第27話 - Sクラス
翌日。
あの後は結局テレザさんと夜まで話をしていて、寮についたら生徒たちはもう居なくて、夜も無事に過ごした。
「まるで家だな」
念の為に今夜は寝ていないが、部屋は広くてベッドの寝心地も最高だった。
「さて、行こうか」
扉の外に出て、階段を降りる。恐るべし勇者の称号、俺の部屋は一番高い場所である5階のテラス付き部屋だった。
寮の外に出た俺を待っている人たちが居る。昨晩も部屋の扉を苛立ったしく叩いた奴らだ。
(無視、無視)
俺は庭の蝶々を見て、気付かないフリをした。
怒ったか、こっちへ向かっている。が、遅い。そいつらの目の前から俺は突然消えた。
◇◇◇◇
「時間ピッタリだね、おはようテレザお嬢様」
「お嬢様って。おはよう、ギリェルメさん」
昨日で仲良くなったテレザさんにそんな冗談を言う。その時で二人で決めたことの一つはこうして授業の前で俺を召喚することだ。
能力の練習という目的もあるが。
「本当に召喚したわ!?」
「この平民が勇者?」
「ただの転移魔術よ!」
うん。予想通りにお嬢たちに囲まれている。
(これも無視っと)
「初日で遅れるわけにもいかないぞ、行こうか、テレザさん」
テレザさんを連れて、お嬢様たちの横を通る。騒いでるが、知らん。
◇◇◇◇
学園内。
(学園なんて、何年ぶりだろう……1000年以上だった)
先生に教えられた教室の前に立つ。
「Sクラス1年1組。ここ、ですね」
流石に緊張、いや、怖いのか。テレザさんは小さな声で言った。
「大丈夫よ。あのド、ジュリアさんもここに居るはずさ」
そう言って、彼女が落ち着いたのを見てから扉を開けた。
教室に入った瞬間に視線が集まる。好奇心、だけじゃない。明らかに不愉快な顔もいる。
(知ったこたないよークソたち。この学園を存分に使ってやる)
「お、あの席に座ろうか」
この学園に決まった席順はない。貴族たちが繋がりを作るために机もペア用の物だ。だから無断で隣に座るのはマナー違反だ。
そんな教室でまだペアを組んでいない人達も居る、その中で窓側の一番後ろの席の姫さまとその前の席で今日も綺麗なドリルのジュリアさんが居た。
(二人はペアじゃないのか)
それをチャンスと捉え、俺はテレザさんと一緒に二人に近づいた。
(別に親しくないが、テレザさんを守るために繋がりは必要だ。まあ、断れるかもしれないが)
「姫様、ジュリアさん、おはよう」
「おはようございます、姫様、伯爵様」
「………」
「ごきげんよう、2人も同じ組ですのね」
(姫さんだんまり)
「ああ、それのことだが、もし良かったらテレザさんとペアを組んでくれないか?」
俺の言葉に周りがザワつく。
この二人にペアが無いのは断っているからだろう。姫ならむしろ皆恐れをなして、誘う相手が少ないと思う。だがこのクラスで比較的に低い身分の伯爵家のジュリアさんなら誘ってきた奴はごまんといるだろう。
上の貴族のお誘いという名の命令を断るのは難しいことだが、聖杖を手に入れた彼女とその家の力が上がっているはずだ。
「あら、勇者を召喚した人とペアだなんて、こっちから願いたいですのよ」
「伯爵様、ありがとうございます」
「ふふ、ジュリアでいいですわ」
(うむ、成功だ。後は………)
こっちを無表情で見ている姫さんの机に近づく。
「今度は私か?」
いや、完全に無表情じゃない、小さな笑みを浮かべている。
(この姫、少しヤバイな)
「う、うむ。是非ともペアを組んでもらいたい」
(なんか緊張してきたぞ?美人からか?キモイぞ?)
「今はまだ誰とペアを組むのは決めたくないよ。それでいいなら隣に座っていいわ」
「お、おう。もちろんいいですよ」
(うわ、敬語まで出てきているぜ。苦手かもこの姫)
こうして、テレザさんのペアと俺の席が決まった。もう少しで先生が来るだろうと思い姫さんの隣に座った……が。
「リセロット伯爵!これはどういうことよ!?」
それと同時に、教室にもう一人のドリル……金髪の生徒が入ってきた。入った時にジュリアの方を見て、いきなり声を上げった。
「え?」
テレザさんは驚いているが、ジュリアさんは理由を分かっているようだ。
「リビア様……」
「どうして私のお誘いを断ったのにこの平民とペアを組んでいるの!?」
リビアとやらが取り巻き数人と一緒に2人の席へ近づいた。上級の貴族か、ジュリアさんは少し困っている。俺は頬杖をついて、成り行きを見ていた。
「聖杖を召喚した瞬間に調子に乗っているの!?私は公爵の令嬢わよ!?」
「そんなつもりはありませんわ。ですけど、学園で誰とペアを組むのは生徒の自由ですのよ」
(うむ、正論。だが………)
「やっぱり調子に乗っているわね!!」
そんなもの、貴族には意味がない。
っと。そこでまた一人の男子の貴族が来た。
「陛下、あなたもどうしてこの平民とペアを組むのですか?」
そいつも断られたのか、俺に目もくれずに姫にそう言った。
「金色のスキルに覚醒したのは真実だとしても、平民が勇者の称号を持っているなんてことは有り得ません!」
(俺はどうでもいいが、テレザさんは3年間もこれに耐えるか)
そんな心配をしていると、姫がそいつの方を見た。
「………」
だがすぐに視線を前に戻した。
(うわあ)
「くっ――!」
こいつの家がどんな爵位かは知らないが、流石に国の姫にこれ以上は言えないようで、自分の席へ戻った。
そんなことがあっても自分とは関係ないと思っているのか、公爵のお嬢様がまだ続いている。
「そこの平民も図々しい!何でまだ座っているのよ!?」
そいつはついにテレザさんへ言葉を投げた。
「ギ、ギリェルメさん」
(お、来た)
テレザさんと決めたルールの一つだ。彼女も俺を召喚したことに責任を感じているので、出来ることは自分でやりたいようだ。だが流石に公爵家じゃあそうはいかないだろう。
「お嬢様、そこまでにしてくれないかな?もう授業の時間だ」
俺は席を立ちそう言った。
「あなたも何様のつもりよ!?」
「いや、そういうのはいいって。先生、扉の前で待っているよ?」
教室の外から気配がする。騒ぎを聞いているだろうな。
「え!?」
俺の言葉にお嬢様だけじゃなく、関わっていない生徒すら自分の席に戻り静かになった。
(お?これほどの効果は期待していなかったが、先生は凄い人のか?)
俺も自分の席に戻ると先生が扉を開けて教室に入ってきた。
「うん。静かになったね」
「ぐほおッ!!!??」
「な、何?」
突然、気色の悪い声を出した俺に隣の姫すら驚いた。
(いやいや!!驚いているのはこっちだよ!)
「ふふ、ギリェルメさん、久しぶりね」
その先生はなんと、アリシアさんだった……
つづく
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