第28話 - 授業開始
「質問は今度ね、今は教師よ」
「お、おう。分かりました」
(流石に驚いた、アリシアさんは人間じゃないのか?)
「あいつ、アリシアさんと知り合い?」
「何者よ?」
「本当に勇者?」
「君たちも、静かに」
アリシアさんの言葉で教室全体が静かになった。
「それでは、先ずは自己紹介ね。私はアリシア・レインリーフ、Sランク冒険者で今日からこのSランクの教師を任されている」
言いながらアリシアさんは教室全体を見る。
「うん、既にペアを組んでいる人たちが多いね。君たちも知っての通り、ここはただの学園ではない。座学に限らず、天恵スキルの使い方、魔術と戦闘の訓練が君たちを待っている。それはこの初日でも例外なくね」
アリシアさんは言い終わると、教室の外へ向かった。
「さ、ついてきなさい」
(テキパキしているね………ていうか、もっと美人になっている)
◇◇◇◇
俺たちが今いるのは校舎の後ろにある広い訓練所。離れたところで俺たち以外の生徒も授業をしているみたいだが、流石にSクラス1組の登場で注目を集めている。
「この訓練所はSランク専用の物。授業がない時でも存分に使いなさい」
どおりでこんなに大きい学園なのにあまり生徒がいない。
「それでは、授業を始めよう。先ずは君の天恵スキルの確認から。金色のスキルに覚醒した生徒は最初から能力を使えるだけど、それが天恵スキルの全てと思わないことね」
先生の声で俺を含めて、金色のスキル持ち主に視線が集まる。
「さあ、自由に試してみなさい」
(先ずは自分たちで使えっか)
アリシアさんの言葉に生徒たちが見せつけるように自分のスキルを使い始めた。
(流石にSランク、金色のスキルじゃなくてももう使い方を掴んでいる人もいる)
「召喚!」
っと。両手を前へ伸ばしたジュリアさんが聖杖を召喚した。
(さて、これは苦労するぞ?)
「あ、あれ?」
他の生徒は気づいていないが、ジュリアさんはその違和感に気づいた。彼女は聖杖を召喚したが、杖から魔力がない。今はただの棍棒同然だ。
(アリシアさんも知っているだろうが何も言わない。なら今のところは黙ってよう)
「ん?」
少し離れたところである生徒がスキルを使おうとしている。
(教室でも気になったが。やっぱり何年たってもいいものだな)
その生徒は黒竜人族の少女だ。人間だけじゃなく、獣人があるこの世界はやっぱり面白い。
「ストーンバレット!」
「お、土魔術か、いいね」
流石にいつまでも見ていると失礼なので他の生徒を見ていた。
(いや、見るだけはダメだけど)
っと、結局見ちゃう俺はあのヤバイ姫様をの方を見る。
彼女は綺麗な剣を前に構えながら目を閉じていた。そして、静かに目を開けた彼女はついに召喚をする。
「召喚」
その言葉に水精霊の子供が現る。
「オルガ!」
あの日は聞こえなかったが、その精霊はかわいい声で嬉しそうに姫の名前を呼ぶ。周りの生徒もその光景に言葉を失っている。
(言葉を話す。やっぱり精霊だったな)
「落ち着いて、リリー」
「ねえ、オルガ、これが授業?」
「そうよ」
「うんん、すごい人たちだねえ~ あれ!?オルガ!」
(ん?)
姫と話しながら他の生徒を見ていた、精霊はいきなりこっちに飛んできた。
「ねえ!お兄ちゃんは勇者なの!?」
(あ、そういうことか)
あの時代でも女神たちの眷族である精霊たちは勇者たちの力になっていた。この子も俺の称号を見ているようだ。
「ああ、勇者だよ。君は精霊か?」
「うん!リリーは水精霊なのよ?お兄ちゃんはどんな勇者?」
「ははは、どんな勇者か」
(可愛いなこいつ)
「俺は騎士だよ」
収納袋から盾を取り出してカッコつけた。
「すごい!みんなを守る勇者ね」
「あ、ああ。困ったことがあったら呼んでね」
(みんなか………)
「ふふ、ギリェルメさん、いつもそれを言いていますね」
そう言ったのは俺の隣にいるテレザさんだ。
「はは、いや癖でね。でも本当からな」
(っと、姫が見ているぜ)
「姫様が待っているよ、リリー。また今度に遊ぼうね」
「うん!」
ふわふわっと彼女は飛んで行った。
「あら、平民たちはやっぱり才能なしよね」
(待っていたのかよ?)
