第39話 - 攻略





7か月後。


緑が枯れて、動物の死骸以外何もない山々の間の歩く。


「本当にダンジョン化しているね」


そこでたどり着いたのはまるで化け物の口のように地面にあるダンジョンの入り口。


「最下層には隕石があり、ラスボスが待っているのです」


アニメの情報以上に、ギアさんはこの7月で俺にこの世界のことを教えてくれた。


先ずはこのダンジョンの底にある隕石。あれは邪神がこの世界に落としたものだ。どんな生き物でもあり得るだが、大きな力に溺れる者は存在する。ギアさんによると邪神とは力に狂わされた者。この隕石を落とした邪神はこの世界から生命を消し、世界そのものを支配しようとしている。


それを止めようとしているのが元からこの世界の女神だ。あの日の弱っていた声の主はその女神のものだ。彼女は残っていた力を使い、俺たちに抗う力を与えた。あの時で武器が光ったのは世界の力を俺たちに武器に繋がったからだ。


本来の武器の力は俺たちの魔力を使い、属性に応じた効果を発動する物。だが今の武器なら周りの魔力をも使い、より大きな力を発揮する。アニメでは3年間この世界に生きて、その力の使い方をものとした主人公たちはラスボスに挑み、見事に勝利する。それがこの世界の本来の未来だ。


「チート使っているね、俺」


「ギリェルメさん、この世界が単純な力では低ランクであることを忘れないで下さい」


「ああ、すまん」


ギアさんの話では俺は既にラスボスを超えている。だがそれで満足するわけにはいかない。


(そもそも、ここのラスボスを超えた程度で俺の夢は叶わない)


「さて、行こうか」


ギアさんと一緒にダンジョンの螺旋階段を降りる。


このダンジョンも女神が俺たちに隕石に居るボスへの道として作られた。


………

……


「流石はラストダンジョン、地上のモンスターと比べ物にならない」


1か月後、75階層。

100の階層があるこのダンジョンで76階層への階段を降りる。ギアさんによると主人公たちは一週前にこのダンジョンにたどり着いた。彼らは今では既に10階層に居る。


「じゃあ2年後くらいか」


「貴方があの町の事件を解決したことで1年半になっています」


「マジか!?」


「はい。PKをするプレヤーがアニメ以下の人数です。そのおかげで主人公達はモンスター討伐に集中出来ました」


ギアさんと話しているのは主人公たちがラスボスにたどり着くまでの時間。アニメではゲームに入ってから丁度3年後だったが、どうやらもっと早くなるようだ。


「それは嬉しいなぁ」


正直に言うと俺は他のプレヤーと一緒に戦いたい。せっかく好きなアニメの世界に入ったんだ、それは主人公の冒険を自分で見てみたいが。


「この階層では特に目ぼしいアイテムをドロップするモンスターはいません。戦闘を避けて、階段を探しましょう」


俺がラスボスを早く倒せれば無事に元の世界に戻る人が増える。今はこのチートロボットさんにと一緒に攻略に集中だ。



………

……



ダンジョンに潜り、5か月。ついに100階層へ辿り着いた。


「ギアさんヤバイな」


「褒めているのですか?」


「ははは、うむ、もちろんだ」


ギアさんのお陰で早くもラスボスが居る階層の居る。アイテムの居場所、安全なルート、モンスターの弱点等々、彼女が居るだけでチートを使っているも同然。


(まあ、偶にはわざと強い敵と戦わさせたがな)


「ギリェルメさん、準備は出来ました?」


「ああ、あのくそ野郎をぶっ殺しに行こうぜ」


「………その口の悪さもどうにかしないとですね」


「ぅ、すいません」


っと、ふざけている俺たちの目の前には10メートル以上の扉がある。それに近づくと、その両開き扉は重い音をしながら開いた。その瞬間……声が聞こえた。


「化け物はお前か」


今まで大きな洞窟だったダンジョンと違い、そこはまるで王座の間のようなところだった。暗闇の中、王座まで続く柱に青色の炎を揺らぐ松明がある。その光に照らされている黒い絨毯の道の奥で立っていた者が俺に声をかける。


