第25話 - 女王の御前
入学式が終わり、明日始まる授業のために俺は寮へ向かった。
わけにもいかなかった。
副長先生に案内され、俺とテレザさんは学院の広い廊下を歩いた。ここから女王陛下とご対面だ。
テレザさんというと先から黙りきりだ。それもそのばす、女王から直々の呼び出しなんて、怖くなってもおかしくない。
「テレザさん、大丈夫よ。君は何も悪いことをしていない」
「そ、それは…」
(まあ、そう簡単に落ち着かないか)
「2人とも。女王の前で決して無礼をしなように……首が飛ぶよ」
コンコン
2人の騎士がいる大きな扉の前に足を止まり、ノックをする前に先生がそんな物騒なことを小さな声で言った。
(この世界ではあり得るな…)
扉が開かれて、俺達は中へ入った。
中は大きな会議室で、長いテーブルがある。そのテーブルの反対側で青と白のドレスを着て、金色の長い髪の女性が座っていた。その右隣であの姫も座っている。
2人はもっとからそうなのか、少し冷たい表情をしている。
扉の近くには聖杖を召喚したジュリアさん、そしてその大きなテーブルの周りに25人の人たちが立っている。
差はあるが、大体の人は俺たちを見下ろすような視線を向けている。
テレザさんは女王を見て片膝をついた。俺も彼女に続く。
「女王陛下を待たせた自覚はないのか?」
謝って欲しいのか、扉が閉じられてすぐに男の一人がそう言った。
「すみません」
テレザさんは謝ったが、俺が黙っているのが気に食わなかったのか、他のヤツも文句を垂れた。
「平民ごときが金色のスキルに覚醒したと思えば、Dランクの下級生を召喚するとは、やっぱり宝の持ち腐れですね」
(平民でありながらBクラスで合格したテレザさんには驚いたが、こいつら、流石にウザいぞ?)
俺にはもう力はない、ここで暴れば殺されるどころか、テレザさんとその家族まで危険が及ぶ。
(それにしても、差別があるのは知っていたつもりだが、ここまでとは)
「そなた達、いつ話しても良いと許可した?」
「!」
「!」
そう言ったのは女王。その言葉に先の貴族たちは一気に黙った。
「二人も、立ち上がても良い」
俺とテレザさんは立ち上がり、ジュリアさんの隣に並んだ。
流石に女王の前に武器を持つわけにはいかないか、彼女の手に聖杖はいない。
「先ずはそなた達の素晴らしい召喚を祝福しよう。この学院にこれほど優秀な生徒が入ったのは国にとって何よりも喜ばしい」
「ありがとうございます」
「ありがとうございます」
「お褒めいただき、光栄です」
俺たちの返事の後に女王は続いた。
「そなた達を呼んだのはもちろん、その召喚についての話し合い。先ずはリセロット伯爵家の次女、ジュリア・リセロット………大きくなりましたね。リセロット伯爵と同じ気品の持ち主のようで、個人的にも嬉しい」
「へ、陛下~」
ジュリアさんの家の人は女王と親しいのか、彼女は俯いて言葉に困っているが、その顔はとっても嬉しそうだ。
「君をBランククラスからSランククラスへ昇格とします。明日から自分の得た力の使い方を思う存分に探しなさい」
「あ、ありがたき幸せにございます!」
彼女はまった嬉しそうに感謝をした。
(ドリルだからもっと傲慢な子と思ったが、結構素直な少女だな……ドリルだけど)
っと、冗談をしている場合じゃない。女王は俺とテレザさんへ視線を向けてきた。
「テレザとギリェルメ。そのた達には幾つかの質問に答えてもらいたい。……二人は本当にこの国の平民?」
今までより少し強い言葉で女王が聞いてきた。
(なるほど。俺たちが実は貴族か他の国の者かもしれないっと疑っているのか)
「は、はい!私は王都の南区にあるパン屋の娘です」
「俺も、西区に住んでいます」
「それでは、副長から聞いた通り、人が召喚された事例は一度も確認されていない。召喚についてもっと詳しく話してもらいたい」
(勇者召喚の一種っと思っているが、俺も詳しいことは分からないがな)
っと、俺が黙っているとテレザさんが俺の方を見てきた。
「それは………」
再び視線を女王に向けて、少し恥ずかしそうだが、彼女はこう言った。
「召喚の時、私は自分を守る勇者が欲しいっと願ったんです。そしたら、彼が目の前に現れて、契約も出来ました。知っているは本当にそれだけです」
(……………………)
「馬鹿なっ!?」
「勇者だって!?」
「そんなおとぎ話を信じるっと思っているのか!」
クソ貴族たちが騒いでいる。
(おとぎ話か、俺も母さんから聞いたことがある。この時代では勇者というのはおとぎ話の存在だ)
そいつらの怒鳴り声にテレザさんが怯えている。
「陛下。俺も同じく、彼女が詠唱を言い終わった瞬間に気づいたらステージの上に居ました。前に事例がないっと言いましたが、可能性はゼロではない以上、陛下が先ほど言った通りに彼女はこの学園、そして国にとって大事な存在になるではないでしょうか?」
出来るだけ怒りを顔に出さないように丁寧に言ってみたが、やっぱり敬語は苦手だ。
「貴様!誰に口を聞いている!?」
それでもだめだったか。あろうことか、貴族の一人が剣に手を伸ばそうとした。