入れ替わるようにリビアお嬢様とその取り巻きが近づいた。
「そう言わないでくれよ、貴族だけの場所で緊張しているのさ。ところでリビアお嬢様はどんな天恵スキルに覚醒したんだ?」
「ふん!嫌味のつもり?」
(なるほど、俺より低いレアリティのスキルか?)
「いいえ、全くそんなつもりはないよ。貴族のみんな様は幼い頃から厳しい訓練を受けると聞いている。そこで天恵スキルが加わればどれほど強くなるが気になったのさ」
(これは本当だ。こいつは差別をしているが、もういきなり喧嘩腰になるつもりはない)
「うーん。まあ、いいわ。私は銀色の付与魔術と支援魔術の適性スキルよ」
そう言って、お嬢様は持っていた訓練用の剣に火の魔術を付与した。すると剣の周りが燃え盛るが、剣自体に傷はない。
「おお!すごいじゃあないか!ダブルだなんて!しかももう使えるんだね」
これは流石に驚いた。勇者たちは普通に持っていたが、同時に二つのスキルに覚醒するのは結構レアなことだ。
「ふ、ふん。それで、2人はどうよ?まさか使えないと言わないよね?」
「そうね」
テレザさんを見る。
(やっぱり結構用心深い子だ)
彼女は黙っていることが多いが、いつも周りを見ている。貴族たちが近づいた時に俺たちの決まり通りにさりげなく俺の後ろに隠れた。
「俺のスキルは結界術だ、こんな風にね。プロテクター」
持っていた盾を上げて、スキルを使う。するとその盾は半透明の光の泡みたいなものに守られた。
(うむ、まだこれくらいが限界か)
「あら、私の付与魔術と少し似ているよね。そこの平み…あなたはどうよ?」
(お?出来るんじゃないか)
「私は……」
テレザさんは少し困ったようにこっちを見た。そこで、アリシアさんが話に入ってきた。
「テレザさんのスキルなら、もう使っているんじゃない?」
「え?」
言いながら俺を見るアリシアさん。
「そ、それはそうですけど。どうしたらいいですか?」
「ふふ、騎士か何かと思ってくれたら彼も喜ぶと思うわ」
「くっ」
(何で分かる?)
「まあ、そういうことだ。俺がテレザさんに召喚されたよ。彼女の力でもある」
お嬢様たちに言う。彼女は意外にも納得しているみたいだが、周りの貴族はまだ不満そうだ。
(なるほど。流石はドリル、根は素直かも)
「ギリェルメさん、魔術を見せてくれないでしょうか」
そう聞いてきたのはテレザさんだ。
「お、おう。もちろん」
(危なくテンションを上げるところだった………俺、この世界に来てから変じゃね?)
そんな考えが頭に浮かんだが、それを消して魔力を集中した。
ここまで見ていただけなのは自分と他の生徒の力を比べるためだ。結果は、それ程離れていない。これで怪しまれる心配はないが、危険なことが起きたらこれでは不安だ。
「ファイヤートルネード!」
みんなから離れて火魔術を使った。名前の通り、訓練所に5メートルの炎の竜巻が巻き上がる。
中級魔術で本当の力は更に魔力を注ぐことで広範囲が上がる。
(今の俺ではこれの3倍が限界だ)
「すげえ!中級魔術だ!」
「あいつはあの召喚した子の召喚獣ってことでいいのか?」
「平民なのにどうして中級魔術を?」
生徒たちに注目されたが、このクラスでこれくらいの魔術を使う人たちもいる。Sクラスで俺の力は高いが、子供の壁を超えていない。
「ギリェルメさん!すごい!」
(まあ、テレザさんに褒められるのはまんざらでもないが)
「力が下がっているね、ギリェルメさん。以前のトルネードは地面の石すら溶けていたじゃない?ちゃんと訓練しているのか?」
「ぅう…」
何だか怒っているのか、真面目な顔でそう言ったのはアリシアさんだった。こんな厳しい人だったのか?
「って、あれ?」
「それでは、次の授業に移る。全員ペアと組みなさい」
(俺、この魔術をアリシアさんの前で見せたことがない……)
つづく
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