思を伝える
その日の夜。
営業を終えた神川ゴルフ練習場では、佳斗がある報告をするために瑠利を呼び出していた。
場所は練習場の事務室。
この時間、小学生の陸斗はお風呂に入り、就寝の準備をしている。
まだ子供であるため、七時以降は手伝いをさせてもらえないのだ。
本音をいえば、佳斗も息子には子供らしく育ってもらいたい。
むしろ、手伝いなんてさせたくないのだが、それができない事情もある。
そのために、一度は練習場の経営を諦めよとしたが、少しばかり風向きが変わってきた。
それが、ある一人の少女の出現によるものだと、佳斗にもわかっているのだ。
「師匠、何か御用ですか?」
「やあ、疲れているところ、済まないね」
「いえ、全然平気です」
「ははは、それは頼もしいね。息子の面倒も見てくれているし、キミには感謝しているよ」
まずは、そんな他愛もない雑談から始まり、徐々に本題へと話を進めていく予定だ。
「ところで、ルリちゃんはいつ頃からゴルフを始めたんだい?」
「えっと、確か……小学三年生の頃だったと思います。お母さんが先生に教わっている時に、わたしも打たせて貰ったのが最初ですね」
それは瑠利の母親、遥がここに生徒として通ってきていた頃の話だ。
大内プロの紹介で佳斗のレッスン教室を受けた遥は、幼い娘を一緒に連れて来ていた。
最初は見ているだけだった瑠利も次第に興味を持ち、「私も打ちたい」と言い出したのだ。
それで遥は佳斗の許可を得て、一緒になって練習。
初めてのわりには、いい球を打っていた。
そんな記憶を、佳斗は思い出していた。
「そうか、あれからか……、経歴としては十分あるし……」
「あのう、それが何か?」
「ああ、すまない、ちょっと待っててもらえるかな」
「はい……」
本人から話を聞く限り、ゴルフ歴は意外と長い。
今が15歳であることを考えれば、もう6年以上は経っていた。
感覚を養うには十分な期間であり、『これなら』と佳斗は改めて納得する。
そして、その後も暫し沈黙が続き、いよいよ本題へ。
瑠利もこれから何を伝えられるか察し、緊張した面持ちだ。
「ルリくん」
「は、はい」
「昨日、遥さんにも伝えたのだけど、私はキミを預かることにしたよ」
「えっ、ほんとですか?」
「ああ、すでに雄介にも話してあるし、もうキミのお父さんにも伝わっているだろう」
そう話す佳斗に、瑠利は感激した様子。
「あ、ありがとうございます。精一杯、頑張ります」
そして、緊張の解けた瑠利は嬉し涙を流し、佳斗も大切なことを無事に伝えられてホッとしたのであった。
これから二人は本当の師弟関係となり、厳しい女子プロの世界へ戦いを挑むことになる。
試験に通るのは年に20名の狭き門。
まして、その中でも活躍できるのは、ほんの一握りであり、毎年ツアーでシードを獲得できるのはたったの50名。
華やかではあるが、辛い世界でもあるのだ。
ただ、それはまだ先のこと。
「うん、よろしい。今後のことは追って話すから、まずは高校受験に専念して欲しい。練習との両立は難しいかもしれないけど、きっとキミなら出来るはずだ。期待しているよ」
「はい!」
そして、この日を境に朝陽瑠利の戦いが始まるのであった。
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第24話までお読みいただきまして、ありがとうございます。
ここまでで、一区切りとなります。
今後、瑠利は佳斗の正式な弟子として活動していくことになるので、お楽しみに。
ちなみにですが、主人公であるはずの陸斗の出番はまだ少ないです。
現状、子供というのが理由ですが、予定では中学校へ入学してからが本番となります。
それまでは可愛い陸斗をお楽しみください。
あと、申し訳ありませんが、次の公開は1日開けさせていただきますので、よろしくお願いします。
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