第34話 - 予言



おの模擬戦の授業から1年以上が経っている。


あれから貴族たちとは特に大きな問題を起こしていない。それも俺たちがほぼ一日中ダンジョンに籠もっているからだ。


アリシアさんに呼ばれる時以外は授業を受けていない。それは彼女たちによくないと思ったが、こうしている理由は姫さんが自分を信じてただただ鍛えてっと俺たちに言ってきたからだ。


普段は何を考えているのがわからない彼女だが、その時の真剣さを俺たちは信じることにした。


そして今日、それは間違いではなかったと知ることになった。



◇◇◇◇



朝、姫の提案で探索をしない。特に俺はもしもの時のための準備をしろっとのことだ。


関心なことはなにも教えないが、あのパメラが言ったことと関係しているらしい。


(金色に覚醒したから自分が選ばれると思っているのっか。イヤな予感がする)


そんな俺たちはテレザさんたちの部屋のテラスで朝食を食べている。


「リリーそれは私の!」

「いやだ!」


イレネさんとリリーがじゃれつく。


(仲良くなっているねえ)


久しぶりの休憩で服だのお菓子だので話題が続く。流石にそれに付き合う自信がないので、俺は食べ終わると武器の手入れをしていた。


(………)


が、俺は知っている。いや、俺がそう選んだ。始めてヴィセンス村を出た日から、俺にこういう幸せな時間は長く続かないことを……


ふと、姫が時計を見た。今は8時くらいだ。彼女がそれを確認して、時計をしまうと…………


「ッ!」


俺たちの足元に大きな魔法陣がグルグルと回転しながら現れた。逃げる暇もなく魔法陣はその効果を発揮し、次の瞬間……










「勇者たちだ!!勇者たちが本当に現れた!!」







目の前の景色が玉座の間に変わった。


(どうなっている!?)


彼女たち5人はまだ俺の近くで無事に居る。


それを確認できた俺は周りを見渡す。先ずは王座に女王が座っている。これでまだ同じ国にいるのが分かった。次は周りの人。顔に覚えがない人もいるが、あの日の会議室に居た貴族たちもいる。


そして、俺たちの近くに学園の生徒たちも数人いる。学園で見た顔もある、特に知っているのは同じ組のリビア、そして………


「ふふふ、やっぱり私こそ相応しいっ!」


笑いながらそんなことを言うパメラ。


(あのセリフはそういうことだったのか)


彼女も気になるが、俺たち以外にも……居る。



「すげええ!本当に異世界だ!!!」

「マジかよ!!」

「本当に勇者なの!?」



地球の学園の制服を着た20人の生徒が。



(………落ち着け、取り乱す必要はない。経験していないが俺は知っている、これがどういう状況を)


「勇者たちよ、混乱しているのだろう。私はヴァレン王国の宰相。君たちへの説明を任されている」


王座の階段の前でローブを深く着ている人、その声から性別すら分からないそいつが説明を始めた。


それ程長い説明じゃない。


数ヶ月前、王族の数人が声を聞こえた。

その声は王族たちにこう言った…


「魔王が生まれる日は近い。愛おしい子らよ、勇者たちを召喚して魔の王に抗いなさい………―― 王族たちがその予言を聞いたのは一年前。その時から私たちは召喚の準備にかかり、そして今日、ついに君たちを召喚することが叶った」


(一年前……テレザさんが俺を召喚したことに目を付けたのもそれが理由だろう。女王も姫も知っていたか)


「そんなことはどうでもいいんだよッ!!俺たちは何をもらえる!?まさかただで戦えなんて言えねよなあッ!?」


(…………………………)


地球人らしい生徒の一人がそう叫んだ。


(こいつらはどうしたんだ………女神たちよ?)


「え、ええ!もちろんよ、勇者様!私たちが―」

「いいえ!俺の家がサポートをする!」

「何を言う!このメイジス侯爵家こそ!」


周りの貴族たちが勇者たちに媚び始めた。


(女王はまだ何も言えないか)


女王は王座に座ったまま冷徹な視線を勇者たちに送っていた。


(さて、俺たちはどうしよう)


召喚された時に俺が後ろで隠れるようにした5人。


(彼女たちも召喚されたなら勇者になったということか?)


「では、勇者たち。君たちが覚醒したスキルを鑑定しよう」


宰相が再び話し出す。


(そうは言っているが、俺は気づいている。女王の左後ろに立っているあの時の女性は既に勇者たちの鑑定をして、女王に結果を耳打ちした)


彼女とは別に、鑑定の魔道具を運んでいる使用人が前に出た。宰相が使い方を説明して、生徒たちがその魔道具を使い始めた。


「じゃあ、アタシから!」


(ギャルってヤツか、ブラジルでは見たことがないな)


短いポニーテールの黒髪のギャルは魔道具である水晶の上に手をかざし、彼女のステータスが王座の間の空中で現れた。



=――――――――――=――――――――――=


【ステータス】

名前: 北原きたはら絵理奈えりな

年齢: 16 種族: 人族

レベル: 1

称号: 勇者


【天恵スキル】

『虹色スキル・ダンジョンマスター』


『金色スキル・ドロップ率5X』


『銀色スキル・風魔術適性』

『銀色スキル・火魔術適性』


『銅色スキル・斧術適性』『銅色スキル・体術適性』

『鉄色スキル・魔力察知』『鉄色スキル・魔力操作』

『鉄色スキル・筋力増幅』『鉄色スキル・記憶力増幅』


【後天スキル】


【ダンジョン攻略】


=――――――――――=――――――――――=



(いきなりかよ!?)