「ッ!?」
俺は動かなかった。それは、その必要がなかったからだ。
「エイドリック侯爵、女王の御前で何の真似だ?」
近くに居た貴族3人が彼の首に剣を向けた。
(とんでもない奴らだ……)
今の俺ではまともにその動きが見えなかった。
(俺も頭に血が上ているな。これは俺だけの問題じゃない)
「そ、そんなつもりはない!どうか、剣を引いてくだい!陛下、ご無礼をお許しください!」
「陛下、俺も謝らせてください。平民生まれで敬語は上手く使えません」
「良い」
女王の言葉一つで状況が落ち着いた。
「君の言う通り、可能性はあるのでしょう。エルザ、鑑定を」
「はい」
女王は左後ろに控えていた女性を見て、そう言った。鑑定士か、その女性は俺たちを見てから、鑑定の魔術を使った。
「ステータスオープン」
すると、俺たちのステータス画面が空中に現れた。
=――――――――――=――――――――――=
【ステータス】
名前: テレザ
年齢: 15 種族: 人族
レベル: 7
称号: ――
【天恵スキル】
『金色スキル・召喚魔術適性』
【後天スキル】
『召喚魔術』『魔力察知』『魔力操作』
【ダンジョン攻略】
=――――――――――=――――――――――=
「レベル7か。新入生の基準は5だが、それ程離れていない」
「召喚スキルはちゃんとあるようだ」
「でもこの年で魔力感知と魔力操作を持っているのは凄いだな」
「特に変わったところはない」
テレザさんのステータスを見て、貴族が話し合っている。変に差別をしない人もいるようだ。
(さて、俺のは大丈夫かな)
=――――――――――=――――――――――=
【ステータス】
名前: ギリェルメ
年齢: 15 種族: 人族
レベル: 23
称号: 勇者
【天恵スキル】
『金色スキル・結界魔術適性』
【後天スキル】
『結界魔術』『盾術』『剣術』『体術』
『火魔術』『土魔術』『治癒魔術』『鍛冶術』
『筋力増幅』『気配察知』『魔力察知』『魔力操作』
【ダンジョン攻略】
・『Fランク』
・『Eランク』
=――――――――――=――――――――――=
(…………………勇者?)
「へ、陛下!!!」
「何だこれはッ!?」
「15歳の平民のレベルじゃない!」
「この年でEランクダンジョンの攻略!?」
「いやいやいやッ!?あなた達、見ていないのか!?称号を見ろッ!」
「まさか!!?」
今まで冷静だった貴族たちですら、これには取り乱した。
(レベルのことで反応するのは予想したが、問題ないと見ていた。確かに高いが、貴族の子供の少し上だ。頑張ったっと思ってもおかしくない。だけど、勇者の称号はなかったはずだ………)
「ギリェルメさん、すごい!」
(おう、テレザさんに褒められた)
「これは確かに凄いわね………」
女王までも席を立ちそのステータスを見た。
「勇者……テレザに召喚されたことで君は勇者になったというのか」
(これはちょっとやばいね。テレザさんの力で誰でも勇者になれるっとか思ったら危険だ。ここは誤魔化してみるか)
「いいえ、そうではないと思います」
「と言うと?」
「彼女は確かに俺を召喚しました。ですが、言葉通りに勇者を召喚した。作ったのではないです。自分で言うと信じられないかもしれないですが、俺は小さい頃から特別な力を持っています。スキルの数が多いのもその力のお陰で取得出来ました」
(言い訳がましが、少しでも彼女から注目を逸らさないと)
「成程、自分にはもとより勇者になる素質があったっと」
女王が真っ直ぐ俺の目を見てきた。姫もそうだが、深い瞳だ。
(確かに噓を混じっているが、大体は真実だ。目をそらさないようにしないと)
「いいでしょう。その称号を持っているのなら、それはスキルと同じく天から貰ったもの。よて、君もこの学園へ歓迎しよう」
完全に信じていないようだが、女王は立ったままそう言った。
「だけど、勇者……その言葉はあまりにも重い。君を他の生徒と同じ扱いをするわけにもいかない。Sランククラスへ通ってもらおう。もちろん、君の召喚もね」
「私も……」
テレザさんは流石に戸惑っているが、これは仕方ない。勇者の召喚をした時点で目立つのは避けられない。なら流れに乗って、あまり逆らわない方がいい。
(今は)
「そして、もう一つ。君たちには特別な授業を与えよう。明日に学園側から説明をさせてもらう」
「分かりました」
「それでは、今日はこれにて解散にしよう。君たちも疲れているでしょう、明日の授業に向けて休んでなさい。副長、4人をSクラスの寮へ」
「はい」
(4人?)
女王の言葉を疑問に思っていると、最後まで何も言わなかった姫が席を立った。
「それでは、姉上。また後日に」
「ええ。学園での生活を楽しんでね、オルガ」
二人は優しい笑顔で別れの言葉を言った。
「では、行きましょう。陛下、失礼します」
そうして、俺たちは先生の案内で会議室を出た。
つづく
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