第19話 - 最終戦




3回目のやり直し、10年後。



黒雲に隠れて、頂点すら見えない巨大な山を見上げる。


「10年………」


「ギリェルメさん、みんなで終わらせよう」


俺のつぶやきに答えたのは真田、Cランク勇者パーティーのメンバーだ。


あれから村を出て、もう一度アクロスの町で数年を過ごした俺はレベル60になり、その後はトレジャー王国の王都へ引っ越した。


それは王都では勇者パーティーに入るための試験が行なわれていたからだ。


複数のパーティーに分かれた勇者たちだが、力があっても、この世界の知識と戦闘経験がない。その指導、そして監視のためにも国が冒険者や騎士団から適材を選抜して、パーティーに入る資格を与える。


勇者たちのパーティーにも力の差はあるが、一番弱いパーティーでもCランク。

そのCランクに入るための条件はレベル60、Cランクダンジョンソロ攻略の実績、そして王都に行われている筆記と実技試験の合格。


俺もこの厳しい試験を乗り越え、無事に枠が残っていた勇者パーティーの一つに入ることが出来た。


ちなみに、王都に着いた時にある情報を手に入れた。実は、召喚された勇者はあの白い空間に居た学生たちだけじゃなかった。勇者召喚の魔術は俺たちの世界だけじゃなく、この世界でも勇者になる素質を持っている人たちをも召喚する。


そした知ったのはこの世界で選ばれた13人の勇者たちの中には5人が虹色スキルを持っていることだ。


どうやら、俺の異世界転移物語では現地勇者が強かった。


っと。


(……戻ったか)


考え事をしていると、前方から俺たちのパーティーの斥候が戻ってきた。


「見つけた」


俺たちは今、魔王が住む山の麓にいる。

10年。俺にとっては20年以上の年月をかけ、ついに魔王を討伐する時が来た。


パーティーに入ってから、俺たちは国の命令で魔物の襲来に苦し村などを守るために大陸を旅した。その数年の戦いが力になり、勇者たちみたいに高ランクスキルは持っていないが、レベルは85にまで上がっている。


そんな戦いの日々が成果を成して、人類の軍勢は魔王の拠点まで辿り着いた。


「エンリケさん、敵の集団はここから2キロメートルにある。見つけたのは200体のCランクゴーレム、そしてリーダーと思われる3体のBランクのラヴァゴーレム」


「よくやった、休んでおけ。他の人は準備しろ、30分後で移動だ」


斥候の報告に答えたのはAランク冒険者でパーティーリーダーのエンリケさんだ。


その言葉に俺を含め、10人のパーティーメンバー、そして140人の兵士たちが戦いの準備を始めた。


魔王討伐最終戦。

魔王を討伐するのはもちろん、俺たちではない。太陽を隠し、目の前にそびえ立つこの巨大な山の周りには森が広がっている。その森に魔王の影響を受けて、強さと知能の高い魔物たちが潜んでいる。


魔王が住む山の頂点に辿り着くには魔物だらけのこの森を超え、そして数日はかかる長さの山道を登らないといけない。


だから魔王の討伐を任されているSランクパーティーの力を温存する為に、道を開ける任務はC~Bランクの勇者パーティー、そして世界中から集められた冒険者と各国の軍が背負ている。



◇◇◇◇



一週間後。

苦戦しながらも出会た魔物を殲滅し、俺たちはついに魔物の森を抜けて、山に入る一歩手前の場所に辿り着いた。


森で安全な道を確保した俺たちの部隊はここで拠点を作り、後から来る高ランクの勇者たちの到着を待っている。


そして、拠点が出来て三日、各国の旗を掲げながら500人の集団が森から現れた。


高ランク勇者たちと世界屈指の精鋭たちだ。


俺たちの働きの成果を示すように、大きな傷を受けた人は一人も見当たらない。だが喜び合うにはまだ早い。勇者たちは拠点で二日だけ休んで、すぐに山に入った。


残された俺たちの部隊は500人の背にエールを送りながら、心でその無事を祈る。


俺は絵でしか見ていないが、この世界の魔王は巨大な黒竜だ。そいつだけでとんでもない強さだが、あの雲の向こうには何体のSランクの魔物も潜んでいる。勝利を掴んだとしても、この500人のうちからどれだけの人が戻るかは分からない。


だから、これから俺たちに出来るのは戻った人を無事に受けるようにこの拠点を守ることだけだ。


「………」


(俺にもっと力があったら………)


女神たちのお陰で2回も生き返ったのに、そんな罰当たりな思いを心の中に隠し、俺も勇者たちの無事を祈った。




◇◇◇◇




更に一週間。

勇者たちの軍勢が山に入ってから、その激戦を語るように周りに響くのは地面をも揺るがす魔物たちの咆哮。


それが段々と上から聞こえるようになり、目的地に近づいているのが伝わってくる。だが、一週間が経った頃に音が聞こえなくなり、俺たちは不安を感じながらも静かに待っていた。



◇◇◇◇



そしてある日、静寂の中、黒雲を切るように一筋の光が空を走った。


知っている。ここにいる全員、その光の意味を知っている。


あれは勇者が持つ聖剣の攻撃だ。


「戦っている………魔王と」


山を囲むように、数万の人の軍勢。

祈る人、叫ぶ人、泣く人。

その全てが戦いの終わりを待っていた。





◇◇◇◇






4日後。







「う、うおおおおおおおおおッ!!!!!!」

「勝った!勝ったッ!勝ったッ!勝ったあああああ!」

「勇者様ああ!!!!」

「道を開けろ!!王様が通るぞ!!」


……………勝った。


(勝った……勝った。勝ったぞおおおおおおおッ!)


光が止まり、戦いが終わったのは4日前。

勝ったのは勇者たちか、魔王か、俺たちは希望を胸に結果を待っていた。


そして今日、ついに山から人が出た。500人中、半分だけ残っているその軍勢を見た時に俺たちは思わず膝をつきそうになった。


だけど、遠くでも分かる。

俺たちに向けて静かに歩く者たちは………勝利を示すように各国の旗を高らかに掲げて、笑っていた。





つづく



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