「……………」


「言葉を話さなさいのか?まさか、人間じゃない?」


3メートルの怪物、名前はルナーデ。まるで真っ黒なスライムが人間の形を作っているモンスター。真白な目に瞼はなく、口にも歯はない。そいつは俺に声をかけているが、話をするためにここへ来たわけじゃない。


(クズにかける言葉はない、殺す)


人間がこうも早くここへ辿り着いたことに驚いているのか、ボスは既に武器を持っている。右手を斧の形にして、左手は大剣に。


「ッ!」

「!?」


言葉もなく、戦いが始まった。


このボスの戦い方は変幻自在。体を武器に変えて、魔法も使い、ゲームのボスらしく再生能力もある。


キーーンッッ!


剣と斧のぶつかる音がボス部屋に響く。俺の剣は土属性の能力を使い、2メートルほどに巨大化している。


俺の攻撃を斧で防ぎ、反撃のために左手の剣を振り下ろすルナーデ。その攻撃を避けることも弾くことなく石の盾で受け止める。


(なるほど)


それはこいつの攻撃の重さを図るためだった。まだ油断は出来ないが、こいつの攻撃力は俺以下だ。3メートルも巨人より力を持っているのはレベルと武器のおかげだが、まだ安心できない。こいつの強さは速さと手数の多さだ。


今度はこっちから更なる攻撃を与える。


カンッ!キンッ!ドッ!


ボス部屋には武器と武器がお互いを壊そうとしている音だけが響く。ルナーデも俺も一歩も引かずにただただ相手を殺すことのために動く。


やがて、奴は両肩から更に2つの腕を作り出した。第二の右手は刀、左手はメイスになり、攻撃が嵐のように降ってくる。


「ッ―!!!」


「ガはッ!!」


1秒に数回の攻防が広がっているその死闘で始めて傷を思うものが出た。


「貴様ッ!! 本当に人間かッ!?」


ルナーデに出来た隙を突き、奴の腹に石の盾の裏で発動したパイルバンカーの土魔法の攻撃を入れる。


(止まらねよお!くそ野郎!)


奴は俺から距離を取ろうとしているが、そうはさせない。


「ッ!?」


こいつは俺の強さに混乱しているようだが、アニメで主人公たちと時にルナーデは話術を使い、その間に大きな魔法を発動した。


その不意打ちに気づいたのは主人公たちと一緒に戦っていたこの世界の冒険者の一人だ。その人はヒカルを魔法から守る時に大怪我をして、ルナーデを倒した後で力を取り戻した女神に助けなかったらゲームを出る前に死んでいた。


(あいつらと戦うことなくここで殺す!)


攻撃を緩めることなく、俺たちの戦いは段々と激しさを増した。俺たちの周りが壊れて、柱も絨毯も、奥にあった王座すらその原形が見えない。


「貴様ああッ!!!」


(死ねッ!)


巨大化した大剣でついにルナーデの腕の一つを切り落とした。剣の腕を無くした奴の歪な顔が憤怒で更に歪む。


「調子に乗るなッ!人間ッ!」


そんなありきたりな悪役セリフを吐き、奴は自分の腕を再生し始めた。


(待つかよッ!死ね死ね死ね死ねええッ!)


ルナーデの再生速度は早いが、4本の腕で互角以上に戦っていた俺にはその時間はチャンスでしかない。


その再生を遅らせるように大きな攻撃を止めて、少し小さくした剣で奴に少しずつ小さな傷を与える。斧、メイス、刀、更には小さな魔法を使い、奴は俺の攻撃をを防ごうとするが、傷の数は段々と増える。その蓄積されたダメージも無視できなくなり、奴の再生能力はそれらの対応にも周り始める。


(ここで使うか?)


