第22話 - 光、そして、声




数日後。


ダンジョンの入り口にある泡みたいな半透明の結界。それが目の前に広がるこの大きな森全体を守っている。


中央大陸にある最古の国、ミリアード王国。この森の中にその王都である、エルフの里が外の世界から隠れている。


俺好みの幻想的な話だが、もう頭の中にはあのメッセージのことしかない。


結界に触れて、手が通したのを見た俺は結界の中へ入ってまた走り出した。


(こうなっているのか)


結界の外からは森しか見えなかったが、中では巨大な都市が見えてきた。流石に走りながら近づいたら騒ぎになると思って、近くまで来ると俺は歩きながらその都市に入るための門へ向かった。


「貴殿がギリェルメか」


(ん?)


「ああ、俺だ」


俺が着くと、門番から声をかけた。


「巫女様がお待ちしております、こっちらへ」


門番はそう言って、丁寧に街の中に控えていた馬車へ案内してくれた。


走り続けて汗をかいたから、その豪華な馬車に入るにはちょっと気が引けたが、門番にも御者にも特に気にする素振りはない。


そうして、十数分の移動で馬車は巨大な木の下に着いた。


(これは巨大なんてもんじゃないなあ)


何百メートルも高いその大樹は都市の外からでも見えたが、近くではその迫力が違う。


馬車から降りた俺は一人のエルフに案内されて、その大樹の近くまで来ていた。


「さあ、ギリェルメ様。世界樹に触れてください」


(世界樹ってやつだったのか)


疑問を抑え、言われた通りにその世界樹に右手を伸ばした。


「うお!」


すると、転移魔術か何かで俺はテレポートされた。


「ようこそ、ギリェルメ様」


現れた場所はなんと、あの空間みたいに真白な部屋だった。そして目の前にこの世界の巫女であろう、白と緑を合わせた服のエルフの少女が居た。


「君が巫女か」


「ええ、でも私のことは気にしないでください。私は君に女神たちの声を届けるだけのためにここにいます」


俺がその言葉に頷いたのを見て、巫女さんはまるで瞑想でもしているように目を閉じた。


その様子を見ながら俺は静かに待っていた。やがて……


『ギリェルメさん、私はシェイラ、三姉妹女神の一人です』


「お、おう……」


巫女さんは口を閉じて、何も話していないが部屋に声が響いた。


(おお、これが神々しいってやつか、綺麗な声でびっくりした)


『他の二人も聞いていますけど、私だけが話をします。ですけど、長くなるとこの子に負担が掛かりますので、説明、そして君の質問を一つだけ答えます』


「ああ、分かっ、分かりました」


(敬語ってあまり分からんが、使おうか)


『君が死に戻りと呼んでいる力のことはいつか話しましょう。今は魔王を討伐してくれて、ありがとうございましたっと感謝させてください。君と勇者たちのお陰でこの世界はいい方向へ向かうことが出来ました』


「いいえ、俺もこの世界を好きになりましたのです。自分の世界のためっと思っています」


『ふふ、そうですか。それでは、話を進みましょう。先ずは君から一つの質問をしてください』


(質問か、死に戻りはまたなら……)


「どうして俺をこの世界へ召喚したのですか?」


『君をこの世界に召喚したのは私たちではありません』


「……………………は?」


(……………………は?)


……………………は?


ポカーンって今、俺がしている表情のことだろう。


『すみません、そのことに関してもまだ君に話せません。ですが、君の夢と関係しているっとだけは言いましょう』


「!!」


夢。その言葉一つで俺は女神の言葉を受け入れる。


『ギリェルメさん。私たちは君の夢が叶うかもしれません場所を知っています。ですが、今まで通り、それは君自身の手で掴むしかありません』


その言葉に気持ちが引き締まり、そして胸が高鳴り始める。


「それは、もちろんです」


(自分の手で掴むしかない、俺の夢はそういうものだ)


『覚悟はあると思いますけど、確認をさせてください。その場所に行けば君は今までのものを全部なくします。レベルもスキルも、そしてこの世界の人たちとはもう会えないかもしれません。それでも、君は行きますか?』


「ッ!?」


その言葉に俺は思わず泣いてしまった。


(レベルもスキルも力もどうでもいい。だけど………もう、ここの人たちと会えないのか………)


この死に戻りの繰り返しで俺は色んな人と出会えた。毎回俺のことを忘れているけど、それでもその人たちと人生を過ごすのは楽しかった。特にあの孤児院の人たち、ましては子供たちにはみんな俺がお父さんになる!っと何度も思った。


それを全部なくすのか………


「ふううぅ……………」


大きな息を吐いて、喉が痛くなるくらいに泣きたい気持ちを吞む。


「行きます!」


(俺は止まらない!)


胸が痛い。だが、俺は行く。

顔が真剣なものになって、決断は下したのに、涙だけが流れ続けた。


そんな俺の言葉に応えるように部屋の光が少しずつ強くなり始めた。


『分かりました。ギリェルメさん………質問は答えない形になりましたのですから、君に一つ伝えましょう。あの子たちは大丈夫です。私たちの名前を持つ孤児院、もちろん大事にしますよ』


今まで以上に優しい声で女神がそう言った。


「女神さん、ありがとうございます!」


『さあ、ギリェルメさん、行きなさい』


女神の声で俺の意識が途切れ始めた。


『いい人生を』

『いい人生を』

『いい人生を』


最後に聞こえたのは女神と一緒に響いた、違った二人の声だった。











ここから、俺の夢が始まる。



















◇◇◇◇





































………………………………………









……………………………………









…………………………………








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……………………………

…………………………

………………………

……………………

…………………

………光……

……………

…………

………

……








「あら、こんな朝から誰でしょう?」


まだ開店していない店の扉がノックされて、一人の女性が中から出てきた。


「あれ~?はあ~ 子供のいたずらだったの~?」


そこには誰もいなかった、だけど……


「ん?っ!?まさか!?」


ため息をついて、女性は扉を閉じようとしたが、ついにその存在に気づいた。


「どうして!?」


扉の前の地面に、小さなかごの中で一人の赤ちゃんが静かに寝ていた。






つづく



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