第23話 おやつタイム
瑠利たちの練習も終わり、受付に佳斗だけを残した女性陣と陸斗は、事務室へ集まっていた。
「さあ、今朝作ってきたプリンよ。みんなで食べましょう」
「やったー」
「わ~い」
「待てました!」
「私もいいんですか?」
それぞれ事務室の中央に設置された来客用のソファーに座り、歓喜の声をあげながらテーブルへ並べられたプリンを手に取る。
瑠利は若干気にしているようだが、美里の「もちろんよ」との声に、喜びも露わにし「おいしそう」と、一言。
陸斗もさっそく口に運ぼうとスプーンを取るが……。
「うん、美味しい」
「カエデ姉ちゃん、はやいよ」
「まあ、カエデは食い意地が張ってるからね」
「むぅ」
「はいはい、シホは意地悪なこと言わないの」
「は~い」
またまた相変わらずの姉妹であるが、瑠利にはそれが眩しく見える。
「はぁ……」
「どうしたの? 溜息なんかついちゃって」
「いえ、なんかその……、カエデさんってシホさんといつもあんな感じでしょう。それが羨ましくなっちゃって……わたし一人っ子だから、そういうの無いんです」
と、それは瑠利の本心だ。
お姉ちゃんか妹がいれば一緒に遊んだりできるだろうし、兄か弟ならば甘えたり甘やかしたりもできる。
一人っ子は自由で我儘にできるが、兄弟姉妹には憧れているのだ。
それを察してか、カエデは瑠利の頭に手を置き、ガシャガシャと髪をかき混ぜると「ああ、もう可愛いなぁ、この子は」と呟き、その心を吐露する。
「あたしはお姉ちゃんがいて、楽できてるからね」
「おい」
「ははは、そんな感じですよね」
「でも、まあ、あたしも妹は欲しかったし。ルリがここに住むことになったらもう、あたしたちの妹みたいなもんでしょう」
「えっ」
「あらあら、そうなると私の子供は四人に増えてしまうのね」
「四人?」
「だって、ねぇ……」
そう言った美里の視線は、陸斗に注がれていて。
「僕も?」
「うふふ、そうね。義姉さんに頼まれてるからね」
「お母さんに?」
「そうよ」
「うん、じゃあ、僕もミサトママって呼ばなくちゃ」
そんな会話をこっそり聞き耳立てていた佳斗は、美里へ忠告を入れる。
「おいおい、私の息子を勝手に誘惑しないでくれよ」
「あら、いいじゃない」
「でも、それだと、兄妹で夫婦ってことになってしまうだろう。周りへの印象も悪いし、それはダメだろう」
「ああ……、言われてみれば、そうね。ごめんなさい、りっくんにママ呼びされるのは諦めるわ」
「ああ、そうしてくれ」
そこに大人の都合というものが見え隠れしていないこともないが、世間体を考えれば当然である。
全てのお客さんが神川家の事情を知っているわけではないので、知らぬ者から見れば勘違いされてしまうだろう。
そう言った意味では、やはり美里はおばさんのままが正解であった。
「ごめんなさいね、りっくんにママって呼んでもらうのは、ちょっとまずいみたいなの」
「うん、大丈夫だよ。やっぱりお母さんが寂しがると思うから、ミサトおばさんって、呼ぶよ」
そんな可愛らしい会話に充てられたのか、姉三人はホッコリ笑顔。
特に瑠利は言い出しっぺであり、すでに陸斗を可愛い弟のように感じていたため、「私が守らなくちゃ」と、意気込んでいた。
こうして三時のおやつタイムは過ぎていき、再び普段通りの業務へ戻ることになる。
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