それは自分に向けた疑問じゃなく、ギアさんに聞いている。この最後の戦いですら彼女の俺のための訓練だ。


「はい」


その返事で激闘は終わりを迎える。


今までの戦いは奴の移動速度を下げるのが狙いだ。それが成功した今、最大の攻撃を仕掛ける。


俺はもう一度パイルバンカーの魔法を使うが、それを俺の間違いだったとばかりにルナーデ最初から狙っていたように距離を取った。奴は大きな魔法の準備に入るが、もちろん、そんなもんは許さない。


「なッ!?」


今まで普通の物に戻った俺の剣を再び土属性魔法でその大きさを変える。剣を覆うように周りの石を集まり、その大きさと形が変わっていく。やがて、その石の剣は5メートルを超える。


「させるッかあああああッッ――!!!!!」


それを見たルナーデは不完全に組んでいた青い炎の魔法を放った。だが、もう遅い………


「―ッ!!!」


隠していたのはこの剣だけじゃない。今まで見せた速さを更に超えて、奴へ弾丸の如く駆け出す。まるで暗闇の中を照らす青い太陽のように飛んできた巨大火球を両手で持っている巨大剣を横に一刀両断。空中で回転した俺はその勢いを殺さず、地面をもう一度蹴り、死神の鎌のように振るった刃で奴の命を絶ちに行く。


「――ッうおおおおおおああああああああああッッッッッ!!!!!!!」


最後の攻撃。一撃必殺とばかりに雄叫びをあげる。


「――ッ!!?」


奴の顔に始めて恐怖が現る。

ルナーデは攻撃を4本の腕で防ごうとするが、それらは意味をなさない。


「――――――」

「………………」


部屋に静寂が訪れる。


その空間に生きているのは勝者だけ。断末魔の叫びをあげることなく、敗者の体は真っ二つになり、地面へ静かに落ちる。


「超えた…超えた………超えた」


(超えた超えた超えた超えた!超えた!超えた!超えた!超えたッ!超えたッ!超えたッ!超えたッ!超えたあッ!超えたあッ!)


「超えたああああああああああああああああッッッッ!!!!!」


一種の興奮状態に入った俺は勝利の叫びをあげる。


(憧れのアニメの世界を超えたぞおおッ!!!!)


勇者らしからぬ顔をしている自覚はあるが、この達成感は抑えられない。


「おめでとうございます、ギリェルメさん」


「ッ……………う、うん」


(ハズイ)


そんなことをしているとルナーデの体が完全に消えた。そいつの右側の胸の中で魔石があり、それを両断したことで奴は死んだ。


「ギリェルメさん、ドロップアイテムが落ちっているです」


「?ドロップアイテム?」


アニメでルナーデを倒した時にはなかったが。


「これは………」


奴の体が消えて、そこに落ちっていたのは黒い宝石だ。


「闇属性の宝石です。貴方が使っている土属性の武器と同じ効果を持っています。特に危険はありません」


ギアさんの言葉で俺は早速それを武器に吸収させる。アニメでこれはドロップしていないから心配だったが、問題はなかった。


「さて、これからはどうすれば?」


目的のラスボス討伐は達成できた。このまま次の世界へ行くかっとギアさんに聞いてみる。


「ログアウトをしてもいいのですが。少し待ってください」


ギアさんのその言葉と共に、周りの景色が一瞬で変わった。


「え?」


「誰!?」


どうやら転移されたようだ。そこにはダンジョン探索をしていたヒカルとヒロインのパーティー、そしてその後に続く数百人の冒険者。


「俺だ!ギイだ!待ってくれ!」


両手を上げて、ヒカルに自分の顔を見せた。


「ギイさん!?生きていたのかッ!?」


「!?」


俺の顔を見たヒカルは泣きそうな顔をした。


(そうか。こんな世界だ、消えた俺は死んでいたと思ったか。流石に悪いことをしたな)


