第29話 - 探索パーティー 1
「この学園には授業の一つとしてダンジョン探索が含まれている。人によってこれが入学の理由ね」
アリシアさんに言われて、俺たちはペアと一緒に訓練所に並んでいる。ペアではないが俺一応姫さんの隣に立っている。
「君たちSクラスにはこの3年間でCランクダンジョンの一つを攻略してもらう。スキルの種類関係なく、それがこの学園での卒業の条件ね」
(おいおい、3年でCランクって)
ダンジョンに入るのは知っていたが、まさかCランクとは思わなかった。元からのSクラスの生徒は知っていたようだが、それでも不安がっている。
「もちろん、最初からCランクの探索をさせないわ。この学園の敷地内にFからSランクのダンジョンが存在あるのは知っているでしょう。Cランクに挑戦する前に下のダンジョンで力を付けなさい」
そう。これがこの学園が世界一の理由だ。目的は知られていないが、女神の一人がこの学園がいる土地に全ランクのダンジョンを作った。
(この国の貴族たちの自慢の一つであるがな)
「だけど…愚かにも自分の実力を誤ってCランクに入り、死んだとしても学園は一切の責任を持ったない。これに関しては君たちの家はもう承知しているね」
その言葉に生徒全員が息を呑んだ。
「君の家もね、テレザさん」
「は、はい!」
俺の母さんには色々話しているが、テレザさんの家の場合はそうでもない。
(ちゃんと守らないと)
「ペアを組んでいない人は今日中に組むように。もちろん、姫様も例外なく」
「ええ」
姫は知っていたのか、驚いていない。
「それでは、今日はこれで解散。ダンジョン攻略はソロでも出来ると思う人も居るけど、仲間が居ないと自分のミス一つで死ぬことがあるよ。最低でも5人のパーティーを組みなさい。勇者様も、例外なく」
「うぅ――はい」
(やっぱりおかしい、アリシアさんは知っている。全部…)
そして去り際、アリシアさんは俺にこう言った。
「ギリェルメさん、知りたいことがあるのならそれは卒業の後にしなさい。今の君も、昔の君も弱い。それだけは教えるよ」
「………」
(返す言葉もない。俺にあの死に戻りの力を与えた人が居る。それは女神たちの言葉とあのメッセージで分かる。そんな力を持っている存在、昔の俺でも……)
◇◇◇◇
アリシアさんが去った後。訓練所は今、生徒で溢れている。
その理由は一つ、探索パーティーだ。
ペアは同じ組限定だが、探索パーティーは違う。組だけじゃなく、他のクラスの人とも組める。
「さて、どうしよう」
俺とテレザさんのところにまだ誰も来ていない。遠慮しているというより姫様と高位貴族が人気を占めている。金色スキルで勇者でも、平民だ。
(まあ、助かるが)
「5人のパーティーかあ……ん?」
隣を見るとテレザさんは少し落ち着かない調子で周りを見ていた。まるで誰かを探すような……
「って!すまんテレザさん!」
(うわあ、アホか俺!?テレザさんは15歳の女子だ、この学園に一緒に入ってきた友達も居るだろう!)
「え!?どうしんたんですか?」
「いや、こっちのことばかり考えたよ。この学園にテレザさんの友達は居るのか?」
「それは……うん」
申し訳無さそうに言う。
(本当にアホだ、俺)
「そうか、本当にすまん。俺はちょっと自己中が過ぎる。友達を探そうぜ」
「いいのですか?」
「ああ、もちろんだ。俺としてもその方が助かる」
(知らない人よりは彼女にとっても安心だ)
そうして俺たちはテレザさんの友達を探すために移動した。
………
……
訓練所の生徒たちは4つのグループに分かれている。
北側には高位貴族やレアスキルもち。
西側には金色を披露している生徒も居るが、北に行かないのは身分が低いからだろう。
東には居る生徒たちは分かりづらいだが、貴族として中位な爵位のか、他のグループの顔を伺っている。
そして南。そこにはどうやら高ランクのクラスに合格したが身分が低い上にスキルもそれほどレアなものじゃない。
っと、貴族のたちにパーティーの勧誘を受けているジュリアさんに合図を送ってみる。
可能かは分からないが、全部断って俺たちを待ってほしいっと伝えてみた。
彼女が小さく頷いたのを見て、俺たちはまた歩き出した。
向かうのはもちろん…………訓練所の外だ。
◇◇◇◇
あの訓練所はアリシアさんの言う通りに1から10組までのSクラス専用の場所だ。パーティー勧誘のために他のクラスの生徒も来ていたが、そいつらですらAやBクラスの奴らだ。
「ここに居るはずです」
俺たちが来たのは学園公用の訓練所。そこはSランクのより数倍も広く、生徒も数千人は居る。
「こりゃあすげえなあー」
ここでもパーティーを探しているのか、模擬戦をしている生徒や魔術を披露している生徒も居る。
(やっぱり学園編に入ったな、俺)
「友達の一人はCクラスでもう一人はDクラスだね」
「はい。二人は一緒な居ると思います」
貴族たちは分かりやすかったが、ここで二人の少女を見つかるのは難しいだろう。
「おい、あんまり見るなって!」
あの入学式のせいか、訓練所に俺たちは結構目立っている。問題はSクラスだから恐れもされている。
(それを利用するのも手が、テレザさんに変な印象がつく)
「まあ、歩こうか」
諦めて、普通に探すことにした。数分後…
「おい!そこの平民!」
「ん?」
歩いていると、前から十数人の生徒が近づいて、一人が声を上げた。
「何でしょう?」
(こいつは昨晩に俺の部屋に来た奴だな)
同じ組じゃないが、あの寮に入ったならSクラスの生徒だ。
「何でしょうっじゃねえよ!俺様を無視しやがって!」
「それもそうだな。無視したのは失礼だったな、すまない」
「素直じゃねえか!ここに来たのはあっちで相手にされなかったからだろう!?」
確かにまだ声をかける人は居なかったが、それは時間の問題だろう。金色スキルもち、中級魔術を使えること、そして女王の命令で俺たちがSクラスになっただけで貴族たちにとっては魅力的だ。
(まあ、こいつに説明することじゃない)
「そうだが」
「は!勇者だなんて抜かしやがって!平民は平民だな!?」
「で?俺は急いでるんだ、何か用か?」
「コイツっ!!俺様のパーティーに入れ!俺は本物のSクラスだぞ、女王とコネを作っているお前と違ってね!」
「!」
(うわ、コイツアホだ!こんな風に女王のことを言うなんて)
「だが、断る」
「な!?」
(振る舞いから、コイツと一緒にいる奴らは平民が多い。家の力を使っただろう………死に戻りの情報を見つかるまでの間、勇者らしいことをしようか)
「そういえば、お前の家の名前はなんだ?」
「俺様はメイジス侯爵家の跡継ぎだ!平民には雲の上の存在だそ!?」
「そうか。まあ、先に言った通りにお誘いはお断りだ。そして俺は急いでいる。では」
そう言って、テレザさんとまた歩き出した。貴族野郎は騒いでいるが、何もしてこない。昨晩、寮にお使いが来て、俺に伝えた。女王は俺たちに手を出すことと貴族の派閥に勧誘することを厳しく禁止している。
(それも一ヶ月の間だけだけどね。そしてコイツみたいな奴がいつまでもそれを守るかはわからないが、そんなことより……)
「テレザ!」
「テレザちゃん!」
ついに見つけた。
つづく
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