第41話 - 名前も知らない……




学園生活2日目。


「おはよう、森本さん、小野寺さん」


「おはようございます」


「おはよう、ギリェルメくん」


教室に入って、クラスメイトたちに挨拶をする。


(平和、最高)


「仁くん、私たちと組まない?」


「オレ?」


「そうよ。明日からダンジョンに入るでしょう?私たちと一気にどう?」


「お兄ちゃん、ニナたちとパーティー組むの?」


教室の前の方で主人公がヒロインたちからパーティーに誘われている。


「………爆ぜろ」


「え?」


隣の小野寺さんはエスパーか、俺の心の声を聞いたようだ。


「その通り、明日からダンジョンに入る許可を与える」


話を聞いた先生は教室に入り、みんなに言う。


「独りで探索をしてもいい。だけど成績が低い人、怪我を受けた人などは学園側の決められたパーティーに入ることになる。今からパーティーを探すことをおすすめするよ。今日はそのためにも授業は無い、パーティーを組んだら明日の朝に報告をするように」


先生はそう言って、教室を出た。


この世界でも他のクラスの人とパーティーを組めるが、ここに貴族のしがらみは無い。家柄うんぬんじゃなく、友達と組む人が多い。


(まあ、だから簡単にパーティーを見つけるわけじゃないがな)


強い人と組みたいというのはもちろんあるが、ここの雰囲気は……


「森本さん、私パーティーを!」


「透くん、もうパーティーを組んでいるの?」


「お前、聞いてみろって!」


「嫌だよ、恥ずかしい!お前が言えよ!」


あの人と組みたい、好きな子に近づきたい、私を誘ってほしい。みんな浮かれ足でパーティーを探している。


(俺も青春したい〜)


「すればいいじゃないですか」


ギアさんがさも当たり前のように言ってくる。みんなも彼女を見えるから、普通に話せる。


「そう言ってもなぁー」


(そもそも、俺…死ぬ)


まだパーティーを組んでいない人は結構多い。他のクラスの人も勧誘に来ているくらいだ。その殆どが森本さんと主人公のパーティーメンバーを誘っているがな。


(まあ、折角だ、学校でも見回ろうか)


そうと決まればっと、席を立ち、教室の扉に近づいた。その時だった。


「………………」


俺はあるものをみて、ついに固まってしまった。


ジャージを着ている5人の女子が廊下を通りかかる。


「すごい人だかりだなあ~」


「噂の美人の転校生と強い留学生かな?」


興味が沸いたその子たちはクラスの様子を見に来た。3人が外で待っていて、2人だけが入ってきた。俺は道を開けるように黒板側へ移る。


その5人に気づくと生徒たちは何だか距離を取った。


「わーお~ 本当にすごい美人だねぇ」


「確かに綺麗な人だな。ん?あれ?」


「どうしたの?」


「いや、あっちの人だかりは留学生じゃなく、あのお花さんパーティーよ?」


「あ、本当~」


「留学生は他のクラスで勧誘されているかな」


黒板の方を見ていないから、俺に気づくことなく、その子たちは外の3人と合流して、去っていた。


その5人のグループは不良か何かかな、生徒たちはその一連の出来事を遠回りで見ていた。


(ギアさん、アニメで見なかったが、あの子たちは?)


「普通の生徒です」


「…………普通か」


そんな小さな出来事の後、俺は教室の外に出た。


……


5分後、俺はグラウンドに来ていた。


ラウンドには模擬戦が出来る場所は数十ヶ所もあるから、こっちでは勧誘だけじゃなく、パーティーとしての訓練をしている生徒もいる。


そして、その一つを使っているのは先の5人だ。


(両手剣か)


その5人の一人が重そうな両手剣で素振りをしている。教室に入ったあの二人は模擬戦をしている、他の2人はそれを見ている。


「やるぞお~!」


「また転ばないようにね」


何だかぽわわ~っとしている茶色のロングヘアーの女子が槍を構える。対しているのは黒髪を三つ編みにして、手に刀を持っている女子。


「全員真剣な顔をしているねえ」


(そのせいで他の人が近づかない?それとも何かトラブルを起こした?)


「………そんなに気になるなら聞いてみたらどうですか?」


「んんん~、ハズイ」


「今更です」


「え?」


(俺、何かやっちゃったのか?)


