第33話 - 虹色スキル
「97……98……99……100!うん、よくやった。次はベアトリスさん」
Dランクダンジョン、15階層。
あれから一か月が経った。授業の間、放課後、そして翌日ですら俺たちはダンジョンで過ごした。その結果、ダンジョンの中層までたどり着いた。
だけど、これからが本当のダンジョン探索だ。
この一か月で俺と姫のレベルは変わっていないが、ジュリアさんはレベル18へ、テレザさん達は全員レベル10。低いようだが、これはとんでもない速さだ。
そんな彼女たちだが、まだ俺たちのサポートなしで戦ったことがない。レベルを上げるために弱った魔物と戦わってもらっている。だけど、それも今日までだ。一人じゃないが、三人だけで魔物と戦わせる。
「98……99……100!よし、イレネさんも終わっているようだ。少し休んでから行こう」
今やっているのは彼女たちの前に俺が訓練用の盾と剣を構え、その俺の防御の隙を木剣で攻撃する練習だ。打ち込み人形や的がないわけじゃない。だけど、彼女たちには魔物討伐じゃなく、対人戦を中心に武術を教えるつもりだ。
(まあ、俺も対人戦に強いわけじゃないがな。騎士団に入った時は念の為に色々やったが、俺はあの黒竜野郎を倒すことで精一杯だった)
ちなみに、イレネさんは弓矢の練習をしていた。獣人だからか、彼女の視力は高く矢の命中率も高い。
訓練所じゃなくここで練習をしているのはもちろん、貴族たちの目を避けるためだ。だが、ダンジョンの安全スペースも意外に快適だ。何せ……
「みかん美味しい~」
「イレネさんは本当にみかんがお好きですのね~」
アイテムボックスから出したみかんを食べながらイレネさんとジュリアさんがはしゃぐ。
ダンジョン攻略の速度を上げた一つの原因はイレネさんの銀色の天恵スキル、アイテムボックスだ。アイテムボックスはゲームのインベントリみたいに物を見えない空間に収納するスキルだ。まだ覚醒したばかりだが、その収納量は普通の収納袋を遥かに上回る。
(今はまだ成長中だが、アイテムボックスは弓矢といいコンビだからな)
そして少し細身のベアトリスさんはというと、なんと、銀色スキルの怪力だ。力持ちになった彼女が使っているはフルプレートの鎧、大楯、大剣。
技はまだないが、彼女はテレザさんとイレネさんを守りたいっと、俺に使い方を教えてほしいとお願いしてきた。
(まあ、怪力があるとはいえ、剣術か盾術のスキルを覚えなかったら武器を変えてもらうつもりだが)
最後にテレザさん。三人の中で魔力の扱いが一番上手だが、まだ魔術を覚えていない。だけどそれは単に彼女が平民だからだ。
例外はあるが、魔術を覚えるには魔導書という物が必要だ。そしてその魔導書だが、値段が極めて高い。平民が手に入れる物じゃなく、そのほとんどが貴族たちに買い占められている。
だけど、彼女は平民でありながらBクラスとして世界一の学園に合格した。彼女の才能を開花するためにSクラスであることを使い、学園から色んな魔導書を借りている。
だから今は俺と同じく盾と剣を使っているが、魔術を使えるようになったら新しい戦い方を教えるつもりだ。
っと、こんな感じに彼女たちの育成計画をしている。
(まあ、アリシアさんの指導があるからこそだがな)
「休憩はこれで十分か。行こう」
俺の言葉にテレザさんたち、そして静かに休憩をしていた姫さんも準備をする。
ダンジョンの各安全スペースと入り口には転移装置がある。この15階層も例外なく、装置に近づいた俺たちはそれを使い1階層の入り口へ転移する。彼女たちには1階層の魔物と戦ってもらう。ここで現る魔物は大体レベル15。レベル10の彼女たちにとっては強敵だ。
◇◇◇◇
転移してから10分。歩いていたダンジョンの通路の先に三体の魔物が居た。
(フログウォーリアー、スケルトンとゴブリンメイジか)
「残すはスケルトンだ。ゴブリンメイジは俺が魔術で倒す、ジュリアさんはフログウォーリアーを」
「はい」
敵に気づかれる前にそう決まり、俺たちは魔術を放った。
「ストーンバレット!」
「サンダーボール!」
同時に魔術が飛び、目標に直撃した。ストーンバレットはゴブリンメイジの胸に風穴を開く。ジュリアさんが放ったサンダーボールも見事にフログウォーリアーの頭に当たり、電気で頭を焼かれたそいつも俺たちに気づけることなく紫色の光の粒になって消える。
残ったスケルトンは流石に気づいて、俺たちの方へ走ってくる。
「さあ、君たちの番だ」
俺の言葉に三人が動き出した。
先頭はベアトリスさん。欠けた剣と丸い木の盾を持つスケルトンの前に立つ。スケルトンは体当たりする勢いで攻撃をしてきたが、彼女はその大きな盾で防いだ。
怪力のスキルがあるとはいえ、スケルトンの攻撃はまだ重い。彼女は少し後ろへ押さえされるが……
「ッ!」
スケルトンは背後から攻撃された。見事に注意を引いたベアトリスさんの作った隙を使い、テレザさんが攻撃する。
そこでスケルトンの特徴が発揮。例え腕や足が壊れてもその動きを止まない。魔物はテレザさんに攻撃をしようとしたが最初の攻撃で彼女は既に引いている。
それを見たスケルトンは目標をベアトリスさんに戻そうとしたが、彼女はもう目の前に居ない。
シュッ! タッ!!