「うわあ~ これがアタシのステータス!?なんかチートっぽいですけど?」


「なんてこと!もう虹色スキルが現れた!!」


そう言った使用人だけじゃなく他の貴族たちも驚いているが、生徒たちはお構いなくに鑑定を続いた。


………

……


異世界人の20人中、5人が虹色の天恵スキルを持っていた。俺たち現地勇者はもちろん国に既に知られていたが、30人中、5人。


(ヤバイ、ヤバイぞこれは!?)


動揺を気づかれないように頑張っているが、内心は穏やかじゃない。


(くそ、女神たちは何を考えている!?)


10人の虹色スキル。それはとんでもないことだが、問題はそれじゃない。問題はこの召喚された勇者たちだ。


全員じゃないが、虹色スキルを持っている奴らの大半は態度が頗る悪い。


先から勇者だからお金だの、奴隷だのっと貴族たちに頼んでいる。貴族たちはそいつらはただの子供で勇者っと言われて舞い上がっているだけっと思っているが、全く分かっていない。


魔王。


俺が召喚された時代のそいつは世界のどんな強者でも倒せなかった。全世界の精鋭たちで一軍を作り、そこで勇者たちが加われたことで初めて抗うことが出来た。それもその大半の戦士を失ってだ。


最初にあの最終戦に参加した俺は魔王が住む山にすら上がることが出来なかった。あのくそ野郎を倒したのは死に戻りの力があったからだ。


だから、勇者たちの存在の意味が分かる。もしも勇者なしで魔王に挑んだら人類そのものが滅ぶ。


その意味を分かっているのは女神から直接予言を聞いた女王だけなはずだ。


勇者たちが居ないとこの世界は滅ぶ。なら、彼らの要求を無視できるのか?


あの時は信じられないくらいに勇者たち全員がいい人たちだった。自分のために動く人も居た、戦わない人も居た。だけど誰も力を悪事に使わなかった。


(…………こいつらをどうする?)


先から悪いことばかりが頭に浮かぶ。俺の悪い癖ではあるが、俺を何度も救った感でもある。



「それでは、勇者たちを導くパーティーメンバーを決めよう」


宰相が言う。


(もうパーティーを決める?早すぎないか?)


俺のそんな心配を知らずにことが進む。


「先ずは虹色スキルの勇者たち」


宰相の指示に10人の勇者たちが並んだ。左に異界の勇者、右にこの世界の勇者。


「では、金色の勇者たちよ。どの虹色の勇者のパーティーに入りたいかを選んでください」


(…………………)


最初に動いたのがこの世界の生徒たちだ。俺たちを除いて人数は11人。その内の5人は一緒にパメラのところに集まった。


他の生徒には周りの貴族たちの子供が多く、その指示に従って他の勇者たちのところへ行った。異界の勇者たちから金色スキルを持っているのは5人。そいつらは勇者たちの中にある友達のところを選んだが、一人はパメラのところに行った。


残ったのは……


銀色スキル以下の8人の現地勇者。

銀色スキル以下の10人の異界勇者。

そして、俺たち6人だ。


「君たち、何を待っている?」


宰相が聞いてきた。


(付き合うつもりはねえよ)


「こっちにはジュリア・リセロット、オルガ・ディ・ヴァレン、テレザ、そして俺がいる。一つの勇者パーティーとして独立をする」


宰相だけじゃなく、女王と残っている数人の生徒を見渡しながら言う。


(振り回されるのは御免だ)


「貴様あ!!」

「またあの平民か!?」

「偽物め!!」


「良い」


貴族たちは反対をしようとしたが、女王の一言で悔しい顔をして押し黙る。


「ふう……。では、次は銀色の勇者たち。君たちも選べるけど、パーティーに加われるかどうかは各パーティーのリーダーが決まる」


宰相が続く。


(アホか?いや、アホだ)


異界の人たちは事情をよく分かっていないが、その言葉にこっち側の生徒に不安が走る。それもそうだ、この貴族たちを知っているんだ。勇者として召喚されたのに、選ばれなかったら価値がないと思うだろう。


(さて、チャンスだ)


魔王が本当に生まれるなら戦わなくちゃいけない。ならいい奴らを鍛えるまでだ。貴族に任せば力が腐る。


「姫、あの2人を」


姫の人気のお陰か、現地勇者8人の生徒のうち、3人がこっちを見ていた。そのうち2人だけを選んだ。


(断ったのはおの模擬戦所のBクラスの奴、碌でもない)


異世界の10人だが、1人はパメラのパーティーに、2人は現地勇者のパーティーに行った。残りの7人はあのギャルのところに行ったが……


「お断りしまーす」


彼女は女の子だけを受け入れた。残りの3人の男子は悪態をつきながら他のパーティーに入った。


そうして、勇者パーティーの最初のメンバーが決まった。


まだ混乱している人が多いとのことで俺たちは王城で夜を過ごすことになった。





つづく



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