第14話 - 誰かのために勇気を出す者
「もう8年かあ……」
今日でこの不思議な世界に転移されてから8 年。
最初は戸惑っていたが、勇者たちと一緒に戦うのを目的にして、このトレジャー王国を目指した。
だけど勇者たちとの実力差を見て、1人で強くなろ為に……もしくは、逃げる為にこのアクロスの町に身を隠れた。
魔王や魔物たちと戦うのは勇者たちだけじゃない。騎士団や他の国の軍も戦っている。当然、その中で俺より弱い人も居るんだ。
だから、強くなるためと言って、この町な居続ける俺はただ逃げているんだっと思うようになった。
(異世界無双もクソもない)
力があったとしても、俺は戦いに出たのだろうか?
最近そんな疑問がよく頭に浮かぶ。
それでも、俺は止まらない。
今日はもう一歩を踏み出すため……Cランクダンジョンに挑戦をするために新しい装備を買いに町へ出た。
◇◇◇◇
装備は専用の物を作るために数日はかかる。挑戦前の休みがてら、町の宿に滞在することにした。
滞在中にアメリアから聞いたが、数日前からアリシアさんが依頼に出て、今も町に居ない。詳しくは知らないようだが、結構大きな依頼とのことだ。
そんなこんなで、今日で装備が完成された。
今は店にある鏡の前に立ち、自分の姿を確認している。前は革鎧一式を少しイジった物だったが、今着ているのは革の中に鋼鉄のプレートを入れた鎧だ。一番気に入っているのはミスリルで出来ている左手のガントレット。
俺は主に盾と剣で戦うが。盾なしの時は左手のガントレットを変わりに使うから、そのために他の装備よりいい素材を使ってもらった。
(まあ、ミスリルは高くて表側だけになったがな)
確認と支払いも終わり、鍛冶屋を出た俺は新しい装備を試すために森へ向かった。
「ギリェルメさん!!!」
だけど、その途中で背後からアメリアさんに呼び止まれた。
「アメリアさん!?どうしたんだ!?」
普段は穏やかでいつも落ち着いているアメリアさんが転びそうになるのも構わずに俺のところまで走ってきた。ただならぬ事態を察し、俺も向かいに行き、彼女に何があったのを聞いた。
「ギリェルメさん!助けてください!ミリアンが消えたんです!」
彼女を落ち着かせ、もっと詳しい説明をしてもらった。
ミリアンというのは孤児の1人だ。年長者でもあるその子はいつも他の子の世話を手伝っている優しい少女だ。アメリアさん曰く、朝起きたら既にその子が孤児院から出たそうで、部屋を見に行ったら1つの手紙だけが残された。
(どういうことだ?孤児院の人たちはみんな優しいんだ、自分から出る理由はあるのか?)