その瞬間、スケルトンの命はその混乱の中で終わった。イレネさんの放った矢は額にあった魔石を砕いた。
「うおお!すげええっ!やったな!」
(おっと。ついにテンションが上がった)
「訓練通りに出来たな」
「ありがとう、ギリェルメさん!」
「はい!」
「てへへへ」
「……!」
(くぅ!感動した!)
嬉しそう笑う彼女たちに感動すら覚えたが。
「このまま続けたいが。それは明日にしよう」
今日は学園で特別な授業がある。そのために早く起きて、この一戦で彼女たちに自信を与えたかった。
◇◇◇◇
学園の模擬戦所。
久しぶりにあのコロシアムみたいな場所に戻った。入学式と違うのは客席には高年の学生が居なくて、貴族や色んな組織の人たちだけが座っている。
今日の特別授業は全学年の生徒が参加する。その内容はペア同士の模擬戦だ。
「やれやれ」
ジュリアさんはテレザさんと、イレネさんはベアトリスさんとペアを組み。そして俺は無事に?姫さんとペアを組んでいる。
そんな俺たち6人はわざと遅れるようにして、模擬戦所に入った。
理由は一か月が過ぎて、女王のお守り時間が終わったからだ。
俺たちの姿を見て、クソたちが気持ち悪く笑う。
今までは女王の命令で俺たちに何もしなかったが、この模擬戦でそれが終わる。
「俺から離れるな」
彼女たちにそう言って、俺たちは隅の方まで歩いた。模擬戦にカッコつけて何をしてくるのがわからない。アリシアさんならともかく、ここの教師の中ですら貴族の手駒が多い。見ぬふりを決めるだろう。
実際にはもうしている。あっちこっちで模擬戦をしている生徒が居るが、2ペア対1ペアが多い。
(気に入らない平民をいじめているか)
自然豊かで綺麗な国だが、これがその本当の姿。
(待っていろよ、クソ共…)
今の俺に出来るのはこの子たちを守ることだけだ。
「そこの汚い平民!私たちと決闘をしなさい!」
「来たか」
ついに最初のゴミが来た。
女子4人と男子2人、制服から見るとBクラス、しかも2年生。そのパーティーのリーダーらしい女子が指さしたのは俺でもテレザさんでもない。ベアトリスさん達だ。
「お断りします」
もちろん、そんなもんは許さん。
「あ、あなたに聞いていないわ!伯爵の私はそこの2人に決闘を申し込んでいるのよ!?」
(伯爵はお前じゃなく家の人だろう)
そいつは俺の隣に居る姫の顔を伺いながら答えた。
「そうか。だが、断る」
「見つけたぞ!」
そこで馬鹿が増えた。あのうるさいメイジス家とやらのSクラス生徒が来た。
「っ!」
そいつは勢いのまま俺のところへ来ようとしたが、姫さんを見て思いとどまった。
(姫さんの存在は大きいが、その立場にも限界があるだろう)
その限界がとあるパーティーの登場で早くも超えられた。
「あら、まだ戦っていないの?流石は臆病ね」
周りの生徒たちが自分から道を開けて、そこから現れたのは数十人の上級生、そして姫とよく似た2年制服の女子。
「………」
その言葉は姫に向けたものだが、答える素振りは無い。
(そうか、コイツか)
その女子の名前はパメラ。始めて見るが、この国でコイツのことを知らない人は居ない。何せ、この国の姫の一人、そして……虹色の天恵スキルを持つ人だ。
「王宮に居た時のようにだんまりを決めると思っているの?ふふ、この学園であなたの立場を分からせようかなあ〜」
その言葉で周りの生徒が怯えた顔をして静かになった。
(この怯え方……コイツ、俺たちが入学する前に結構やらかしているね)
噂くらいは聞いている、このパメラが覚醒した虹色スキルは俺ですら見たことない重力関連のものだ。
