第4話 手抜の御主人の「みそきん」
「まずはじめに、私のような若輩者をお招きいただきありがとうございます」
手抜のご主人は老主人に向かって深々と頭を下げた。
「して、『みそきん』は?」
老主人が尋ねる。
手抜の御主人がちらりと顔を上げると、奥に控えていた従者たちが何やら鍋のような道具を持って集まってきた。
「今から作らせます」
従者たちが庭で火を起こしている間、手抜の御主人は一同に向かって説明をした。
「私も他の御二方と同じように、まずは方々に聞いて回って『みそきん』なるものについて調べました。結局『みそきん』は見つけられませんでしたが、『みそ』らしきもの見つけることができました。
「困ったな。彼は真相にたどり着いたのかもしれない」
時駆の麻呂がぼそりとつぶやいた。
料理の入った椀が順々に配られていく。
外車持の皇子のいた席には空の椀が置かれた。
手抜の御主人は、屋敷の老主人に椀をふたつ渡した。
「あの、『みそきん』を姫にも召し上がっていただきたく」
「ああ、それもそうですね」
老主人は使用人を呼んで、椀を姫の部屋に持って行かせた。
姫はどの部屋にいるのだろう。石頭の皇子は耳をすませて気配を探したが、従者たちの足音が騒がしく、うまく姫の気配を感じ取ることはできなかった。
石頭の皇子の前にも椀が置かれた。漆塗りの椀を覗き込むと、茶色く濁った香りのよい汁の中に、色とりどりの具材が見え隠れしていた。
「昆布でだしを取った
石頭の皇子は汁を口に含んだ。塩気と昆布の香りが喉を滑り落ちていく。
根菜は、煮込む時間が短かったのか少し硬かったがこれもうまかった。練り物も汁をすって柔らかく、うまかった。
「給食で食べた味だね。懐かしい」
時駆の麻呂が再びつぶやく。
「でも、これは『みそきん』じゃないね」
「その通りでございます」
老主人がうなずいた。
「この料理は確かに美味ではありますが、『みそきん』ではありません」
「そんな、たしかに私は『みそ』を使いましたぞ!」
手抜の御主人が立ち上がって反論した。
老主人が首を振る。
「これは『みそ』でしたが、『みそしる』であって『みそきん』ではない。手抜卿、あなたは『みそ』ばかり追い求め、『きん』のことを考えるのを放棄していたのではないでしょうか。それこそ手抜きというもの。姫を差し上げることはできません」
老主人のきっぱりとした言葉に、手抜の御主人はがっくり肩を落とした。
「ああ、私はいつもそうだ。肝心なところでいつも……」
「次は、石頭の皇子様の番でございます」
老主人が言った。
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