「別れの挨拶をしてください」


ギアさんは言う。


(ありがとう、ギアさん)


「すまん、ヒカル。この世界を回り、ずっとモンスターと戦っていたんだ」


「そうか、そうだったのか。本当に……良かったよ。死んだ人は多くて、ギイさんも………」


(一度だけあったの奴の安全をこんなに心配するとは、流石はヒカル、アニメで見せた良心は本物だ)


「大丈夫、俺はこの通り無事だ。まあ、それだけを言いに来たわけじゃないがな」


俺は大きな笑顔を見せて、ヒカルだけじゃなく、周りの冒険者たちに言った。


「みんな!メニューを開けてみろ!」


全員は俺の言葉の意味をわからない顔をした。


「どういうこ―………まさか!?」


が、やがて一人がメニューを開く。


「あ?え?なに………?ギイさん!?」


ヒカルもそれを見て、声を上げた。俺はさらに続く。


「倒したぞ!みんな!!元の世界へ戻れるぞ!!!」


周りの人はそのボタンを見て、泣き始める。やがて一人、また一人。次々と人が消えていく。


「………」


ヒカルのパーティーも彼に近づき、みんなでまた会う約束を交わす。


「ギイさん、あなたは………」


「ヒカル、行ってくれ。彼女たちが待っている。絶対に幸せにしろよ!」


泣いているヒカルにそう言う。


(俺は知っている。ヒカルは死ぬ覚悟でラスボスに挑むつもりだった。それまでして彼女たちを守りたかった)


「ありがとう!ありがとう!」


ヒカルも、ヒロインたちだけじゃなく、周りの人たちは俺に感謝の言葉を送りながら元の世界へ戻っていく。


「またな、ヒカル!今度は普通のゲームで遊ぼうぜ!」


「ああ!ありがとうギイさん!!!」


やがてヒカルもプレヤーたちと一緒にログアウトした。


(ったく、俺は相変わらず涙もろいだな)


ダンジョンに残ったのは俺とこの世界の冒険者たちだけだ。そんな俺たちをギアさんが地上へ転移した。


封印の魔法陣を確認して、彼らとも別れた。


「それでは、行きましょう。ギリェルメさん」


「なあ、最後に一つだけ。ある場所に連れてくれないか?」


「いいですよ」




…………

………




「ここか………」


ギアさんに連れてもらったのは小さな村だった。特に変わったところはない。ダンジョンもなく、アニメでも大きなイベントは起きなかった村だ。


「ッ!!!」


だけど、そこにはある人がいた。


(何だよ、俺!すぐに泣くんじゃねえよ!)


この村にアニメでは数分の出番しかなかった町娘の格好をしている可愛いモブの少女が住んでいる。


「うほほおおお、すげえええ!かわいい!」


その子は井戸にバケツを入れて、水を汲んでいる。


(最高っす)


「ギリェルメさん、貴方はやっぱりストーカーですね」


「ええええ!?」


(普通じゃねか?かわいいじゃん?)


「くぅッ!ここに住みたい!」


「貴方の努力次第では可能ですよ」


「え?」


「今は次の世界へ行きましょう」


「あ、ああ」


(マジか………)



………

……



村を離れた俺の前にまたあの扉が現れた。


「それじゃあ、今度こそ行こうか」


そんな言葉と共に俺は扉を開けようとしたが。


「!?」


いきなり頬に暖かいものを感じる。


「何だ!?」


拳を構え、周りを見たが、俺とギアさんしかいない。


(何、今の??まるでキスをされたような……)


「ギアさん、今のは?」


「気にしないでください。いつか分かる時が来るのです」


ギアさんは何が起きたのを知っているが、話すつもりはないみたい。


「ま、まあ、いい」



そんな出来事がありながらも、俺たちは無事に扉に入った。




つづく

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