第26話 - 召喚者と勇者



あの会議室を出て、俺たちはSクラス寮へ向かっていた。


流石に俺たちだけで歩くわけにもいかず、後ろにいる姫とジュリアさんのために護衛数人も一緒に歩いている。そんな中で俺というと……


「………」

「………」


左隣に歩くテレザを見る。こんなめちゃくちゃな状況だ、彼女の顔には疲れが出ている。


「ね、テレザさん」


「う、うん?」


笑顔を浮かべて、彼女に声をかける。


「寮に着いたら二人で話さないか?ていうか、話すことが多いでしょうね」


「ええ、私も話したいと思ったんです」


「それにしても、とんでもない場所だなこの学園」


少し気分を変える為に周りを見ながらそう言った。


「私はずっと憧れたんです。この学園の生徒になりたいっと小さい頃からずっと」


「そうか。確かに綺麗な場所だな」


建物の大きさもそうだが、一番目立つのはその緑の多さだ。俺たちが歩いている道の両側に花壇があり、その向こうには英国風の庭みたいのものがある。


(この世界は本当に緑が多いからなあ)


この世界の特徴の一つはどの国でも大きな森があることだ。人々は森の周りに住み、それを愛している。自然を大事にする国は女神に守られるっとすら言われているほどだ。


(うん、魔王とかは兎も角、俺はやっぱりこの世界が好きだ)


「ね、本当に勇者様ですの?」


「ん?」


そう聞いてきたのは後ろで歩いていたジュリアさんだ。テレザさんと姫さんも見ている。


(………ですの、か。そうですか。ってそうじゃない。これにどうやって答えるんだ?ハズイわ)


「お、おう。一応勇者だ」


「一応って…」


「まあ、あれだ。称号を貰っているが、俺は偉いことなんて何もしていないからな。勇者かどうかはこれからの頑張りで」


指を立て、それっぽいことを言う。


「それもそうですね。私もまだ聖杖と契約をしただけですわ」


「うむ、お互い頑張ろう。っとこれからは同じ組になるかもしれないね、俺はギリェルメだ。よろしくお願いします」


ちょっとおどけた調子で言うと。


「あら、ご丁寧に。私はリセロット伯爵家の次女、ジュリア・リセロット。よろしくお願いしますわ」


(うむ、やっぱり素直な子だった)


っと、寮についた。目の前には噴水のある広場があり、その両側の道を続けば寮がある。


「君はこっちに」


そう言ったのは副長先生。どうやら右の方が男子寮。


「案内ありがとうございます、副長先生。テレザさん、あっちで話さないか?」


もっと落ち着いてからでもいいかもしれないが、なんだかテレザさんを一人にしたくない。


(先の貴族たちが何かしないとも限らないからな)


「ええ、もちろん。お姫様、伯爵様、失礼します」


テレザさんは2人に頭を下げた。姫は小さく頷いて、ジュリアさんも挨拶を返し。そうして、俺たちはついに二人きりになった。



◇◇◇◇



今はあの噴水がある広場から北の道にあるベンチに座っている。部屋に誘おうと思ったが、ここからでも分かる、寮の前でSクラスの生徒が俺たちを待っている。


(情報が早いことで)


「じゃあ、まずはまだだった自己紹介かな」


少し離れて、右に住んでいるテレザさんにそう言うと……


「そ、そうでした!まだ自己紹介をしていなかったんですね!」


貴族たちがもういないからか、なんだか少し元気になっている。


「ははは、まあ。女王だの勇者だのでそれどころじゃなかったからな。じゃあ改めて、俺はギリェルメだ」


「テレザです、よろしくお願いします。あの、ギリェルメさん…」


テレザさんがまた俯いて、躊躇いがちに聞いてきた。


「契約のこと、ギリェルメさんは本当にいいのですか?魔物の場合は契約した人と一緒に戦うのですが」


(異世界のことは知らないから、単に俺に迷惑をかけていると思っているのか)


「もちろんだ。俺は知った上で契約をした。このままパーティーも組みたい、テレザさんはどうだ?もちろん、召喚されたにはテレザさんの命令に従うつもりだ」


これは全部本当だ。俺は自分のわがままで動くことが多い。でもこの件ではそうはいかない、俺の行動で彼女にも危険が及ぶんだ。


「私もパーティーを組みたいです!」


(本当に元気になっているな)


「でも学園のことは不安です。いきなり高位貴族のSクラスに入るなんて、少し怖い」


「そこは任せてくれ。勇者の称号は伊達じゃないさ」


(なんかカッコつけているが、彼女を守るつもりだ)


「じゃあ、まずはこれだ」


この15年、正しくは10歳になってからダンジョンに入っている。力はもうないが、それを補うためにマジックアイテムは色々と集めている。


制服の中で隠している収納袋から2つを取り出す。


「それは?」


「いきなり物騒かもしれないが、これは解毒のペンダントだ。寝る時でもつけてくれ」


「う、うん」


びっくりはしたが、理由はわかっているようだ。


「こっちの指輪だけど、これは色んな効果があるマジックアイテムだ。まあ、試した方が早い」


テレザさんに指輪を渡し、二人でベンチを立った。


「えええ!?ギリェルメさん、これは!」


「はははは」


指輪をつけたテレザさんは早速その効果を理解した。


この指輪はDランクダンジョンでハーピィからドロップしたものだ。


効果は少しの身体能力、魔力量の上昇、更には低レベルの風魔術付与。そして、浮遊能力だ。


テレザさんの背中には緑と白の翼が現れて、彼女は地面から離れている。


「能力上昇の効果もあるが、飛べることの方がメインなマジックアイテムだ」


「こんないい物を…本当に使ってもいいんですか?」


「もちろんだ。テレザさんは俺の召喚者だ」


(なんだか娘にプレゼントをあげる気分だ)


「それじゃあ、最後に召喚魔術を試そうか」


(これが一番重要だ)


「はい」


テレザさんは翼を隠し、俺から離れていく。


召喚者とその契約者には色んな能力が使える。まだ覚醒したばかりのテレザさんでは基本的な2つの能力しか使えないだろう。


「お?俺は出来ているよ!」


「はい、私も!」


一つは相手の居場所が分かる能力だ。離れたところからでもテレザさんの魔力を感じる。


「じょあ、やります!召喚!」


テレザさんがその言葉を言い終わると俺は彼女の目の前に現れた。


「おお、これはすごいなあ」


昔でも召喚獣に使っている人は見たが、自分で体験するとは思わなかったな。


「何かあったらいつでも呼んでね。っと、ここまでにしょうか」


あの長い入学式のせいでお昼はもう過ぎている。


「学食で食べてから寮に行こうか?」


「うん、私もそうした方がいいと思います」


寮の前には生徒たちが相変わらず待っているようだ。ここは時間を潰して散ってもらおう。





つづく

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