そう思って、アメリアさんが持ていたその手紙を読んだ。
『アメリアお姉さん、今までありがとう。でももう大丈夫、アタシはもう自分で生きることが出来るの。冒険者になっていつかみんなの家を作る!さよなら』
「ふう……」
俺は一応落ち着くことにした。
これは家出だ。元の世界もヤバいことだが、ここではそれ以上に洒落にならない。ましては冒険者になるだなんて、知らないところで死んでもおかしくない世界だ。
「アメリアさん、俺の言う通りにしてくれ!まずは騎士団のところに事情を話し、探すように言ってくれ。その後は冒険者ギルドで依頼を出してください。報酬は探しに出る人には金額5枚、見つかった人には金貨500枚だ。分かった?俺は町の外の門番たちに聞いてくる!」
そう言って、アメリアさんに金貨がある袋を渡し、彼女が頷いたのを見てから俺は走り出した。
(アメリアさんは既に冒険者ギルドで探していた。ミリアンは登録をしてなかったから、他の町でやるつもりだろう)
◇◇◇◇
「ああ、確かに今朝に門を出る女の子は見たよ。なんだて薬草を取りに行くって言ったと思う」
町の各門を回し、西の門番に聞いてみたら予想通りに外に出たようだ。この町に入るには身分証を使うが、出る時には必要ない。俺は事情を話し、門番は他の兵士たちに捜索を頼みに行った。
彼らが馬で街道と草原を探しに行き、そして俺は念の為にその周りにある森を探した。
◇◇◇◇
あれから8時間が過ぎた。
日も落ちて、今は松明を手に暗い森を1人で歩いている。
町に何回は戻ったが、まだミリアンは見つけていない。幸い、破格の依頼報酬の成果もあり、探している冒険者の数が多い。だから町の周辺と街道をそっちに任せ、俺はもっと森の深い場所を探すことにした。
(ミリアンは賢い子だ。アメリアさんが自分を探しに来るのは分かっただろう。森なら見つからないっと思ったかもしれない)
そう思い、俺はさらに森の奥へ進んだ。
幸い、この森に強い魔物はない。だがまだ子供のミリアンには森の野生動物でも危険な存在だ。
「!?」
何か聞こえた。
右前方から音を聞いた俺はその方向に進みながら気配察知に集中した。
「っ!!見つけた!!」
小さな気配を察知した俺は一直線にその子のところへ走った。
「ミリアン!こっちだっ!ギィさんだ!こっちに来い!」
その気配の方向へ必死に叫んだ。
どうしてかというと、それは彼女は何者から逃げているからだ。
「ギィさん!」
「後ろに下がって!」
茂みから出たミリアンを下がらせて…
「ッ!」
次に茂みから飛び込んだそいつの首を剣で吹っ飛ばした。
「ふぅ……」
松明の灯りに照らされて、足下まで転んできたのはゴブリンの首だった。
ゴブリン、Dランク認定。その中でも弱い魔物だが、人を殺しに来ているのは変わりはない。そして幸いというべきか、この世界のゴブリンは女性だけを狙うということはない。それでも躊躇いもなく人を殺すクズだ。
「ミリアン、大丈夫か?怪我はないか?」
「うん、大丈夫。あのゴブリンに見つかって、逃げていたらギィさんの声が聞こえたの。ギィさんっ、ごめんなさいっ!アタシ!アタシっ!」
どうやら怪我はないけど、流石に怖かったか、ミリアンは泣きながら力強く抱きついてきた。
だけど………
「大丈夫だよミリアン、怒っていないさ。だけど、1つだけ聞いてくれる?」
俺ミリアンを抱き上がり、出来るだけ優しい声でそう言った。
「ギィさん?どうした?」
少し開けた場所に移動し、そこにあった大きいな木の上に登り、ミリアンをその上に下ろした。
「他の魔物が来ているんだ…」
「っえ!?」
「いいか、何が起きてもここから降りちゃ駄目だ。声も出しちゃ駄目。約束出来るか?町の騎士さんもすぐに来るんだ。大丈夫よ、俺が守るさ」
彼女の上に自分の外套かけて、その上に枝や葉っぱを置いた。
(もうすぐだ)
ミリアンに最後の声をかけ、地面に降りた。
「ふぅぅ……はぁぁ……」
遠くからの気配がだんだんと近づいてきた。
ミリアンを見つける前、最初に聞こえた音はゴブリンの咆哮か何かだった。
あれはミリアンを怖がらせるためと思ったが、すぐに違うと分かった。
次から次へと察知に引かかる気配。
あれは仲間を呼ぶ声だった。そして今、大勢のゴブリンがここへ向けている。
ミリアンをおんぶして、逃げると思ったが、なんだかすごい速さで来ているヤツがいる。
(ここで死ぬのかなあ、俺?)
そんな考えが頭に浮かぶが、俺は以外に冷静だった。
(守る!守る!守る!守る!守る!守る!)
そんな考えを消すように頭の中でそれだけを繰り返した。
ミリアンが隠れている木を背に、俺は静かに剣と盾を構えた。
つづく
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