第21話 - 強欲
「ねえ、なんか凄い顔してるけど……」
「………………………………」
呪い。
(俺は、呪われているだろうか?)
また戻った。
魔王も討伐されて、完全ではないが世界は平和へ向かおうとしていた。
それなのに、俺だけが戻った。
(女神は俺に何を求めているのだろう?)
同じ時間が流れ、またしても天恵スキルをもらえず、あの荷物馬車でグレッグさんとの会話も終わり、また自分のテントにいる。
111歳。この死に戻りの年月を加えれば今の俺はもう100歳を超えている。
「どうすればいいんだ?」
魔王をした討伐後でも、女神たちからメッセージ一つも来なかった。
(魔王討伐が目的じゃない?)
ここで頭に浮かんだのはあの考えだった。
(女神たちは俺は自由と言った。魔王と闘わなくても勇者たちは魔王を討伐するって。………俺が関わったから?……いや、関わるのも俺の自由とも言った……)
「だったら何だ?」
(………………………)
"頑張りなさい"
「いや………まさか………何でだ?理由は?」
関わるのも関わらないのも俺の自由、女神たちはそう言った。だが、俺が関わろうとして死んだ時に、一度だけメッセージ一が来た。
自由。そして、頑張りなさいっと。
「いいのか……こんな解釈をして?」
俺の自由を、女神たちが応援した。
そんな解釈をするなら、この死に戻りは魔王討伐だけのためじゃない。
そう………俺のためだ。
「なんて自己中な考えだ」
(だが、今更だ)
俺はやるぞ。やってもいいなら、いや、ダメだとしても俺はやる。
「やりたいことをやるぞ!」
俺は魔王が討伐されて嬉しかった。
だけど、別にそいつの討伐が俺の生きる意味じゃない。
(そんな生きがいを持ってたまるか)
だけど、俺の望むものには手が届かないと思った。だけど、俺はやっぱり止まらない。100年以上も生きているのみ俺はまだ生きたい。
貪欲。
この日から、俺は本当の意味で自分の夢を探す旅に出た。
◇◇◇◇
10年後。俺は失敗した。
旅に出た俺は勇者パーティーに入らず、目的のためだけに動いた。
その目的は、魔王のソロ討伐。
だけど、100年の経験を持っても俺は届かなかった。だから陰からも勇者たちに協力して、みんなで魔王を倒した。残念、なんて言えない。魔王が死ぬのはこの世界にとっていいことだ。
だけど、俺は自分の手で奴を倒したい。そしてもう死んでいるそいつを倒すのは、またあるかどうかも知れない次の死に戻りの時だけだ。だがそんなものを完全にあてにするつもりはない。例え何度も繰り返しても俺は目の前の人生を全力で生きる。
そのためにも俺は自分をひたすらに磨いた。
60年後、俺はまた死んだ。
………
……
5回目。
この回の魔王討伐後、俺は魔術だけを研究した。だが、それほどの成果はなかった、魔術の奥は思ったより深かった。
6回目。
今度は騎士団に入り、色んな武具や流派を試した。才能云々は兎も角、俺はやっぱり盾と剣を愛した。
7回目。
……俺はSランク勇者パーティーの一つに入った。この動きが大きかったか、今までなかったことが起きた。アリシアさん。孤児院の関係で大体の人生で彼女と会っているが、今回は彼女からある物の居場所を教えてもらった。
……俺は何かをする度に教会を訪れるようになった。Aランクになった時、勇者パーティーに入った時やダンジョンを100回攻略した時とか。もしかしたら女神たちからのメッセージが来るっと、報告みたいな感じで足を運んだ。たが俺も勇者パーティーの一員、そのことが噂として国中に広めるのは時間の問題だった。
そしてなんと、アリシアさんもその噂を聞いて、俺が三姉妹女神の熱心な信徒と勘違いしたらしい。
そして彼女から教えてもらったのはとある神殿の居場所だ。三姉妹の最初の神殿で、そこで女神の神託を受ける巫女が居るっと言われたが、俺は入ることができなかった。何せ、それはエルフの国にあるからだ。
この世界のエルフたちは普通に人間と交流をしているが、国の真ん中にある王都だけは不思議な結界に守られて、選ばれた人しか入らない。
アリシアさんは入ったことがあるそうだが、詳しいことを話すのは禁じられているそうだ。
その情報を得てから俺は死ぬまで何度も試したが、入ることは叶わなかった。
……
…
そしてこの人生で、俺は初めて魔王を見た。奴は絵の通りに身長5メートルくらいの黒竜だったが、俺はあまり覚えていない。それは、こいつを見た時に怒りしか浮かなかったからだ。
何百年も生きているこの世界を、俺は好きになった。だからこの世界の住民と同じく、こいつはただただ憎い。
