第35話 - スキルの可能性 1
夜。王城でパーティーが開かれた。
勇者たちの周りに貴族が集まり、傘下へ誘っている。
それを断り、距離を取っているのは俺たちを含めて4つのパーティーだけだ。
「どうしたものか」
(帰って準備を整えたいが、コイツらを観察しないといけない)
コイツらとはもちろん異世界の奴らだ。勇者たちの行動次第でこっちのやる事が変わる。
俺たち6人は女王が居る場所の近くに立ち、その様子を見ていた。
彼女は勇者たちと対話している。流石は他の貴族と違って、使えそうな人だけを選んでいる。
俺たちのパーティーは美少女だらけだからか、くだらん理由で近づいた奴らも居たが、丁重にお断りした。
そして今でも睨んでいるそいつらの他、こっちの様子を伺っている人がいる。
あのギャルだ。そいつは女王と話しているが、たまにはこっちを見ている。
(何だろう?)
っと、意外にもトラブル無しにパーティーが終わり、夜が明けた。
◇◇◇◇
翌日。女王の命令で朝の内に俺たちは学園に戻った。
「まさか、私たちも勇者になるなんて」
学園の廊下を歩きながらイレネさんはそう言った。彼女たちは本当に勇者の称号を持っていた。
「でもテレザたちならともかく、私たちは特別なスキルを持っていないのに、大丈夫のでしょうか?」
ベアトリスさんが不安そうに言う。
「大丈夫だ。高位のスキルは勇者たちでもレアなものだ。それに魔王と直接戦うだけが勇者じゃない」
そう。民を魔物から守るのも、真田と一緒にあの森に道を作ったのも魔王との戦いだ。
「それよりも、今は気を引き締めて。俺の近くから離れないように。姫様も」
教室の前に立ち、俺は彼女たちに言う。姫は何も言わなかったが、相変わらず素直な彼女たちの返事を聞いて、俺たちは中へ入った。
静かに歩き、教室の窓際にある俺たちの席に近づいた。
(まだ30人くらいか)
女王の決まりで、勇者になった人たちは年齢を問わずに一つの組みになった。流石にヤバいと思ったが、どうやらアリシアさんの提案だそうなので、俺たちも参加している。
そんな勇者クラスとやらにまだ30人の生徒だけが登校している。
(逆にご都合だ)
他の子を席に残し、俺は3人の生徒に近づいた。
「おはよう、ダニエラさん、ケニアさん、リビアお嬢様」
俺が挨拶したのは勇者パーティーのメンバーの2人、そしてその子たちと話していたドリルのリビアだ。
「おはよう、ギリェルメさん」
「ギリェルメさん、おはよう。これからもよろしくお願いします」
最初に答えたのはケニアさん。カールのあるセミロングの黒髪に宝石見たいな紫色の瞳を持つダークエルフの女子だ。3年生だったそうだ。
改めて挨拶をしたのは同じ組の竜人族のダニエラさん。2人は元から中がいいのか、ダニエラさんは茶色の髪をケニアさんと同じ髪型にしている。頬に小さな竜の鱗を持っているその彼女には時折だが、土魔術のアドバイスをしていたから比較的に中がいい。
「おはよう。どうやらあなたは本当に勇者だったねえ」
そう言ったのはリビア。
「これで仲間だな、お嬢様」
ジュリアさんの件でつっかかった彼女だが、この1年で結構丸くなっている。
「ふん」
(ツンデレのドリルですね)
「ダニエラさん、ケニアさん。俺たちの近くに座ってくれ」
本題はこれだ。
「分かった」
「はい」
俺の言葉に2人はすぐに動いた。
俺も自分の席に戻る途中、リビアさんに近づき小さな声で耳打ちをした。
「異世界の勇者に気を付けてくれ。このままではあいつらはパメラと一緒に力に溺れるかもしれない。何かがあったら俺たちのところに来てくれ、家のことは女王と相談する」
「………ありがとう」
密かにあるマジックアイテムを彼女に渡し、それだけを言って俺たちは分かれた。
昨日で彼女も俺たちのパーティーに入りたかったようだが、パメラに止められた。
そうして、俺が席に戻ってから数分、教室に他の生徒たちが入った。
アニメでしか見たことがないが、日本人の不良って奴か、廊下側の列に座ったそいつらは大声で楽しそうに話し始めた。
だが、俺の姿を見ると不満そうな顔を向けた。
「ちっ!なんだよアイツ?」
「何様だよ」
「モブのくせになに見てんだよ!?」
どうやら俺のパーティーが女性だけというのが気に入らないようだ。
(モブか、好きなこの世界の人と思われるのは嬉しい)
(日本人だからそれほど分からないが、コイツらは俺と同じ時代から来たと見てもいいかもな)
俺に力を与えた人は俺の記憶力を馬鹿みたいに上げている。死に戻りの記憶も地球の記憶は全部覚えている。
っと。教室に最後の人物が入ってきた。
(ん?)
その人はアリシアさんだったが、ローブと武具を装備している。
「静かに。説明は一度だけ、ちゃんと聞いてね。まず、授業はない。君たちはもう生徒じゃなく勇者、君たちにあるのはAランクダンジョンを攻略するという義務だけ」
その言葉にAランクの脅威を知っている現地の勇者たちが驚いたが、アリシアさんは説明をつづく。
「魔王が現れたら君たちは被害に遭っている土地へ向かい、それを解決する。その時までは力をつけること。国と学園は支援をするけど、それが無限に続くと思わないことね。この世界の勇者たちは異世界の勇者たちにダンジョンと魔物のことを教えてね。話は以上」
(アリシアさん、何だか怒っている?)