「今回は何も教えないのです。知りたいなら頑張ってください」


「うむ」


そんな返事をして、俺は今度こそ学校を周りに行った。



(………何なんだ、あの子?)





◇◇◇◇





翌日の朝。


学校中の1年クラスがダンジョンの前に居る。


「お、おはようございます、ギリェルメさん」


「おはよう、小野寺さん」


小野寺さんともう一人の少女が近づいてきた。


「君がギリェルメくんね、初めまして。私はあんずの幼馴染の七瀬恵子、よろしくー!」


彼女と一緒に来たその子は元気に挨拶をしてきた。


「ギリェルメさん、すごい装備ですね」


「ああ、これは結構いい鎧だ」


小野寺さんがそういうのも頷ける。剣と楯以外、俺は前の世界のラスボスとの戦闘に使った鎧を装備している。


(なあ、ギアさん。小野寺さんにアイテムをあげてもいいのか?)


『ふふ、いいですよ。話した通りにダンジョンのドロップアイテムって言ってください』


俺にだけ聞こえるようにギアさんは許可した。


小野寺さんとその友達に役に立ちそうなアイテムをあげる。彼女たちは遠慮したが、少し強引に渡した。


(今はこういう事しかできないからな)


二人はダンジョンに向かい、俺は少し外で待っていた。


……


数分後。


「来た…」


ダンジョンの前まである人が歩いてきた。


「ギリェルメさん、恋に落ちたのですか?」


「しーーッ!!」


(何を言うのですか!?)


彼女は遠くに居るから聞こえないが、流石にびっくりした。


「くぅ…ど、どんな子かなって思っただけだ」


「そのために全生徒よりここで待っていたのですね?」


「……………」


昨日にクラスの前に来たあの5人の女子だが、あの時、外で待っていた3人の中で結構……すんごくかわいい子が居た。


(今度、話しかけようかな?)


「今度でいいのですか?他のことは教えないけど、結構いい人ですよ?」


「…………」


ギアさんの言葉でその子を見る。ただの名前すら知らない少女。短い黒髪の少女は両手をポケットに入れて、小さな背中に大きな剣を背負っている。友達と一緒にいるのが楽しいみたいが、顔は少し怒っているように見える。


それだけだが、何でこんなに気になるのは自分でも分からない。


(何だろうこれ………ここで何もしなかったら、もう二度と勇気を出さない気がする)


「たく、何なんだよ」


俺は変な痛みを胸に感じながら、背中を向けてダンジョンへ歩いた。


(ダメだ。俺はこれから色んな世界に行って、とんでもないことをしようとしている。テレザたちでも、俺があの世界で彼女たちの居場所を作ればまたどこかへ消えるつもりだ)


俺と関われば人生が狂わされる。



(夢、夢を叶わないと………)



胸の痛みが消えないまま、俺はダンジョンに入った。














◇◇◇◇















100年後。


「………………」


俺は白いベッドに倒れている。


隣にギアさんがいつもにように飛んでいる。彼女の方を見る力はなく、俺は天井を見ていた。


静かな部屋。


あの学園に入った後、俺は毎日ダンジョンを探索した。3年が過ぎて、最高の成績で卒業した俺を世界中のギルドから勧誘を受けたが、俺は世界から姿を消した。


ダンジョンの中で生きて、外に出るのは違うダンジョンを攻略に行く時だけ。百年もそれを続けて、その成果………ただ一番難易度のAランクダンジョンの攻略。


この世界の日本にある全てのFランクダンジョンは攻略した。Eランクは25%、Cランク5%、Bランク1%、Aランク……一つだけ。


それが俺の成果。


「……………」


ギアさんの用意した家のベッドで、俺は静かに、その時を待っていた。


「おやすみなさい、ギリェルメさん」


俺の最後の記憶はギアさんの声だった。


















◇◇◇◇



















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………光……

……………

…………

………

……











「おはようございます、ギリェルメさん」



「…………おはよう、ギアさん」


目の前にギアさんが俺の顔を見ていた。


近くに森本さんが居て………教室の中から先生が俺たちの話をしている。


「戻ってきたな……」


「はい」


「ふうぅ――……………」


(行こう)


先生に呼ばれて、俺はもう一度、自己紹介をした。





つづく


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冒険者の夢 月島 ギイ @TSGui

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