虹色スキル。勇者たちでも持っていたのはたったの5人。この世界に来てから色んなものを見てきた、だけど味方でありながら、勇者たちがスキルを使う度に俺が思ったのは、これはこの世界にあるべきものじゃない。
「模擬戦をしよう、オルガ」
「?」
パメラは手を上げた。それを見た瞬間、ほとんどの生徒が片膝をついた。スキルは使っていない、単なる恐怖だ。まだ立っているのは俺たちと事情を知らない1年生だけだ。
次の瞬間。
「ッ!」
俺たちは地面に叩きつけられた。
「ふふ、いいざまよ」
レベルのお陰か、姫は耐えているが、それでも片膝が地面に触れた。
「………」
それでも、彼女はまだ何も言わない。
「あなた……」
その時、余裕の表情をしていたパメラの顔に怒りが浮かぶ。だけど、それは姫に向けたものではない。
不意に俺たち6人にかけていた重力の威圧が消えて、みんなで立ち上げる。そんな俺たちの背後には最初から立っていたジュリアさんが手に持っていた聖杖を上げた。
虹色の光を放っている聖杖は一段と輝きを増し、その光に包まれたコロシアム全体の生徒にかけていた負荷が消えた。
「ふはは、ざまねえぜ」
俺はついに本音をこぼす。
聖なる武器。それらは虹色のスキルと匹敵する力を持っている。だが強みはそれだけじゃない。
早いとはいえ、虹色スキルは成長する必要はあるが、聖杖は所有者を認めれば最初からその力の全貌を見せる。
「平民風情がッ!何を笑っている!?」
パメラの隣に立っていた女子生徒が叫ぶ。
(ペアか)
「イヤだな、そいつのことに決まっているだろう」
「ギリェルメ」
「………」
隣に居る姫が俺の名前を呼ぶ。それだけで俺は黙る。
後ろのテレザさんの額に傷が出来ている。それを見た瞬間に冷静さを失った。姫は気づいたようだ、俺が収納袋からとあるマジックアイテムを取り出したことに。
「満足かしら、パメラ?」
「チッ!」
「こんなくだらないことをしている時じゃないのよ?」
「うるさいッ!金色に覚醒したから自分が選ばれると思っているの!?そこの伯爵が居なければあなたなんてッ!!そこの偽物も覚えておきなさいっ!!」
「………」
姫はまだ黙り込む。
(偽物?俺のことか?)
彼女はそのセリフを残して去っていた。
気になる話だが、まずはテレザさん達だ。
「大丈夫か?」
テレザさんの額から血が流れている。他の2人も膝や手を怪我しているが、幸い大きいな怪我はない。
「イレネさん」
「うん」
学園は傷を癒すためのポーションを生徒に提供しているが、傷跡は残す。だからこんな時のために彼女たちにもっといいものを渡している。その大半を預けているイレネさんがテレザさんに一つを渡しった。
「ありがとう、イレネ」
まだ顔に血が残っているが、傷は完全に消えている。
(………)
他の生徒はこっちを見ているが、聖杖が怖いのか、もう誰も関わってこない。
「ジュリアさん、俺たちを守ってくれてありがとう」
「いいえ、聖杖の力のお陰ですわ」
「その力を使っているのは君だ、ありがとうね」
「もう」
「ダンジョンへ行きましょう」
「?」
いきなりそう言ってきたのは姫だ。その姫は俺たちの返事も待たずに歩き出した。
「行こう」
まだ授業の途中だが、正直にもうどうでもいい。テレザさんたちはこの学園に憧れを持っていたが、そんなもんはもう無いだろう。だったら俺にももうどうでもいい場所だ。
(死に戻りの情報はもっといい方法で探そう)
つづく
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