「それでも知らないことがあったらそこに居る先輩に聞いてね」
彼女は俺を指さしながら教室を出た。
(俺に振るのか)
アリシアさんが勇者たちを鍛えると思ったが、どうも自分たちでどうにかしろっとのこと。
(まあ、貴族たちの支援があるだろう)
「ギリェルメさん、私たちはどうすればいいでしょう?」
アリシアさんが出た後で席を立った俺にベアトリスさんが聞いてきた。
「そうだなて、先ずは………」
そう言って、俺は勇者たちに話しかけた。
「いきなりですまんが、俺の話を聞いてくれないか?」
俺の言葉に全員がこっちを見た。
「先の人が俺を先輩と言ったのは君たちが召喚される前から、既に勇者の称号を貰っていたからだ。いきなり俺を信じろっなんて言えないが、俺は魔物の恐ろしさを知っている。不安がある人は俺のパーティーに来てくれ、自分を守るための戦い方を教える。それだけじゃない、戦いたくない人も同じだ、俺たちで守ってみせる」
(まあ、クソ野郎はごめんだがな)
「はははははっ!」
「プッ本当に何様だよアイツ!?」
「ヒーロー気取りかよ!?」
俺の言葉に教室のあっちこっちに笑いが起きる。
「この期に及んでまだ自分だけが特別と思っているのかしら、偽物勇者?」
意外に今まで静かにしていたパメラがそう言う。
もちろん、無視。
「っとまあ、俺としてはできるだけ早く来てほしい。だが、先ずは自分の目で確かめたい人は後からでも問題ない。その場合は一つだけ、一人でダンジョンに入らないでくれ、あれは人を殺すための場所だ、勇者だろうとこの世界の人だろうとね」
それだけを言って自分の席の近くで立ち、来る人を待っていた。
「わ、私たちは戦いたくないです……本当にパーティーに入ってもいいですか?」
待っていると小さな少女が数人の異世界人と一緒に近づいた。
「ああ、もちろんだ。問題を起こさないなら俺たちが守る」
彼女たちの目を真っ直ぐに見てそう言った。
「分かりました。お願いします!」
それを見て、他にも数人が来たが、その中に現地の勇者たちはほとんどいない。
気に食わないか、パメラは教室を出た。一緒に行ったリビアさんは心配だが、彼女には後で話をするつもりだ。
「アタシたちもいいの?」
虹色スキルのギャルも来た。
「ああ、全員歓迎だ。それでは、行こうか」
もう来る人がいないのを見て、俺たちは教室を出た。
◇◇◇◇
Sクラスの訓練所に彼女たちを連れる。
(それにしても、おかしい………)
何でかは分からんが一緒に来たのは女性だけだ。
「それじゃ、天恵スキルの説明をしよう。戦いたくない人も聞いてくれ。スキルとは戦うためだけじゃない」
20人くらいの少女たちの前に立ち、説明を始めた始めた。
「これを見てくれ。ストーン」
土魔術を使い、足元の地面から石の花を創り上げていく。
「すごい!すごい!」
「魔法だ~!」
「そうか!スキルってそういうのも出来るのか!」
(うむ、ちゃんと伝えたようだ)
「そう、スキルは便利なものだ。この世界に色んなスキルがあり、人々はそれを使いながら生きている。王城でスキルにレア度があるのは聞いているね?」
「レア度?ガチャで出た色のこと?」
「ガチャ?は分からないが、そうだ、色のこと」
少女の一人が聞いてきた。
「スキルの色には下からに鉄色、銅色、銀色、金色、そして一番レアな虹色。レアなスキルほどその効果が強いものになるが、レア度の低いスキルでも使い道がある」
意外にも少女たちは俺の説明を素直に聞いている。
「例えば俺がこの花を作るために使ったのは土魔術だ。銀色の天恵スキルだが、このスキルで戦いだけじゃなく、ものつくり、農業の土地改良の仕事をしている人もいる」
「あの、先輩、私のスキルは竜の息吹って虹色のものだけど大丈夫ですか?」
一人の少女が聞いてきた。
「そうね、正直に言いよう。虹色でその名前なら絶対にヤバイヤツだろう」
「えええ!?」
「まあまあ。これを見てくれ」
俺は彼女たちから離れて、逆方向の空へ向かて使った。
「ファイヤートルネード!」
俺の手から空目掛けて巨大な炎の竜巻が放ったれる。
「きゃあああ!!」
「な、なにあれ!?」
「すごい!あれもスキルなの!?」
竜巻を消して、説明を続いた。
「こんな風にスキルはものを破壊することも出来る。君の持っているスキルはそのためのものだろう。だが……」
「ファイヤーバタフライ」
今度は炎で出来ている蝶々たちが空を舞う。敵にやがれせをするための魔術だが、その光景はとても綺麗なものだ。
「スキルはこんな風に優しい思いを込めれば答えてくるものだ。君のスキルもきっとそうさ、一緒に使い方を探そうね」
「はい!」
(我ながらちょっとキザだが、言いたいことは伝えたみたいだね)
「それじゃ、スキルの確認をしよう。まだ使いたくない人は見学でも問題ない。使いたい人は友達と5歩くらい離れて並んでくれ」
俺の言葉に13人の子が並んだ。他の子たちもスキルを使いたいようだが、まだ怖いみたい。
つづく
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