そいつと直接に戦ったのは俺、そして勇者たちを含めた50人。他の人は周りにいる魔物たちを抑えていた。
魔王は地上最強の敵だが、どの人生でも勇者たちが勝った理由がついに分かった。その理由とは虹色の天恵スキル。
昔は長かったと感じた10年だが、今はただ10年でここまでの力を手に入れるのかっと恐ろしくとすら感じた。
その戦いで俺達冒険者と騎士団は魔王の動きを封じて、勇者たちが攻撃をした。それを繰り返し、ついに初めて魔王の死に立ち向いた。
◇◇◇◇
15回目。
ここまでの繰り返しで、俺はSランク勇者パーティーと一緒に魔王と戦ってきた。だがその度に俺の立場が上がり、この回で俺はパーティーリーダーになった。
またしても10年。最終戦の時が来て、俺たちは魔王を倒した。だが……
16回目。
それでも俺の死に戻りが続いた。でもこの回から変化が増えた。俺の望む変化をだ。
魔王を倒し、俺たちは山を下りた…400人で。
20回目。
あれから魔王との戦いで犠牲になるメンバーが段々と減っていた。それを見て、俺は泣くくらい嬉しかった。
23回目。
犠牲者……0だ。
魔王を討伐して帰ってきた俺たちは奇跡の勇者と言われるようにのなった。そして、俺はついに決断をした。
25回目。
1259歳。
俺はついに魔王のソロ討伐へ向かった。まずは勇者パーティーに入らず、最終戦の前に黒山、魔王の根城を登った。
今までこれをしなかった理由はもちろん力不足でもあるが、もしも失敗して魔王が予測出来ない反撃をしたら被害に合うのは世界中の人たちだ。
………
……
「愚かな人間が…やれ」
(クソ野郎、こいつらを仕掛けても殺すぞ)
クソ野郎こと、魔王は周りの配下を俺に襲うように命令して、その様子を見ていた。俺を警戒しているようだ。
勇者たちとの戦いで魔王が言葉を話せるのは知っている、だが話すことはない、殺すだけだ。
…………
………
戦いの決着は早いものだった。
何せ、1000年以上もこいつの倒し方を探しているからな。
簡単に他の魔物を倒す俺を見て、奴は警戒していたことは正しいと分かった。俺が3体のSランクと戦っていると、魔王は不意打ちとばかりに最大火力の黒炎の息吹を放った。
(今だッ!)
それが狙いだ。
自分の実力を見せたのは奴のこの最大の攻撃を引き出すためだ。もちろん、現実は比べ物にならないくらいに複雑だが、俺はゲームのようにこいつの行動パターンはいろいろと知っている。
そして俺だけじゃなく、他の魔物もが息吹の炎に巻き込まれた。だけど、そこで俺は反撃の準備を始めた。
マジックアイテムである盾を体の前に構う。その盾の周りには結界が広がり、俺の体を守ってくれた。だが、それも一時的なものだ。レアなアイテムではあるが、地上最強と言われているこのクソ野郎の攻撃で結界に少しずつヒビが入ってくる。だけど、俺もこれで終わったわけじゃない。
(…………)
気取られないように静かに炎の中で魔力を集める。その魔力が凄まじい速度で空中に浮かび、山の中から砂鉄を吸い込んでいく。やがて、その塊が3つの巨大な槍の形になった。
これは高位土魔術だが、その見た目も効果も地味なものだ。ただただ素材を集め、壊れない槍を高速で放つ魔術。
(だがこれでいい)
魔王の鱗は頑丈で、虹色スキル以外の攻撃じゃまともに傷を与えない。だからこいつを殺すには防御を貫くことに特化した攻撃が必要だ。
「ふう……」
そして息吹が途切れる前に3つの槍を完成し、盾を必死に抑えていた俺は炎の向こうで立つ魔王の気配を頼りに、ついに槍を放った。
(アダマントススピアーッ!)
「――――ッッッ!!!!」
その瞬間、爆発が起きた。
山の頂点にはまるで火山の煙のように埃が高くまで巻き上がり、視界を閉ざした。
それと一緒に音が消えた。
俺は落ちてくる埃の中を歩き、その終わりを待っていた。
「………」
埃が消えて、開けた視界に入ったのは魔王…
3つの風穴が開いた魔王の死体だった。
「これが死んでいることにすら気づかない
ってやつか?」
あの爆発を起こしたのはアダマントススピアーのあまりの速度だ。魔術を発動した時、まるで瞬間移動でもしたように槍は魔王の背後に居た。
「さて、どうなるか――」
=――――――――――――――=
おめでとう。
さあ、エルフの里へ行きなさい。
あなたの夢が待っているわ。
=――――――――――――――=
「ッ!!」
俺は走り出した。
こんなに早く走ったことはない。残りの魔物にも構わず。目的地へ一直線に駆け出した。
つづく
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